〜桜和 椿(15)〜
薬立さんとグッズの開封を終えた後は、今日見た映画の感想を話した。生まれて初めての映画はとても楽しく、何よりも友達と来れたことが嬉しかった。薬立さんと友達になれてよかった。
「ラストのシーンはもう感動しちゃって、私ちょっと涙出たよ」
「うん。あのシーンは私も感動した」
「また来ようよ」
「映画?」
「映画でも別のどこかでもいいし、三年生になる前にあと何回か今日みたいに過ごしたい」
「そうだね。私は今日で映画大好きになったから、また行きたいな」
「いいね!次は桜和さんの観たい映画観に行こうね」
「うん。ありがとう」
「お待たせ致しました。ナポリタン、カルボナーラ、たまごサンドでございます」
映画について話していると、注文していたご飯がきた。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「美味しそう・・・」
「うん・・・」
ナポリタンも綺麗なケチャップの赤にピーマン、玉ねぎ、少し厚切りにされているウインナーなどの具材がお皿を彩っている。薬立さんのカルボナーラもチーズの濃厚な香りとブラックペッパーの香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。一番上に乗せてある卵黄が輝いて見えた。たまごサンドは見ただけでフワフワだとわかるパンに溢れそうなほどのたまごが挟まれている。薬立さんの顔を見ると、彼女の顔がキラキラと輝いていた。きっと私も同じ顔をしている事だろう。目の前のご飯に私達の喉が鳴った。
「食べようか・・」
「うん・・」
数秒見入ってしまったが、意識を取り戻すように私達はフォークを手に取った。
「いただきます」
「ふふふっどうぞ、お召し上がりください」
私達の重なった声に店員の男性は朗らかに笑い、軽く一礼をして戻って行った。
フォークでナポリタンを巻きトマトの優しい香りに誘われるように口に運んだ。
「うぅん・・。美味しい・・・・」
「うん・・・。美味しすぎる・・・・」
思わず唸り声が出てしまった。ベーコンの肉汁と野菜の甘味、トマトケチャップのバランスがとても良い。ガツンッとした旨味という訳では無いが、優しく噛み締めていたいと思う味だ。安心する味。それは、薬立さんも同じだったようで、目を閉じて味に浸っているようだ。
「凄い美味しいね!」
薬立さんのカルボナーラも相当美味しいのか彼女の顔を見るだけで味が伝わってくるようだった。薬立さんの手が止まらない。
「ふふっ本当にね。美味しい」
「チーズが優しぃ・・・」
感想はあれだが、言いたい事は伝わる。幸せそうに噛み締めている薬立さんの周りにお花が飛んでいるように見える。彼女が纏っている幸せオーラが温かい。
「さて、次は・・・」
「たまごサンド行こうか・・・」
溢れんばかりのたまごが輝いて私達の食欲を誘う。ナポリタンで満たされた胃がまだ入ると渇望している。
「うわっ!結構重い」
「本当だ。ずっしりとする。」
手に持つとその重さが手に伝わってくる。見えている以上にたまごが中に詰まっていることがわかる。
「では!いざっ!!」
「ふふっ。いざ!」
私達は思い切りかぶりついた。パンの柔らかな食感の後にクリーミーで優しい黄身の味と白身の食感が口の中を満たしていく。その美味しさに私達は目を見開き、顔を見合わせた。
「っ!!すごい美味しい!!」
「うん!濃厚だけどしつこくなくて」
「うん!パンの柔らかさも良い!」
美味しさのあまり、私達はあっという間に平らげてしまった。少し、食べ過ぎかもしれないな・・・
「流石にお腹いっぱいになってきた・・」
「パフェ食べられるかな?」
「お客様。デザートはすぐにご用意出来ますが、少し休まれてからにしますか?」
「あぁ・・・。どうする?少し休ませてもらってからにする?」
「薬立さんは休みたい?もし大丈夫そうならせっかく用意してもらったし、いただかない?」
「私はまだいけるから大丈夫だよ!」
「わかった。そうゆうわけで、デザート頂きたいです。」
「かしこまりました。少々お待ち下さいませ」
「楽しみだねぇ」
「そうだねぇ」
なんてことを言っている間にパフェは届いた。
「お待たせいたしました。苺パフェとチョコレートパフェでございます」
「きましたっ!本日のメインでディッシュ!!」
本日二度目のメインディッシュが出た。関わってからわかったが薬立さんは面白いし、教室での静かな感じとは違い案外テンションが高いこと。関わらなきゃ知らないまま終わったんだろうな。それを思うと友達になれたことは本当に良かったなと思う。
「早速、食べよう!」
「うん!」
私が頼んだ苺パフェは一番下に苺のピューレ、上にスポンジケーキとカスタードクリームが交互に二段になっていて一番上には苺が贅沢に乗せられている。横にはバニラアイスが一つ添えられており、苺ソースがかけられている。クリームの中からも苺の断面が覗いていて、ふんだんに使われている。苺づくしだ。
薬立さんのチョコレートパフェは一番下にチョコのソース、その上にチョコレート生地のスポンジケーキ、生クリームこちらも交互に二段になっている。一番上にはチョコレートアイスが三つ乗っており、棒状のチョコレートのお菓子が刺さっている。散りばめられたナッツが映える。
「桜和さんこっちも食べるでしょ?先にとっていいよ」
そう言って薬立さんは私に自分のパフェを差し出した。
「ありがとう。じゃあ頂きます」
「どうぞ」
ニコニコな笑顔の彼女のご好意に甘えてチョコレートパフェを頂いた。
「どう?」
なぜか食べていない彼女の方が嬉しそうだ。なぜだか分からないが・・・。まぁ、それよりも・・・
「チョコアイスがビターだから、生クリームの甘さとのバランスがちょうどいい・・・。美味しい・・」
「そっか!それなら良かった!」
「・・・」
「ん?どうしたの?桜和さん」
私は無言で自分のパフェを差し出した。無言の私に薬立さんは困惑した顔をした。
「私のも食べていいよ」
「え?」
「私にくれたから、薬立さんも私のやつ食べて」
「・・わかった!じゃあお言葉に甘えて・・。いただきますっ!」
「どうぞ」
「・・・。うん!美味しい!甘さ控えめなカスタードと瑞々しいくて甘酸っぱい苺が最高に合ってる!スポンジケーキはふわふわ!」
「ふふっ。じゃあ私も食べよっ」
「私もチョコレートパフェ食べよう」
口に広がるバニラとカスタードクリームの甘さを追いかけるように苺の甘酸っぱさが広がる。ここまで瑞々しい苺は珍しいな・・・
デザートまでに結構食べたのに手が止まらない。別腹とはよく言ったもので、さっきまで膨れていたお腹がまだ入る言っているかのように食欲が湧いてくる。
私達はパフェを堪能した。楽しい時間は緩やかに、でも早くすぎていった。
「レシートのお返しです」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
私達は食事を終え、会計をしてもらう。
「美味しかったです!ご馳走様でした!」
「ご馳走様でした」
「こちらこそ、ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」
店員さんは綺麗な一礼をして私達を見送った。
「いやぁ、本当に美味しかったね。カフェの雰囲気も良かったし」
「うん。本当に良かった。お気に入りのお店だな。また行きたいな」
「いいね!また行こうよ!」
「うん。学校帰りとかに行ってみようか」
「いいね!楽しみが増えた!」
「映画も面白かったし、本当に今日はありがとう桜和さん」
「こちらこそ、誘ってくれてありがとう」
「また映画にも行こうね!」
「うん」
今日を振り返りながら、次回の話をしながら、私達は駅までの道を歩いた。
「じゃあ、私こっちだから」
「うん。じゃあね。また明日」
「!また明日!じゃあね桜和さん!」
「うん。またね」
駅に着くと私達はそれぞれの帰路へとついた。私も薬立さんも家は渋谷から二駅ほどしか離れていない。だからまた遊びたいと思えば予定さえ合えば集まるのに苦労はしないだろう。もう次を楽しみにしている自分に変わったなぁと思ったが悪い気はしないまま電車に乗り込んだ。
最寄駅に着き、家までの道を歩く。家に着いて鍵を開けて中に入る。
「ただいま」返事が返ってくる事はない。
家に居ない時はもちろん、居ても寝室で寝ていることがほとんどだから同じ家に居ても顔を合わせることなどほとんど無い。
玄関を上がってすぐの所にある洗面所で手を洗いそのまま二階へと上がる。部屋に入ってすぐに今日買ったグッズをボディーバックから取り出す。缶バッジを机に飾り、チャームは学校に行くときに使う鞄に付けた。チャームを眺めているとスマホが震えた。通知を開くとメールアプリに飛んだ。
『もうすぐ、二年生の二学期が始まる。この時期に頑張っておくことが大事だ。勉強を怠らず、気を引き締めていきなさい。』
父親からのメールだった。上がっていた気分が沈みかける。これ以上考えないようにと私はスマホの電源を切り画面を伏せて机に置いた。
今日くらいはまだ、楽しい時間に浸っていたい。_____________________
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