エピローグ
時は歩み始めた。
この火星コロニーも随分大きくなった。
生殖可能な
だから私は。今やちょっとした産婦人科医…と言うか助産師のような事もするハメになってしまった…結果として。産まれた後の世代の子ども達から『マザー』とあだ名されるようになってしまった…
「マザー…マザー…聞こえますか?」そう通信機は音声を放つ。随分
「聞こえてますよ…」そう、私は
「我々―エウロパ…A−01リグ…作業は順調…本日も氷を掘削しております…」
「そう。海には何時
「そう言われましても―この氷数十キロは覆ってますから…」と申し訳なさそうに言う通信機の先の男の子…
「たかが。数十キロでしょう?」なんて意地悪を言ってしまう。
「いやあ。マザーには敵わない…けどまあ、目処はつきますからご安心下さい…」
「それは安心…」なんて私は言う。これまで
「何とかしますよ…しかし。おばあちゃん」と向こうの男の子は声色を変える。
「どうしたの
「おばあちゃんは何時になったら死ぬわけ?」と彼は
「さあね?貴方達を安定させる為に―無理やり寿命を伸ばしたから」と私は言う。これは私の責任のとり方だ。蘇芳の命をもらったから…最後まで見届けようと思って。桜のオリジナルの研究データをアレンジして身に
「…俺の方が先に死ぬんじゃねえかな」と萌樹は言う。
「そうはさせない―と言うか。そろそろ目処も付いてきた。適当な時期に自殺するわよ」なんて孫にいう
「俺が―そっちに帰るまでは生きてくれよな?」と彼は言うけど。
「それはしないで…貴方達は開拓者、創始者になって欲しいんだから」と私は言う。
「そうは言ってもな…恋しくなるよ、
「故郷…か。その言葉、私、あなた達から聞きたかった」と私は言う。
「そんなに特別な言葉かな…」と萌樹は言うけれど。
「特別よ…だって私達の世代では―考え付きもしない言葉だったから」そう、私達は火星を故郷なんて思ってもなかったのだ。ただ。一時的に滞在してるような、そんな気分だったのかも知れない。
「…おばあちゃんの世代の苦難があって、初めて俺達エウロパ組が存在出来る…感謝してるよ」なんて
だって。
多くの物を失ってきた。
初期の自動人形達、桜―私より先に逝った、生物の定めにより―、そして蘇芳…
彼ら彼女らが居なかったら―私は。何も為していない。
彼ら彼女らから何かを与えられなかったら、もしくは奪わなければ…何も為していない。
「別に…何もしてない。きっかけは与えたけど…」そう。私は何もしていない。何時だって行動せざるを得ない状況を創ったのは他人で。
「それがどれほど大変か」と萌樹は言う。
「まあ…ね」と私は色々な物を含ませた返事。
「そう言えば。おばあちゃん?」萌樹は話を変える。
「なぁに?」
「俺…火星の年代記を書き始めた」
「…そろそろ歴史になるわけね。私も」
「かもね。でさ…初期の頃の話を聞かせてくれないかな?」
「…恥ずかしいわね」と私はいう。
「そう言うなよ」と彼は急かす。
「…書き出しが素敵なものなら―協力しないでも無いかな?」昔みたいに意地悪な物言いをしてしまう。
「ん?それは書けてる―読むぞ…」
『初めに自動人形は天と地を創った。そして人を創った。そこには3人の男女の自動人形が在った…』
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