〜桜和 椿(13)〜
お店に入るとすぐに珈琲の香りが鼻腔をくすぐった。入って右手には四人掛けと、二人掛けのテーブルが一脚ずつ置かれており、目の前のカウンターには丸椅子が三脚並んでいた。店内は全体的に外観と同じく白で統一されており、淡い色の木のフロアタイルが落ち着く雰囲気をだしている。
「いらっしゃいませ」
カウンターの向こうから、白のワイシャツに黒色のネクタイ、首に掛けるタイプのエプロンをつけた白髪混じりの男性が私達に向かってお辞儀をしていた。
このお店の店長だろうか・・?顔をあげた男性は、目を細めて微笑んだ。仕草から上品さが滲み出ていて、穏やかな雰囲気を纏っている。
「カウンターか、テーブル。どちらになさいますか?」
「・・えっと、じゃあテーブルでお願いします」
「かしこまりました。では、こちらへどうぞ」
そう言うと店員さんはまたお辞儀をして、私達を二人掛けのテーブルへと案内してくれた。
「少々お待ち下さい」
「綺麗なお店だね」
「うん。こんな所にカフェがあるの知らなかった」
桜和さんと一緒に店内を見回していると店員さんがお盆を持って戻ってきた。
「お待たせ致しました」
そう言って店員さんは私達の前に、お茶の入ったグラスを置いた。
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
「いえいえ。ご注文がお決まりになりましたら、お声がけ下さい」
店員さんは微笑むとカウンターへ下がって行った。
「・・じゃあ、何頼もうか」
「そうだね」
私は、テーブルにあったスタンドに置いてあるメニュー表を広げた。そこには、お店の外の窓に貼ってあったイチゴパフェが載っていた。他にも、ちょっとしたランチや様々な種類の珈琲や紅茶、パフェ以外のスイーツがいくつかあるようだった。
「色々あるね。何にしようか」
「うぅん・・・」
目の前の桜和さんから、唸り声が聞こえてメニューから顔を上げると彼女はスイーツの欄を見つめていた。
「桜和さんは頼みたいものある?」
「えっと、・・お店の外にあったパフェを食べたいんだけど。・・・」
「けど?」
「・・・・」
桜和さんは歯切れの悪い返事をしてメニューを見つめ続けていた。いや、眉間に皺を寄せて睨んでいる。口は真一文字に結ばれているのに葛藤している声が聞こえてくるようだった。
「どうしたの?」
「・・その、これと迷っていて・・・」
そう言って桜和さんが指したのはチョコレートパフェだった。
「どっちにしようか迷っているんだけど、流石に二つも食べるのは・・・。スイーツだけでお昼ご飯っていう訳にはいかないしさ」
「じゃあ、私がチョコレートパフェ頼むからシェアしない?」
「ぇ?でも、流石にそれは・・。そこまで気を遣わなくていいよ・・」
「私も甘いものを食べたいんだけど、スイーツ詳しくないしどれがいいかな?って思ってたからさ。桜和さんが良ければシェアしない?」
「シェアは私もいいけど、・・。本当にいいの?」
「うん!いいよ!」
「・・・ありがとう。じゃあデザートはこの二つでいいとして、お昼ご飯は何にする?」
「私、パスタにしようかなと思ってるんだよね。カルボナーラ美味しそう・・・」
「本当だ。私もパスタにしようかな・・。ナポリタンがいいかな」
「あとさ、たまごサンド頼みたいんだけど食べ切れるか分からないから桜和さんシェアしない?」
「いいよ」
「ありがとう!あと何も無い?なら、注文しちゃおうか?」
「うん。私はあとはないから、注文しよう。すみません!」
「はい!ただいまお伺いします!」
桜和さんの呼びかけに、店員さんがカウンターから私達の席へと早足に向かってきた。店員さんがメモを取り出してこちらを見たのを確認してから、桜和さんは注文を始めた。
「カルボナーラ、ナポリタン、たまごサンド、イチゴパフェ、チョコレートパフェを一つずつください」
「かしこまりました。デザートは食後に用意した方がよろしいでしょうか?」
「お願いします」
「かしこまりました。少々お時間頂きますが、よろしいでしょうか?」
「わかりました。大丈夫です」
「ありがとうございます。それでは、少々お待ちくださいませ」
桜和さんが注文をしてくれて、店員さんは注文を取るとお辞儀をしてカウンターに戻って行った。
とても楽しみだな。お店の雰囲気も良い。置いている家具はレトロな物が多く、カウンターの奥に見える外国を思わせる渋い緑色の収納棚や、窓際に置いてあるどこかの民族のような置物、反対の壁にも収納棚があり、その中にはレコード、昔の電話機、昭和感のあるかき氷機、タイプライター、ラジオ、見かけたこともない形のカメラ。とにかくこのカフェはレトロな物で溢れている。知る人ぞ知る隠れ家を見つけたような気がして、私はとてもワクワクした。
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