第25話 記録

どうも佐伯 正です。遊園地から一週間程経ったよ。


「し、白金さん、おはようございます‼」


「えぇ、おはようございます。」


朝、教室にて緊張した面持ちのクラスメートが白金さんに挨拶をする。

見慣れた光景だが、相変わらず白金さんは神対応で、プラチナスマイルと呼ばれる微笑を周りに振りまいて行く。

騙されているとも知らずにね。

もう本当にとんでもない人だから。黒ギャルになったりするからね。

小便漏らしたのは僕もだから強く言えないけど。

そんなことを考えながら俺は何となく白金さんを見ていたのだけど、俺が良からぬことを考えているのを察したのか、周りに笑顔を振りまいていた白金さんが一瞬だけ俺の方を見て、鬼と見間違う形相で俺のことを睨んできた気がした。

あまりに一瞬のことで俺の気のせいかと思ったけど、あとになってスマホのラインで『ぶっ飛ばしますよ?』と来たので、どうやら見間違えでは無かった様だ。



「白金さん来てるわよ♪」


家に帰るなり、店の片づけをしている母ちゃんがニヤニヤしながらそんなことを言うもんだから、俺は溜息をハーッと一つ付いて肩を落とした。家に帰ったら休みたいよ。何であんなとんでもない人の相手をしないといけないんだよ。


「母さんね、学生の出来ちゃった結婚には寛容だから。既成事実作るのは大事よ。」


何言ってんだこのババァ?この小説は子供も見ている可能性があるんだぞ?滅多なことを言ったらいけないよ。


そうして階段を上がり自分の部屋の襖を開けると、また青いジャージ姿の白金さんが隣のパン屋【マロン】の二階、つまり美鈴の部屋をジーッと覗き見ている。美鈴の部屋は窓をカーテンで覆っているので見えはしないのだが、白金さんは異常者なので、時折見える美鈴のシルエットだけで興奮しているのだろう。鼻息荒くボタボタと鼻血を垂らしている。


「い、良いよぉ♪み、美鈴ちゃん良いよぉ♪」


どうしてこの人捕まらないのだろう?美人だったら何をしても許されるのだろうか?

だとしたらこの世の不条理を感じてしまうな。

僕が部屋に入って来ても、彼女は気づかずに窓から張り付いて動かない。

この姿を朝の女の子に見せたらどうなるだろう?おそらくショックで倒れていしまうと予想出来るな。

あー話し掛けたくない。でも話し掛けないと、あとからどうせ何か文句を言われるんだろうな。ここは決心して話し掛けないと。


「あのー白金さん。ストーキングはそのぐらいにして下さい。」


僕がそう言うと、振り向いて、さも嫌そうな顔をする白金さん。いやいや、そんな顔をしたいのは僕の方なんだけど。


「なんかアナタに話し掛けられると、一気に現実に引き戻される気がするわ。もう少し夢の世界に居たかった。」


「それなら千葉のネズミの王国にでも行ってくださいよ。それで今日は何で僕の部屋に居るんですか?まさかストーキングの為に居るわけじゃ無いですよね?」


「それもあるけど、ちゃんと別の用事もありますー。」


口を尖らせてひょっとこみたいなムカつく顔をする白金さん。というかそれもあるのかよ。この人はそろそろ警察に厄介になりそうだから手を切りたい。


「ジャーン♪これなんだー♪」


と、分厚いアルバムの様な物を取り出して来た白金さん。最初はウチのアルバムかとも思ったが、見覚えのない物だったので、おそらく白金さんの私物だろう。


「なんですか?アルバムですか?」


「ピンポーン♪正解♪」


今日は大分テンションの高い白金さん。正直うっとおしいが、そんなことを本人に言ったらぶっ飛ばされそうなので黙っておこう。


「このアルバムはね。美鈴ちゃんのアルバムなの♪この間、遊園地の写真をいっぱいゲット出来たから思い切って作ってみたの♪」


ぞわっと鳥肌が立った。とうとう盗撮した写真の数もアルバムに収める程になったということか。つまりこのアルバムは犯罪の歴史でもあるというわけだ。


「何よ、その目は。まるで汚い物でも見るみたいに見ないでくれる?ぶっ飛ばすわよ。」


おっと、バレそうになってしまった。白金さんの目には薄っすらと殺気が籠っているので、これは返答次第ではボコボココースだ。慎重に答えねば。


「い、いや、凄いなぁと思いまして。早く中を見せて下さいよ。」


「そんなに中を見たいの♪仕方ないわねぇ♪」


よしよし上手く誤魔化せた。だんだんこの人の扱い方も分かって来たな。

しかし、俺はまだまだこの人の業の深さをよく分かって居なかったんだと、彼女がアルバムの一ページ目を開いた時に分かった。


「ほら可愛いでしょ♪」


そこには赤ちゃん姿の美鈴のハイハイする姿や、掴まり立ちする姿、ベビーベッドで寝ている姿の写真が貼ってあった。


「うわあああああああああああああああ‼」


絶叫する俺。だって何でこんな幼い頃の美鈴の写真を白金さんが持っているのだ?

もう怖い‼


「こ、この写真はどうやって手に入れたんですか?まさか盗んで?」


「ぷっ、まさかそんなワケ無いじゃない。」


笑いながら否定する白金さん。だが、だとしたら、どうしてこの写真を手に入れたというのだろう?


「合成、創作して作ったのよ。私の幼い頃の写真に美鈴ちゃんの顔を合成して、幼く加工。それで出来上がりってわけ♪素晴らしい出来でしょう♪」


「なーんだ。そうだったんですね。安心しました。あはははは。」


「うふふふ♪」


・・・あれ?それも十分怖くないか?












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