第3話 路地裏 前編
正だ。只今路地裏にて不良の喧嘩勃発。
俺と美鈴は建物の物陰に隠れて傍観中である。
美鈴はハラハラと事を見守って居るようだが、俺はハッキリ言ってどうでも良い。不良とか本当に嫌いなんだよ。どいつもこいつも偉そうだし、短気だし、何かあればすぐ喧嘩だ。そのクセ社会に出たら普通のサラリーマンになって、歳を取って中年になれば「俺も昔はヤンチャしたよ」なんて思い出話に花を咲かせると思うとムカムカする。悪いことしたことを武勇伝みたいに語ってんじゃねぇっての。
・・・っと、俺の個人的な不良に対する怒りはさて置き、喧嘩の様子を実況しないとな。
「オラァ!!」
"バキッ!!バキッ!!"
竜也はこの辺で名の知れた不良だけあって、最初は勢い良く不良を二人ほど殴り倒したりして幸先良かったが、喧嘩漫画みたいに一撃で失神K・Oなんてことは現実には起こらない。倒された二人も一時すれば立ち上がり、その内に多勢に無勢の竜也は一方的にボコボコにされ始めた。
「どうした♪最初の勢いは何処に行ったんだ♪」
「はぁ・・・はぁ・・・。」
竜也は、もう肩で息をして、顔も傷だらけ、自慢のオールバックも乱れてる。普通に考えて流石に6対1では勝てる筈も無い。まぁ、良くやった方じゃないか?
「オラッ!!死ねや!!」
"ゴスッ"
「ぐっ!!」
不良の一人にみぞおちを蹴られ、顔を苦痛に歪ませて、とうとう竜也は膝から崩れ落ちた。
「おい、もう終わりかよ♪ダセェな♪」
「マジでダセェ♪」
膝を突いた竜也を馬鹿にするように笑う不良達。喧嘩を売った方も買った方もどちらも悪いとは思うが、あっちの6人の不良は本当にクズだな。道徳とかちゃんと習ったんだろうか?
ここからは竜也が一方的にリンチされるだろう。流石にこれ以上は見るに耐えないし、万が一にもコチラに火の粉が降り掛かったら大変である。一刻も早くここを立ち去ろう。
と、思って美鈴の方を見たのだが、美鈴はあろうことが、不良達の前に姿を見せて大声を出し始めた。
「りゅ、竜也をイジメるのはやめてください!!」
・・・やばい、絶対やばいよコレは。
「あん?何だこのちんちくりんは?」
「もしかして竜也の女か?お前中学生と付き合ってんのかよ!!ギャハハハ♪」
下卑た笑いで助けに現れた美鈴を笑う不良達。これには流石に俺も腹が立ったが、怖くて足が竦んで、とても助けに出られそうにない。思った以上に俺は情けない男だったようだ。
竜也は美鈴を見ると信じられないといった感じに目を見開いた。
「ば、馬鹿!!俺なんか庇うじゃねぇ!!早く逃げろ!!」
竜也が過剰な反応に、不良達は更に面白がる。
「おっ?本当に竜也の女かよ?」
「ギャハハハ♪ロリコンかよ、きめぇ♪」
「おい、こいつの前で、あの女にちょっと遊んでやるか♪」
「賛成♪」
マジで最低だ。ジリジリと不良達は美鈴に近づいて来る。美鈴もガタガタと震えて目に涙を貯めている。
くっ、流石に俺も勇気を出して美鈴を守らないと。
そうして俺がなけなしの勇気を振り絞ろうとした俺だったが、俺より先に美鈴と不良達の間にスッと割って入る人物が現れた。
その人物の特徴は、上は黒いフード付きのパーカー、下は黒いジャージを着ており、それ以外は後ろ姿だし、フードを頭に被っているので何も分からない。男なのか、女なのかすら判別不能である。
「テ、テメー何もんだ!?」
「おかしな格好しやがって!!」
「ウケ狙いかよ!?笑えねぇ!!」
謎の人物を見て激昂する不良達。えっ?そんなに変な格好かな?
不良達が騒ぎ出した理由はすぐに分かった。
謎の人物がコチラを振り向いたのである。
「安心して、私がアナタたちを守るから。」
そう言った謎の人物は、水玉頭巾、髭面のだらしなく笑っている男の仮面を被っていた。
なんだっけこれ?ひょっとこだっけ?まぁ、名前なんてどうでも良いけど、とにかく緊張感が無い。姿を隠したいのかもしれないけど、もう少しマシな仮面無かったのか?
そうして、ひょっとこ仮面は再び不良達と方を向き直し、いい声でこう言った。
「推して参る。」
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