〜プロローグ(4)〜

 という事で・・死んだ僕は、今・・・現世にいます。何故かと言いますと。青年曰く_______


 「・・・・・はい?」現世?僕って死んだんじゃなかったでしたっけ。

「現世に行くと言っても当然生き返るわけではありません。現世に行ってもらうのは今生きている人達の魂を安定させてもらうためです。」

「安定させるも何も、体があるんだから安定してるんじゃないんですか?」

「確かに魂は体があると存在を安定させることができ、勝手に消えることはありませんが、貴方のように此処に来る可能性がある人達が、生きている人の中には結構いるんです。予備軍の魂達が。」

「予備軍・・ですか」

「よく精神が不安定になると言うでしょ。その後に立ち直る事が出来るのなら、問題は無いのですが、それが出来ないまま一生を終える人は少なくないんです。そういう人達は、貴方のように此処に来る可能性が高いのです。これから会って頂くのは、その可能性がある人達です。」

「でも僕が会ったところで何が出来る訳でも無いですよ・・」僕はその手の専門家でもないし、人を良い方向に変えられるような人間でもない。

「特別な何かをしてもらう訳ではありません。話を聞いたり、貴方の経験をもってアドバイスをする。のような、そんなありきたりな方法で良いです。」

そんな方法で・・いや無理だろ・・それに


 「可能性がある人が誰か分かっているなら、君自身がやればいいじゃないですか。なんか力みたいなのあるでしょ。こんな場所にいるんだし!」

「ありません。言ったでしょう。貴方方が思うような世界など無いと。それに分かっているからといって、人の感情がよく分からない私では無理です。人の感情は目に見える物では無い上に、人はそれを隠す人もいるので私にはさっぱりです。ですが、些細だろうと出来事や言葉が、どれ程人を動かしてしまうのか、貴方はよく解るのではないですか。」

「っ!君は僕も見てたのかっ・・」生前の記憶に僕は奥歯を噛みしめた。

「はい。見てました。だから、分かるでしょう。感情をよく知っているという事がとても重要だという事が。」

ああ、わかる、わかるかもしれない。でも・・・。

「君の言うように似たような境遇なら分かる事も、僕が言える事もあるかもしれない。・・・でも、人の感情はそんなに単純じゃない。似たような境遇だとしても分からない事なんていくらでもあるよ。やっぱり出来る事なんてほとんど無いのと一緒だ」やっぱり僕にできる事なんて無い。僕には人に言える事なんて無い。

「人の感情が解る事に意味があるんです。そしてそれは貴方のように人との関りや感情に悩んだ人にしか、解らないものです。取り繕って何かを言う必要はないんです。貴方の言葉で、貴方がして欲しかった事を貴方なりのやり方で。それでもその人が立ち直れなくてもそれは貴方の責任ではありません。その先は私の仕事ですから。だからどうかお願いです。貴方のような人を少しでも減らす為に。」


 ここに来て初めて彼は僕に真っ直ぐな目を向けて頭を下げた。本当に感情が分からないのかとか、責任は無いと言われたって気にしないなんて無理があるとか、色々言いたいことがあるけれど・・・

「はぁ・・・分かりました。分かりましたよ!」彼の説得に根負けして、半ばやけくそに返事をしていた。

「お願いしますね。大変そうな時は私もサポートしますので。貴方が出来る範囲でいいので。」彼はまた感情の読めない無表情に戻っていた。なんか疲れた。こんなに誰かと話したのはいつぶりだろうか・・・。でも、知らない場所に来て、知らない人に会って気づかない内に強張っていた力は自然と抜けていた。

なんか良い意味でどうでもよく感じてる・・・。力が抜けたからか少し考える余裕が出来てきた。それで一つ気になっていた事が・・

「先ず貴方が会ってもらう人は・・・」

「あのその前に一つ良いですか?」

「何でしょう?」相変わらずの無表情で彼はこちらを見た。改めて、言おうとするとなんか恥ずかしいな・・・

「なんて呼んだらいい・・かな・・・?」



 「・・・・・・はい?」これでもかというほど、彼の眉間にしわが寄る。あぁ、怪訝な顔ってこういう顔の事なんだな・・・。じゃなくて!

「いやっ!あの君じゃなんかあれだなって!しばらく関わっていく事になるかもしれないし!だから・・・」

「いや私に名前という名前はありませんが・・・。貴方が勝手に決めていいですよ。」まだ少し皺が寄った顔で彼は言った。ていうか、決めていいんだ・・。

「あっいいの・・。ううん・・・じゃあ・・」何にしよ。人に名前つけた事なんて無いからなあ・・・。まあ、無難に。

「白君なんてどうかな?」

「・・・・・・・。」沈黙。えっ気に入らなかったのかな・・?安直すぎた?

「えっと・・。嫌かな?」

「・・・まあ、それでいいです。呼びやすいなら。」間が気になるけど、良いって言ってくれたし大丈夫かな?

「よろしくね!白君」

「はい。お願いします。」少し白君との距離が縮まった気がした。なんか少し嬉しいな・・・。もう、誰かと関わる事なんて無いと思ってたからこの感じは久しぶりだな。白君も仏頂面だけど話すとちゃんと返してくれるし、最初の印象より話やすかった。


 「では、そろそろ、」

「あっ!ごめんもう一つだけいいかな?」白君はまた僕が変なことを言うんじゃないかと、怪訝そうな顔を僕に向けた。


 「あの、・・白君も貴方じゃなくて名前で呼んでくれないかな?なんか、貴方だと新婚さんみたいで、はは、ははは・・・。」

「は?」怪訝そうな顔が嫌悪の顔にレベルアップしてオプションで睨みが飛んできた。まさに、今、僕は蛇に睨まれた蛙状態だ。今が一番感情が出てるよ白君・・。感情豊かだね意外に・・・。

 こうして会って数十分にして僕は、嫌悪感を全面的に出した顔で年下の子に引かれるのでした。

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