〜プロローグ(2)〜

「あの大丈夫ですか?そろそろ此処ここの説明をしたいんですが。」

「あっそういえばここは・・・」

話していてそんなに気にしてなかったけど、この場所は明らかに異常だった。部屋というかどちらかと言うと空間か・・?起きた時に見た天井もとても明るいが電灯のようなものは見当たらないし、僕が寝ていた床も微量な光を放っているように見える。形容しがたい雰囲気をまとっていて、知らない場所のはずなのに不思議と不安や恐怖は感じない。むしろ自分でも驚くくらい落ち着いている。


 「あのここは一体・・」

「はい。もちろんその説明をこれからさせていただきますが、その前に此処に来る前の最後の記憶を覚えていますか?」

そういえば僕、ここに来る前・・なにしてたっけ・・?


あ・・・。そうだ。僕は。

「思い出しましたか?」

「はい・・。僕は______死んだんですね」

僕はコンビニで買い物をした帰りに・・。

「即死だったようです。」

そうだ。僕はボーっとしていて信号が変わったことに気が付かなくて。

スキール音が聞こえた。と思った次の瞬間、右の脇腹に衝撃が来た。痛みを感じる間もなく地面に叩き付けられたところで僕の記憶は途切れた。


 「死んだのに冷静ですね。まあ、珍しくはないのですが、此処に来る方は自分の死を告げられても驚かない方が多いのです。人間というのは感情が豊かな生き物ですから、もっと驚いたり冷静さを失ったり暴れたりするものと最初は思っていました。暴れられない事は良いことですがね。」それほど興味がなさそうに目の前の青年は言う。

「いや、まあ何というか実際に死んでみると呆気ないというか、案外驚きはないですね」本当に呆気ない。ドラマや映画にあるような劇的な死に方をする人達の方が実際は少ないんだと死んで改めて知る。

「そういうものですか。」

「死んだということは、ここはあの世的なところですか?」周りを見渡してみるが、生きていた時に思い描いていたあの世のイメージとはかけ離れている。

「いえ、此処は貴方達人間が思う様な場所ではありません。」

「思うような場所ではないというのは?」

「貴方達人間が思い描く、あの世・・天国や地獄というような世界はそもそも存在しないんです。人間が死んだ後は、魂の生まれ変わりがあり、新たな魂としての生活が始まります。」

「そうなんですか・・。ではここは一体」

「魂は死ぬと自然と生まれ変わり、新たな命を歩みます。ですが、稀に魂が生まれ変わりを拒絶することがあるんです。」

「拒絶・・」

「はい。生前に自分の人生を大きく変える程の出来事や、出来事の大きさは小さくても、積み重なることで生まれるストレスなどが魂に影響を与えてしまうのです。それによって、生まれ変わりをせずに魂も死んでしまう事があるんです。」

「魂が死ぬ・・」それこそ何かの物語みたいな話だ。でも、実際僕には死んだ時の記憶があって、今この世のものとは思えない場所にいる。それに、会ったばかりだがこの青年が嘘を言っているようには思えなかった。

「つまり、僕の魂も、もうすぐ死ぬという事ですか」

「いえ、貴方の魂はまだ死にません。」

?」

「はい。先ほどの話ですが、正確にはすぐ死ぬわけでは無いんです。魂だけの存在はとても不安定で、脆く、消えやすい。だから消える前に生まれ変わりをして、魂の体を得て存在を安定させるんです。ですが、先ほども言ったように生まれ変わりを拒絶する事があります。此処は、そんな魂達を生まれ変わりの道へ導くための『』であり、私は魂を導き、行く末を見届ける『』でございます。」青年は淡々とこの空間の説明をする。

「ここの事は何となく分かりました・・。 魂は消えやすいんですよね。だと僕は後どれくらいで消えるんですか?綺麗なくらい姿形が残っていますが・・」僕の体は生前と何ら変わりなく残っている。

「消えるのは、貴方次第になってきます。体が生前と変わらずに残っているのは、未練があるからです。」

「未練・・」

「はい。拒絶はしているものの、未練がわずかに残っていると魂だけの存在で残ってしまうんです。未練が強く残っているほど、魂は生前と変わらない形を留めます。その未練を晴らして、また生きたいと思う事が出来れば魂は生まれ変わりをする事が出来ます。ですが逆に、生きることに絶望すると魂は形を留める事が出来ずに消滅してしまいます。」

「じゃあ、僕は未練を感じているという事でしょうか?」

「えぇ、それに貴方の魂はほぼ生前と同じ形を留めているので、未練はそれだけ強いという事だと思います。」

「生きることに絶望すると消滅するって言っていましたよね。という事は絶望しない限りはここで生き続けるという事ですか?」

「いえ、たとえ絶望する事が無かったとしても、魂が形を留めているのには限界があります。どれだけ伸ばそうとしても7年が限界です。」

「7年ですか・・。意外にありますね」

「確かにありますが、殆どの人は7年を待たずにどちらかの道に行きます。」

「そうなんですか・・。でもなんで・・」

「此処に来た人には、自分の人生と向き合ってもらい生まれ変わりを試みます。ですが、生まれ変わる事が出来る人もいれば、それをすることで死を早めてしまう事もあるのです。」

「なるほど」つまりカウンセリングのようなものか。正直、憂鬱だ。

「此処の説明はこれぐらいです。何か質問はありますか?」

「いや、特にないですが、・・。一つだけ、ここはどれだけ長くても7年までなんですよね?」

「はい。」

なら僕は・・・。




「すみませんが、このまま何もせず消滅を待ちます___________________。」



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