〜桜和 椿(36)〜

「お父さん・・・」

「リビングに入りなさい」

 父の視線から逃げられず、渋々リビングに入った。

「おかえり。椿」

「お母さん・・・」

 リビングには母も居た。二人が揃っているなんて・・・。いい予感はしなかった。

「座りなさい。話があるから」

 父に座るように促され、父と母に一足遅れて座った。

 こうしてテーブルを囲むのはいつぶりだろうか・・・。


「こんな遅くまでどこに行っていた?」

「別にそんなに遅くないじゃん・・・。まだ17時前だし・・」

「12時前に学校を出たと聞いたが?」

「えっ・・・」

「30分ほど前に担任の先生から聞いたんだ。授業中に突然出て行ったって」

「私達、連絡に気づくのに遅れてしまったの。先生は何度も連絡を下さっていて、話を聞いて急いで帰ってきたのよ。家に帰ってもあなたは居ないし、色んな人達が心配したのよ」

 なるほど。西方先生から情報がいったのか・・・・。


「それに、進路調査の紙を提出していないらしいな」

「それは、お父さん達、居なかったし・・・」

「メモのでも残してリビングに置いておくなり、方法はあっただろ?」

「・・・・。」

「・・・まあ。いいそれよりもっと聞きたいことがある」

 険しかった父の顔がさらに硬くなったのを見て私はその先の言葉が分かってしまった。

「椿。お前度々学校や夏期講習を休んでいたって本当か?」


 最悪の事実がバレていることが________。


「椿、どうゆうことなの?先生の話だと一回や二回じゃないみたいだし、あなた体調が悪くて休んだわけじゃないわよね?学校をサボって遊んでいるって噂もあるって聞いたけど、本当なの?」

「そ、れは・・・」

「どうなんだ。椿、答えなさい」

「・・・・。」

「無言は肯定と受け取るがいいのか?」

「・・・・。」

「そうか・・」

「椿・・・」


 何も言わない私に両親は察したように溜息を吐いた。

「なんでだ?」

「・・・・。」

「どうして、学校をサボった?」

「先生も言っていたが、こんなことでは医者になった時に困るぞ。将来のためにも今からきっちりしておかなければ患者さんに迷惑がかかる。それでは立派な医者になれない」

「ぃ、ゃになん、____なぃ」

「何?」

「い__になんてならない。」

「なんだって?はっきり話しなさい」

「私は医者になんてならない!なりたくない!!」

「椿・・・?」

「何を言ってるんだ!今更。今まで医者になるために勉強を頑張ってきたのに・・」

「私は!一度だって医者になりたいなんて言ってない!!」

「そう、だけど。なりたくないとも今まで言わなかったじゃないか。そう思っていたなら、何故私達に言わなかったんだ!」

「・・ふっ。言ったらお父さん達は聞いてくれたの?」

「当たり前だろう。私達はお前の親なんだから」

「ははっ。いつも仕事仕事で、家にろくに帰ってこないのに。どうやって私の話を聞くの?入学式も、授業参観も、家政婦さんに丸投げで私とお父さん達が一緒に過ごすことなんてなかったようなもんなのに!」

「椿・・」

「こんな時ばかり、都合よく親みたいな顔しないでよ!!!」

「椿!!」


 私は鞄を引っ掴んで家を飛び出した。お母さんの呼び止める声を振り切って私はもう半分陽が沈んで暗くなっている道を直走った。


 頬に伝うものは汗か、それとも__________________


 もうすぐ完全に陽が沈む。夏が終わったみたいだった。

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