〜桜和 椿(6)〜
終業のチャイムが鳴って教室から人がほとんどいなくなった頃、私の隣の席に先ほどお手洗いで話してた人達が集まってきていた。
「薬立さん」
「はい・・。」
「今日これから、私達用事があってさぁ。課題のノートを先生に渡しに行くのと、黒板の掃除お願いしたいんだぁ。やってくれるよね?」
「あっ、・・えっと・・・。」
なにがお願いしたいだよ。やらせる気しかないじゃん。
「・・うん。いいよ・・・。」
「よかったぁ。ほんとありがとう。じゃあお願いねぇ」
「いやぁ。薬立さんは優しいねぇ」
そう言って彼女達は自分の席で帰りの支度をしながら雑談を始めた。薬立さんは、今任された事に、日誌もやっている。薬立さんはクラスでも大人しく、主張をしないタイプだ。ああゆう人達は、薬立さんのような大人しい人や、自分より下だと思っている人間にしか強気な態度はとれない。長い物には巻かれる人達。小さい人間だ。案の定帰りの支度をしていた手は止まり、口だけが動いている。
だが、いくら言い返す勇気がないとはいえ、引き受けた彼女の責任だ。嫌なら嫌だと主張できない彼女にも問題はある。私には関係ない。助ける義理もないしね。
だが、私の足は教室を出る直前で止まった。
「あのさ、高橋さん達さ、喋ってる暇あるならその時間で自分の仕事やればいいんじゃないの?薬立さんに任せないでさ。」
私の言葉で教室は静まり返った。意外な所から、意外な人が意外な事を言ったからか、高橋さん達だけでなく教室に残っていた数人も一斉にこちらを向いた。みんな驚いた顔をしている。
「えっと・・どうしたの桜和さん・・。急に」
「いや。ただ、人に仕事頼んどいて自分たちは喋ってるなんてどうなのかなと思っただけ。」彼女たちは私の言葉に黙りこみ、再び教室に静寂が訪れる。彼女達はこっちを見ようとはしない。
「・・わかった。ごめん」
そう言って彼女達は薬立さんの席に自分たちの仕事を取りに向かった。
「薬立さんごめん。」
「いや、えっと、大丈夫・・・」
それを見た私は教室を出た。
「桜和さん!」
私の後ろから薬立さんがついてきていた。
「あのっありがとう・・・」
「別に薬立さんの為に言ったわけじゃないから。薬立さんも、嫌ならちゃんと断りなよ。言わないから高橋さん達も薬立さんにさせるんでしょ。」
「あっえっと、ごめんなさい・・・」
私は申し訳なさそうにする薬立さんを置いて帰路についた。
らしくない事をした。いつもなら、あんな事やらない。だが、なぜかどうしようもなく腹が立った。高橋さん達にもそうだが、なによりも、明らかに都合よく利用されているにもかかわらず何も言えない薬立さんにだ。
校門を出る。今日の太陽は本当に鬱陶しい。
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