〜桜和 椿(14)〜
今日は、憧れだった桜和さんと友達になって初めてのお出かけだ。予定を立てる時、桜和さんは私が見たかった映画を観るために漫画を見て予習までしてくれた。それから度々学校でも作品の話をして盛り上がった。
桜和さんは優しい人だ。言葉や行動から、優しさや気遣いを感じる。桜和さんがそんなふうにできるのは、私や周りが思っているよりもずっと彼女が周りをよく見ているからだろう。そもそも私は、桜和さんが私の名前を知っている事に驚いた。私は彼女の隣の席だが、関わったことはつい最近までなかった。他にも、放課後に教室においてある白の
そんな桜和さんと初めて遊びに行くのだ。楽しみでないはずがない。楽しみすぎて昨夜はなかなか寝付けなかった。その様子はさながら、遠足前日の小学生だ。ワクワクして若干寝不足気味だが、これから起こる楽しみなイベントのことを思えば何も苦ではない。
今日は、夏の日差しも、上がり続ける気温も気にならない。桜和さんと待ち合わせをしている広場へ逸る気持ちを胸の中に押しとどめ、しかし確かに足はいつもよりも回して目的の場所へと進める。こんなにも毎日が楽しくなる事を、半年前の私は知るよしもないだろう。
ハチ公前広場に着くと、そこには沢山の人がいた。木陰で休憩するサラリーマン、ペットボトル飲料を片手に携帯を触る人、私と同じように誰かを待っているのであろう女性、暑いのに一箇所に集まって写真を撮る女子中学生と、様々な人で賑わっている。そんな中に桜和さんもいた。
淡い色のハイウェストワイドレッグのジーンズにロゴの入った白の七部丈Tシャツ、黒いボディバックを肩にかけている。髪はいつもと違いお団子ハーフアップになっており、短い横髪が俯いた桜和さんの表情を隠している。
スタイルの良さが遠目でもわかる格好に『桜和さんってやっぱり美人なんだなぁ』と呑気に思いながら桜和さんの元へ駆け足で向かった。
「桜和さん、おはよう!お待たせ!遅れてごめん」
「・・薬立さん。おはよう。まだ十分前だから遅れてないよ。私もいまさっき来たばかりばし」
「でも、暑かったでしょ」
「まぁそれはね。夏だから数分でも堪えるのはしょうがないよね」
「そうだねぇ。なんか年々暑くなってるような気がする」
「本当ね。どうする?上映まで時間あるけど、どこかで時間潰す?」
「もう行かない?人気作だし、休日だから飲み物とか買う余裕なくなっちゃうかもしれない」
「そうなんだ。分かったじゃあ行こう」
そうして私達は映画館に向かって歩き出した。
「桜和さん、おはよう!お待たせ!遅れてごめん」
薬立さんの声で現実に引き戻される。
「・・薬立さん。おはよう。まだ十分前だから遅れてないよ。私もいまさっき来たばかりだし」
薬立さんにバレないように、努めて明るい声で返した。彼女は察しがよく、そのたび私を気遣ってくれる。その度に私は申し訳なくなってしまうのだ。気遣われる事に対しての戸惑いもある。だが、今日は友達になってから初めて遊ぶ日だ。開始早々雰囲気が悪いのはいけない。幸い、薬立さんには気づかれなかったようだ。
「もう行かない?人気作だし、休日だから飲み物とか買う余裕なくなっちゃうかもしれない」
「そうなんだ。分かったじゃあ行こう」
そうして私たちは木陰から抜け出した。木陰に飲み込まれそうな気がしたが、それに気づかぬふりをして、映画館に向かって歩き出した。
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