〜桜和 椿(14)〜

「料理楽しみだね!」

「そうだね」

「できるまで、買ったグッズ開ける?」

「いいね。あっ!でも、お店で開けてもいいものなのかな・・・?」

「そうだね。確認してみようか。ちょっと聞いてくる」

 席を立ってカウンターに向かうと、店員さんは野菜を切っていた。ナポリタンの具材だろうか。隣には水に入った大鍋が火に掛けられている。私が来たことに気づいた店員さんは手を止めて顔を上げた。

「どうなされましたか?」

「あの少し私物を広げてもいいでしょうか?」

「私物と言うのは、どの様なものでしょうか?」

「えっと、映画館で買ったグッズなんですけど、・・。缶バッジなどを開封したくて・・・。ご迷惑でしたら、やらないので。申し訳ありません」

 楽しい時間に調子に乗ってしまっていたかもしれない。勢いで来てしまったが、迷惑だったかもしれない・・。というかきっと、確実に迷惑だっただろう。やってしまったと内心冷や汗をかいていると。

「ご友人と映画に行かれたんですか?」

「えっ?あっ、はい・・・」

 迷惑そうな顔をされることを覚悟していたが、そんな私の心配とは裏腹に店員さんは私に向かって笑いかけた。

「いいですねぇ。今は、お客様達以外に人はおりませんし、大きな物でないのでしたら問題はありません。どうぞお楽しみください」

「あっ、ありがとうございます・・」

 まさか許可されるとは思わなくて自分が聞いたくせに驚いてしまった。

「許可もらえた・・」

「えっ?!ありがとうございます!」

 桜和さんも許可されると思っていなかったのか、驚いた後すぐに立ち上がりカウンターにいる店員さんに向けてお礼を言った。すると、店員さんは作業をしながら私達に微笑みかけた。


「まさかいいって言われるとは・・」

「思わなかった、ね。どうする?」

「せっかく許可もらったし開封しようか」

「そうだね」

 許可をもらえたことだからと、私達は席に着いて映画館で買ったものを広げた。

「どっちから開ける?」

「缶バッジからかなぁ。その後チャームコレクション開けようか」

「わかった」

 缶バッチは銀色の袋に入っており、作品のロゴがプリントされている。

「私、桜和さんの順に開けていこうか」

「わかった」

「じゃあ、早速開けていこう!」

「おぉ!」

「どれにしようかなぁ。・・・。これっ!」

 一つ目を開けて、中に手を入れて準備は万端。後は中身を出すだけ。何度やってもこの瞬間は何が出るのかなというワクワク感と緊張、目当てのものが出て欲しいと言う物欲が身体中を埋め尽くす。

 目当ての物が当たれば勿論、外れても、当たらないんだこうゆうのは。と分かっていてもまた買ってしまうというこの現象、この行為は、きっとギャンブルにハマるそれと似ている所があると思う。その沼に自分も足を踏み入れていることに気付いていながら、それでも手に取る事をやめられない時点で既に手遅れなんだよなぁ。と、だからしょうがないよなぁ。と開き直っている自分に見ないふりをして、今この瞬間もこの中毒性のある行為の沼に沈んでいくような気持ちになりながら、また自ら進んで沼に沈もうとしている。

 とはいえまぁ、自制ができればどんな趣味もいいと私は思っている方なので、私が今後、自分の財布の紐を緩めるの我慢すればいいだけだ。できるかは、その、・・分からないが・・・・。


「いくよ?」

「うん」

 私の緊張が伝わったのか、桜和さんの表情も硬くなっていた。私達はやけに覚悟の決まった様な声を出して、お互いに頷いて私達は私の手元にある缶バッジを固唾を呑んで見守る。袋から、手を引き抜く。

「あぁ!これかぁ!」

「今日の映画でも活躍してたよね!あのシーンが好きだったなぁ」

「わかる!私はあのシーンも好きだな。面白かった!」

「所々ああゆうシーンあるよね!あれが好きなんだよねぇ」

 欲しかったキャラクターのものではなかったが、それでも映画のことを思い出して話が盛り上がった。まさか友達とアニメの話ができる日が来るとは思わなかった。

 そうして私達は映画の話をしながらグッズを開封していった。

「やっぱり数買わないと欲しいやつは、なかなか当たらないねぇ」

「そうだね。私は二個しか買ってなかったから、当たらなかった。これは、沢山買いたくなるね・・・。でも、どのキャラクターも好きだから、嬉しいことに変わりはないけどね」

「うん!外れても嬉しいよね」

「うん」

「じゃあ!次はチャームコレクションいこうか!」

「うん!」

「私はこれが欲しいなぁ」

「私はこれがいいな」

 箱の後ろのラインナップを眺める。デザインがシンプルで綺麗だ。チャームは金属で出来ているようで鍵のような細身の形をしていて、キャラクターをイメージしたデザインになっている。

「本日のメインディッシュ!」

「メインディッシュって」


 開封を進めていくにつれて、桜和さんの笑顔が増えていく。彼女に関わる様になってから知らなかった桜和さんを沢山見れる様になった。友達になれなかったら、こうゆう一面を知らないまま今も避けて遠目から眺めるだけだったんだろうなぁ。

「私から開けるね!せぇのっ!」

「これは、・・・。あっ!これだ!」

「あぁ。これかぁ。推しのやつじゃないけど、このデザインかっこいい!」

「じゃあ、次は私ね」

「うん!」

「・・っ!・・・・。あっ!これ!私が好きなキャラクターのやつだ!」

「すごいっ!桜和さん自引きだよ!」

「自引き?」

「推しを引き当てることだよっ!」

「そんな言葉があるんだ」

「すごいね!初めて引いて、しかも一個しか買っていないのに!」

「自分の好きなキャラクターを引くのってこんなに嬉しいんだね!確かにこれは出るまで買いたくなるね」

「だよね!」

 楽しい!この時間が、もっと続いて欲しいと思う。温かな空気が私たちの周りを包んでいくようだ。夏なのに、この温かさが私は心地良かった。





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