第2話 何処ぞの不良

「今日はありがとう、一緒に帰ってくれて。」

「ベツニイイヨ、カエリミチ、イッショダシ。」

「何で片言なの?」

そりゃ片言にもなる。昨日の美鈴のカミングアウトにより、フラれても無いのにフラれた気分になり、絶賛傷心中なのだから。

俺こと佐伯 正は、夕焼け染まり人気のない住宅街を幼馴染の美鈴と歩いて帰っている。しかし、住宅街というのは夕飯の匂いがして腹が減る。あの家の夕飯はカレーか?それであそこの家はハンバーグ?良いなぁ、俺の家からこんなに良い匂いはしたことがない。

「それでね。竜也君の話なんだけど。」

・・・はぁ、現実逃避も通用しないか、美鈴の言っている竜也君とは、美鈴が片想いしている相手の男である。んで、この相手というのが問題ありなのである。

「竜也(りゅうや)君ね、今日も学校来てなくて、このままじゃ出席日数が足りなくて退学になるかもしれないって先生が・・・。」

あからさまに悲しそうな顔をする美鈴。全く持って難儀な恋愛をしているものだ、俺にしとけば安上がりだけど、一般的な幸せは提供出来るというのに。

黒神 竜也(くろかみ りゅうや)というのは、我が橘高校きっての不良であり、髪は黒髪のオールバック、目つきの悪い三白眼の強面、180センチあるガタイといった風貌の、まさに歩く殺戮のマシンである。

学校に来ることも稀で、毎日喧嘩に明け暮れているらしいともっぱらな噂だ。

そんな奴のことを何故美鈴が好きになったかというと、何でも他校の男子生徒に絡まれているところを黒神に助けられたらしいのだ。どうして女というものはベタでありきたりな展開に弱いのだろう?全く持って理解出来ない。

昨夜、黒神のことが好きと言い出した時も、俺は必死に「不良はやめとけ」「相手が悪い」と必死に説得を試みた。相手が俺じゃ無いにしろ、不良なんかとワザワザ付き合う必要なんか無いのだ。

だが美鈴は「嫌よ、私は竜也君が好き」と漫画のヒロインにでもなったように頑固さで俺の言うことなんて聞いちゃくれなかった。

そこからは結局俺が折れて、黒神のカッコいいところを深夜の2時まで聞かされるハメになったのである。雨の日に捨てられてた子猫を拾っていったとか本当かよ?ベタで嘘くさい。

「ねぇ、それでどうしたら良いと思う?」

うん知らねぇ、極めてどうでもいい。

どうして学校に来ないような悪い奴のために、俺がワザワザ考えてやらねばならんのだ。高校中退で町工場にでも勤めれば良かろうよ。

俺は「そうだなぁ」なんて考えてるフリしながら、頭の中では今日の晩ご飯何かな?とか考えていた。

すると前方に学生服を着崩したガラの悪い集団が目に入った。ガラの悪い奴らは6人居て、5人は他校の制服で、一人はウチの制服を着た・・・あれ?あのオールバックの髪は黒神 竜也?

「た、竜也くん?」

頬を赤らめてメスの顔する美鈴。あーはいはい、恋する乙女は凄いですねぇ。

「オラッ!!黒神ツラかせや!!」

「うるさい連中だな、喧嘩するならこっちでやろうぜ。」

オラついている他校の連中に比べて黒神は冷静で、不良たちを引き連れて人気のない路地裏の方に入って行った。

「竜也くんがピンチかも!?」

美鈴の言葉に嫌な予感がした俺は、そろりそろりとその場を立ち去ろうとしたが、美鈴に右手をガッと掴まれて、そのまま引っ張られながら不良達の後を付けることになってしまった。

この展開を一言で表現するとしたら、クソッタレである。



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