〜桜和 椿(37)〜

 当てもなく飛び出したせいで、私は途方に暮れていた。これからどうするか思いつかなかったが、とりあえず陽が落ち切る前に私服に着替え直した。絶対バレないとは思っていないが制服で歩くよりはずっと良いだろう。とはいえ、問題は解決していない。家に帰りたくはないが、いくあても無い。ネットカフェやカラオケなどに行けばいいかとも思ったが、高校生は22時以降は退店しなければいけないらしく泊まることができない。

 どうにか寝るところを確保しなくては。

 最悪外でも、と考えもしたが何が起こるか分からない上に、警察に見つかる可能性もある。

「とりあえず限界まで、ネットカフェにいるか・・・」

 寝る場所はそこでゆっくり考えよう。今は、とても疲れた。


 今日、一日。走ったり叫んだり、イライラしたりで体力的にも精神的にも限界だった。疲れ切っているせいかまともに考えることができない。

 これからどうやって過ごしていこうという思いと同じくらい、もう、この先どうなってもいいと思っている自分がいる。これじゃとてもいい判断ができるとは思えない。

 ネットカフェで少し寝よう。それからまた考えよう・・。

 重い足を引き摺るように動かしながら、目的地までゆっくりとした足取りで歩く。


 人工的な明かりに照らされた街を女子高生が一人ふらふらと歩いている。これじゃまるで__________________

「本当に不良みたい・・・」

 椿の自嘲した笑いは誰にも拾われることなく、夜の街に溶けた。



 ネットカフェに着いてようやく腰を落ち着けることができた。軽く夜ご飯を済ませるとようやく冷静に頭が回るようになってきた。

「この後、どうしようかなぁ・・・」

 持っていた携帯の電源はここに来る途中で切った。両親からの着信が鳴り止まなかったからだ。何気なく一時間ぶりに携帯の電源を入れると両親からの着信が百件、メールが三百件近くになっていた。内容は、見る気になれなかった。その通知の中に薬立さんからのメールもあった。開いてみると。


「桜和さん大丈夫?」

「何かあるなら、なんでも言ってね!私に出来ることがあるかは分からないけど、力になりたいと思っているから!」

「話したいと思ってくれるなら、いつでも聞くから!」


「薬立さん・・・」

 辿々しさを感じる文面が私には有り難かった。口下手な彼女のことだ。きっとたくさん考えて送ってきてくれたのだろう。苦しさが少し消えるのを感じる。何か返信をしようと思ったが、指が思うように動かなかった。

「はぁ・・・」

 結局返信はせず、もう一度電源を切った。

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