第14話 誤解

佐伯 正だ。

あの白金さんも竜也の不毛な戦いの後の月曜日。昼休みに竜也が俺のクラスを訪ねてきた。


「よぉ、佐伯 正って居るか?」


突然の札付きの悪の登場に騒然となる我がクラス。白金さんも僕に向かって口パクで『どういうこと?』と聞いてきたが、俺だってどういうことなのか分かりかねる。


「あっ、居た居た。おーい、正。屋上で飯食おうぜ。」


俺に向かって大きく手を振る竜也。それによってクラスメートの視線が俺にも向くわけで、高校に入って初めて、クラスのトレンドに俺が浮上してしまった瞬間であった。

仕方ないので弁当を片手に竜也の元に駆け寄ったが、その時も鋭い目の白金さんから口パクで『あとで詳細を聞かせなさいね』とメッセージを受け取ったので、俺は首を縦に振った。

面倒なことになりそうだが、不幸中の幸いで今クラスに美鈴が居なくて良かった。



屋上に着くなり、俺たちは向かい合ってご飯を食べ始めた。竜也の昼飯はコンビニのオニギリ2つらしく、如何にも不良らしい簡易的な物だと思った。


「久しぶりに学校に来たけど、相変わらずつまらないとこだな。授業中にアクビが止まらなくて困ったぜ。」


「ま、まぁ、面白い所では無いよね。」


うーん、どうも緊張してしまって弁当の味もわからない。竜也も仏頂面で何を考えてるか分からないし、一体この会食の意味は何なのだろう?

気になった俺は竜也にその理由を聞くことにした。


「ね、ねぇ、どうして俺と弁当食べようって思ったの?」


「あん?そりゃお前、俺とお前がダチだからに決まってんだろ?」


「へっ?」


俺の心の底からの「へっ?」、何かどうしてそうなった?というのは、きっとこのことを言うのだろう。いつ、何時何分何秒、地球が何回回った時に友達になったというのだろう?


「と、友達っていつなったの?」


「そりゃ、この間の俺がボコられた後だろ?名前で言い合う中になりゃ、そりゃ友達だよ。これから宜しくな。」


スッと右手を差し出す竜也。

そうだったのか?下の名前で言い合うようになれば友だちなのか?高校生の常識なのか、不良界隈の常識なのかよく分からないが、友達になったことを否定すると自分の身が危ないと即座に察知した俺は、竜也の右手を自分の右手で握った。すると竜也も嬉しそうに握り返してきて、俺の右手がミシミシと軋んだ。いやいや力入れ過ぎだから、右手の骨が折れちゃうよ。痛い、痛い、痛い。

痛かったけど何も言えずに、そのまま竜也が気が済んで手を離すまで我慢し続けた俺。右手にガッチリと竜也の手形が赤く付いており、これからの高校生活に暗雲が立ち込め始めたことを、にわかに感じていた。


「それで正。ダチのお前に一つ頼みがあるんだけど、聞いてくれるか?」


「な、何?お、お金ならあんまり持ってないよ。」


カツアゲされるにしても俺の財布の中の手持ちは326円しか無いので、とても竜也を満足させられそうにない。


「バーカ、金の頼みじゃねぇよ。」


「じゃ、じゃあ何?」


「俺を倒したひょっとこ仮面を紹介してくれ。」


まさかの頼みだ。でも竜也の顔は真剣なので冗談では無さそうである。


「な、なんで?自分のやられた相手でしょ。」


「だからだよ。俺はボコられた時に思ったんだ、この人に付いて行きたいって・・・俺はひょっとこ仮面の舎弟になりたいんだよ。」


おーい、おーい、マジか。あんなひょっとこ仮面被った人の舎弟になりたいとか、不良の考えることは分からん。

竜也がひょっとこ仮面の舎弟になると、更に面倒事が増えそうだし、白金さんもそれは望まないだろう。ここはやんわり断ろう。


「あの人、舎弟とかは募集してないから無理だと思うよ。」


「そこをなんとか頼むぜ。舎弟が駄目なら手下、なんなら靴磨きでも良いんだ。あの人の側に居て、不良としての高みを目指してぇんだ。」


・・・不良の高みって、ひょっとこ仮面の側に居てもそんな高みにはなれないと思うんだけどな。


「頼むっ!!この通りだ!!」


突然、屋上の地面に土下座をし始める竜也。あっという間に札付きの不良に土下座させる俺の図が完成してしまった。これは宜しくない。


「や、やめてよ!!人が来たらヤバいって!!」


「いや!!お前がうんと言ってくれるまで土下座はやめねぇ!!」


はぁ、こりゃ駄目だ。もう俺に残されている選択は一つしか無かった。


「うん、分かったよ。ひょっとこ仮面さんに聞いてみるよ。」


「ほ、本当か!?ありがとよ!!ダチ公!!」


土下座から跳ね起きた竜也は、今度は俺に抱きついてきた。これも即刻やめて欲しいし、竜也の力が段々と強くなってきてバックブリーカー状態になり、俺の背骨がミシミシと軋んできた。

あー折れる折れる。

はい、予想通り面倒なことになってきた。



・・・栗山 美鈴です。

購買でパンを買ってクラスに帰ってくると、クラスから出ていく竜也君と佐伯 正の姿が。

気になって後を追うと二人は屋上に入ったので、恐る恐る扉の隙間から屋上を覗き見ると、そこには仲睦まじく弁当を食べる二人、握手を交わす二人、そして熱い抱擁をする二人の姿が。

何を話しているかは分かりませんでしたが、これは二人がただならぬ爛れた関係である証拠じゃないでしょうか?

最近、私の中で正君の評価は急降下で下がってましたが、まさか人の恋路を邪魔する泥棒猫になるなんて完全に予想外です。

でも私は負けません。BLなんかに負けてたまるもんですか!!

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