桜和 椿
〜桜和 椿 (1)〜
季節は夏、快晴を象徴するような空から伸びる太陽の光に炙られているような心地になりながら、僕は今、周りをビル群に囲まれたこの閉鎖的な空間で一人、
ここは日本を代表する場所、東京。僕は人が入り乱れるスクランブル交差点に一人でいた。
最近死んでしまった僕は、白君に頼まれ人の魂を安定させるために、現世に戻ってきた。これから、白君に教えてもらった人に会いに行くのだが・・・正直今すぐに帰りたい。
よく考えたら知らない人に話しかけるのって、不審者じゃないか・・・。どうしよう、ただでさえ人見知りなのに。
夏の暑さで重かった足がさらに重くなる。鉛のような足を動かし渋谷の街を進む。
「やっぱり、白君に辞めるって言おうかな・・・。」
数分前の彼との会話を思い出す。
「何かあれば手を貸します。他にも助けが必要な時や、相手の事を知りたい時は、この場所に戻すことや貴方に情報をお教えする事は可能なので、その時は念じて下さい。」
「念じるって・・・」
「それとも空に話しかけますか?それでも力を貸すことは可能ですが。」
「念じます。」
空に話しかけるって・・変な人じゃん。
「他にも貴方が死んだ事を知っている方に遭遇した時は貴方の姿を消します。あと、貴方にこれから体を与えますが、私が作った仮の体なので生きている人の体のように丈夫に出来ていません。壊さないように気を付けて下さい。」
「壊れるんですか・・・?」
「貴方の感情が高ぶって心が揺れてしまうと体が形を保てなくなるんです。下手をすれば魂にも影響が出ます。最悪、魂が消えてしまう可能性もあります。そういう時はこの場所に強制送還するので、なるべく早く人目につかない場所に避難してください。」
「・・分かりました。」
「それではこれから貴方を現世に送ります。頑張って下さい。」
と言われたが、正直出来る気がしない・・。会ったとして 先ずなんて話し掛ければいいのか・・・。
前髪で隠れた顔を俯かせ、渋谷センター街を進んでいると、コンビニの前に目的の人がいた。それも、穏やかさとはかけ離れた雰囲気を漂わせて・・・・
気だるい日差しに充てられて、ただでさえイライラしてるっていうのに、今、目の前に居るこの人のせいで気分はこれでもかというくらいに落ちている。
「おいっ!聞いてんのか?!何無視してんだよ!」
目の前に居る男。身なりを見るに大学生くらいの男が、私が返事をしなかったのが気に入らなかったのか、煩わしい声で凄んでいる。
ほんと、うるさいのは町の喧騒だけにしてよ・・・
「おい!無視すんなって言ってんだろ!お前見たとこ高校生だろ?制服着てるし。しかもこの辺で一番頭いい学校の」
「だったら何ですか?退いて貰えます?通りたいので。」
早く公園かどこかに寄りたいのにこの暑さでせっかく買ったアイスが溶けてしまう。
「進学校のエリートがこんな所で買い食いか~?お前も不良だろ?暇ならちょっと俺と遊ぼうぜ。イイとこ連れてってやるからさ」
目の前の男ははニヤついた気持ち悪い顔で気持ち悪いことを言っている。てか不良って自分で言うのか。大学生は高校生ナンパしてないで勉強しなよ。
「嫌です。それに貴方明らかに成人してますよね?私は未成年なので手を出すと犯罪になりますよ?」
「はあ?なにいい子ぶって、そんな見下したような顔してるわけ?お前もエリート校のクセして昼間からこんな所にいるような落ちこぼれの同類だろ?」
「一緒にしないで下さい。貴方みたいな人と同類になった覚えはないです。失礼します。」
もう面倒くさい。さっさとどこかへ行ってしまおうと、その男の横を通り過ぎようとすると物凄い力で腕を掴まれた。
「マジ腹立つなお前。エリート校だからってバカにしやがって!ぜってえ後悔させてやる。」
まずいな・・腕を掴まれてしまった。流石に男の力には敵わない・・。
「あの~・・すみません。ちょっといいですかね・・・」
は?誰?この人・・
目の前の男より多分もっと年上で、目が隠れるほどの前髪と灰色のシャツにジーンズという何とも味気のない格好に、少し幼さを感じる顔が言い表しがたいアンバランスさを
「あ?誰だお前?関係ない陰キャは黙っててくれる?」
「いや・・あの・・えっと・・その子僕の知り合いなんですよ!これから用事があるのでこの辺で・・・」
「は?知り合い?お前みたいなのに友達とか嘘だろ。ヒーロー気取りすんな!いいからどっか行けよ!」
「いや、で、でも・・・」
なんか助けに来てくれたっぽいけど、状況は良くなるどころか悪化した。・・・さて、どうしようか。
「うぜえなお前。どっか行けって言ってんだろっ!」
「あっ!すいません!お巡りさん!」
「はっ?何?!」
私は男の後ろに向かって手を振って呼びかけた。
「行くよ!」
「えっ!・・はい!」
「あっ!おいこら待てっ!」
男が後ろを向いた瞬間に、童顔な顔の男の腕を引いて走り出した。
太陽で焼かれたアスファルトからくる熱気で、じんわりと汗をかいてくる。そして知らない男の手を引きながら、ナンパ男から逃げているこの状況に自然と眉間に皺が寄った。本当に最悪だ。
雲一つ見当たらない夏空の下、私達はただひたすら走った。
きっともう、アイスは溶けている。
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