《11》
生命の発生に卵子と精子のセットは必須か?―ノー、らしい。これを
哺乳類では具体例は原則ないが―例えば七面鳥やハシリトカゲ、ギンブナなどの
哺乳類で精子卵子がセットじゃないと命が発生しない原因はゲノム
しかもヒトを含む哺乳類では、父親由来の遺伝子を使わないと発生が進まない局面があるので―まあ、単為生殖は原則不可能…だが。私は地球の生き残りのサーバを
『二
『卵子』と『卵子』で子孫を産み出したらしい。
私は。どうしても。
もしコイツが人間にも応用可能だったら?そう思うとゾクゾクする。この実験ではマウスの生存率はあまり良くなかったが、生き残ったものは子孫を為せたらしいし。
…この実験は―あいつらに知らせず。私だけのモノにする。あのふたりには知られたくないのだ…
「いやはや」と私は施設の自分の実験室のコンソールの前のチェアで伸びをする。
最近
その原因は―嫌なものを見たからだ。
嫌なもの…そう、
「おーい。菫、済まんがアレ貸してくれ〜」なんて能天気にノックもせずに開けたのが間違いの始まりで。
がっつりがっぷり絡み合ったあの2人が私の視界の端に入っちまった。ま、
それを見て―何故か下半身が熱くなる私がいた…だがそれ以上に。
菫を取られた、という想いの方が強かった。
これが過去の私に埋め込まれた仕組まれた好意であろうと―やはり拭えないのだ。本人の前では言えないけど
「私は…自分が思ってた以上にアイツに入れ込んでた訳か」帰り道に
◆
最近。
「蘇芳?蘇芳?」と私は休憩している蘇芳に声をかけるのだけど。
「…ああ。菫、何?」と眠そうな、何処か焦点のあってないようなそんな返事をされる。
「アンタ―生理?」なんて阿呆なことを聞いてしまう。何故か既視感のあるシチェーション。
「んな訳ねーだろ?もしそうだとしても―特になんもない」と彼女は言う。まあ、そのとおりではある。
「じゃあ…どうかした?」こういう聞き方ってなんか阿呆みたいだが仕方ない。
「どうもしないさ」と遠い眼の蘇芳。
「完全に何かあるでしょ」そう…モノ言いたげな眼ではある。
「あったとして、だ。菫には理解出来ない感情さ。要するに放っといて」なんて釣れない返事を頂いてしまった。
「…まあ、色々あるわよね」なんてあたしは
そこに桜がやって来た。
「お前ら何サボってんの?」と。
「サボってねーよ。コーヒーブレイクだっつの」と菫はむくれて返して。何処かに去っていった…
◆
3人寄り合えば
私達のチームもまた、その運命には抗えず。自然と私が孤立していったのだった。
もともと、私は協調性が高い方ではない。蘇芳と桜もスタンドプレー好きだが―実は
そんなもんで。私は次第に彼らのプロジェクトから距離を取るようになってしまった。一応は方向性は一緒だ。子孫を増やす能力がある者を我々から生む。しかし手法は違う。向こうはオーソドックスなやり方をしているが、私は個人的な感情に基づいた変化球。
今日も今日とて―インキュベーターに向かう。私と蘇芳の子を成すために。
そこには生きものの
この道に関わってきた人間がそういう神気取りをしたがる理由の一端が見えた気がする。
そう。
造物の神は―私達の中にいたのだ。大いなる存在などではなく。
地面から手を開放し、石を拾い、それらをぶつけ、
私達の脳の発達の重大な一プロセスが造物主を創り上げた。そして孤独な人々はそれを外部化したのだ。神として、友として。
だから、今の私にはぴったりだ。孤独な人もどき…それが私で。
手には道具…遺伝子という石を今日も砕く…その薄片で何をしようというのか?
友との―証を残そうとしているのだ。おそらくは間違った方法で。
◆
世界は間違いによって産まれた。まさしくそうだ。人は正しいことをする能力など備わっていない。
そもそも正しいとは何なのか?
もし無いなら一度やってみると良い。そして―その結論を私に教えてよ。
私は―結局。自分が気持ちいい事が、正しいことだという結論しか出せなかった。それを利己主義だと
しかし。貴方には見えてないの?社会的な
ああ。
自分の中の獣なんてキリスト教的なモノの見方は嫌なんだけど。
それが上手いことハマるからこそ、あの教えは広まったわけで。
つくづく自分が嫌になると同時に、正しいことをしているという思いがある。
「私は―あいつと同じ
思春期の頃は―自分が一番正しくて賢いって
しかし、もう30を迎えようという私は。自分が正しく賢いだなんて思えない。知力は―あるのかも知れない。でもそれはただの知識だ。知恵ではない。
私は偽者の神だから、
それでも。私は
そう。私は狂ってるのさ―
何に?
創作に、だよ。
それが狂ってしまった私の―コミュニケーションなのさ。一方通行の、ね。
◆
創作は狂気を
しかし。あたしの創作はと言えば―実に
ああ。今日も今日とて塩基の鎖を解き、組み直したりするのだけど。
ここで狂ってみなさいな。一気に組み上げたものが崩れ落ちる…集中して、針に糸を通すみたいに、作業をこなしていく。
「なあ。菫」と後ろから蘇芳の声。
「…」今は返事が出来ない。今声を出したら―この作業は台無しになる。
「勝手に喋るぞ…」と彼女は言う。あたしの背中の向こう側で。表情は当然読めない。
「私は―頭がおかしいのかも知れん」…冗談か。
「最近―考えがまとまらん。やりかけの仕事が増えていくんだよ」そういうのはメンタルケアプログラムに投げなさいな。
「―メンタルケアは受けたさ…うつの傾向ありだと」と彼女はそういう。
「…しばらく休みなさいよ」あたしはやりかけの作業を止めてそう言って。
「分かってるさ―だけどな…手が止まらないんだよ…」彼女のそういう声は切実で。
「そういう時に手を止める勇気を持ちなさいよ」なんてあたしは言いながら。安全キャビネットから顔を上げて。
「…よお。元気か?」なんて言う蘇芳。それは貴女に向けたい台詞。顔に締りがない。眼だけが
「ぼちぼちね…貴女の『プロジェクト』順調なの?」と彼女の秘密のプロジェクトの進捗を尋ねる。
「…進んでるさ。だから手が止まらなくて―困ってる」と彼女は眉を萎れさせながら言う。
「うん。別に今、手を止めたからって―全てが台無しに成るわけじゃないでしょう?」そうあたしは問う。
「今な。ちょうど良いところなんだよ」そういう蘇芳の有様は矛盾に満ちている。身体と心が噛み合ってないのだ。
「あたしの話聞いてた?」と問わざるを得ない。
「―どうだろうな?」そう言って蘇芳は去っていった…
◆
※二母性マウスに関して以下の資料を参考に妄想したことを明記しておきます。
・『初期胚細胞を用いたクローンマウスの作出』 河野 友宏, 権 五龍
@https://www.jstage.jst.go.jp/article/jrd/43/6/43_97-436j107/_article/-char/ja
・『ng/fg単為発生マウスの誕生』 河野 友宏
@https://www.jstage.jst.go.jp/article/jmor/22/2/22_2_83/_article/-char/ja
・『ゲノム―生命情報システムとしての理解― 第4版』 T.A.Brown 石川冬木・中山潤一監訳 メディカル・サイエンス・インターナショナル
・『エピゲノムと生命―DNAだけではない「遺伝」のしくみ―』 太田邦史 講談社ブルーバックス
・『カラー図解 進化の教科書 第二巻 進化の理論』 カール・ジンマー ダグラス・J・エムレン 更科功 石川牧子 国友良樹訳 講談社ブルーバックス
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