《10》
あたし達の進化は―
ノーマルな精子の供給源の
『神は死んだ』を見せられた。リアルで。まあ彼は半神半人の偽者だからこそ死んだのだが。
原因は―単純に
「…まさか、な。こんなあっさり
「アンタ…恨まれるようなことばっかするから」とあたしは呆れて言う。怒る前に呆れの方が前に出てくる。
「…調子にノッたツケかねえ」と絞り出すように言う桜。
「キルスイッチ握ってるのはアンタじゃない、何故使わなかったの?」当然の問をぶつける。コイツはこのゲーム上ではなかなか死なない。
「反応が遅れた…思春期のガキの
「保険くらいかけときなさいよ…」
「んなモンなしでやんのがゲームの醍醐味ってな」と彼は
「馬鹿なの?まったく…精子、どうすんのよ?」凍結ストックはあれど。量に限りがある。
「…凍結ストックどんだけ提供したと思ってんだ?」と彼は
「まだまだ出してもらうつもりだったわね」と言うのだけど。あたしの感情は言ってる事と表面上思ってる事と別の方に向かい始めた。心臓の
眼の表面がさざなみ、あたしの眼球の表面が満ち
あたしは…泣いているのだ。この獣の
「顔の感覚がイカれてるからよく分からんが…お前泣いてんのか?」と桜は
「らしいわね」あたしは…素直に認めておく。
「お前は…優しいのな」と桜は言う。意味が分からない。あたしは優しくなんかない。
「貴重な試料を失う悲しみであって、貴方が惜しい訳じゃない」なんて。あたしは下手な嘘を重ねる。
「…お前はいい加減素直になれよな」なんて貴方がいう台詞?
「貴方も人の事言えない」そう。こいつは素直になるのに
「…あーあ。お前が心配だよ、俺は」あたし達は何処か似ているのだ。スタンドプレーをしたがる辺とか。
「ご心配どうも」短いレスポンスで時間を稼ぐ。
「…なんなら最後に試料出してやろうか?」と桜は笑いつつ言う。男性は死の危機に
「で?最後はあたしがアンタの身体バリバリ食えと?」とあたしはカマキリの事例を出してからかう。そう、オスは一見、生殖に対してコストを負わないように見えるが、そうではない。最終的にメスと同じくらいのコストを払うはめになる。その究極系は生殖の後に身体を差し出すことだ。
「…お前はカマキリか?いや…どっちかって言うと―
「あたしは―何だろ?せいぜいハーレム作る動物の一員の目立たない一匹じゃない?」ゾウアザラシとかね。そしてそのハーレムの子孫はほぼほぼ、そこを牛耳るボスの遺伝子を持つことになる。
「…お前は―普通に
「
「…死ぬ前くらい素直になろうとしたんだが」と桜は
「プレイボーイのその
「お前…しょうがなかったの知ってて言ってんだろ?」
「まあね。せいぜい困りなさい」
「悪かった」そう、彼は言う。
「許すわけないでしょうが。こんな有様になって」コイツは…他の
「…うっかりしてたんだよ」と彼は言うが。
「…死にたかったんじゃないの?」とあたしは問う。精子を
「無責任かも知れんが―
「
「…いやあ。お前らが困るの見て笑いたかったんだが…な」そう―彼は言い残して。消えた。火星の
◆
「神は死んだ―というより、ただ1人の男が死んだだけさ」と蘇芳は桜の死をそう形容した。
「アンタは相変わらず
「大事な…お前を…色々ひどい目に
「あたしが取られたみたいで嫌だった?」なんて。嫌な言い方をしてしまう。
「まあ…ね」と認める蘇芳。
「
「悪かったって。あの時ゃああ言うしかなかったんだ…」
「…あたしも悪かった。さ、始めようよ」
「だな…おおいリトル桜やーい?」と彼を呼ぶ蘇芳。
そこには。
若林桜の遺伝情報を基にした
…実はあたしの割と好みな…ユニセックスな見た目をしていたりする。まだ手は出していない。
「その呼び方は止めてくれ…一応記憶だけは前の俺なんだ」と彼は言うけど。
「ってもな?見た目は私達よりガキだし―作り直してやったのはこの蘇芳様な訳だ。せいぜい感謝して、靴でも舐めろや」と鬱憤を晴らす蘇芳。
「この女はアンタのオリジナルが大嫌いだったからね…仕方なく
「あーあ。なんで知りもしないもう一つの自分のせいで理不尽な扱いを受けにゃならんのか…」
「そういう定めだ…元カミサマ」と蘇芳は言う。
定め、運命。私達はこの言葉が大嫌いだ。決められたラインに沿って進んでいく宇宙などクソ喰らえだ。
「…いい加減無駄話してないで―始めよう」そう、あたしは言う。
◆
研究はままならず、地味な生活が続く。何ならリトル桜はデカくなって―オルタナティブ桜になった…
「ストックがやばい」蘇芳は言った。
「言われなくても―」「気付いてら」あたしと桜はそう応える。
「
「拙いわね」
「お前…ふざけてんのか?」蘇芳は少しプリプリしながらそういう。
「ふざけてなんかないわよ…ただ冷静にそうだなって思っただけ」事態は
「いい加減。過去の遺産に頼んなって事だろ?」とオルタナティブな桜は言う。
「お前は勘の良いやつ振るの好きだなあ…桜よ」と蘇芳は
「実際、勘良くねえ?」なんて彼は言うけど。
「勘が良いなら―いい加減
「俺の専門、そっちじゃねえ」と言い訳する桜。
「じゃあなんでアンタが派遣されてんのよ?」あたしもそう詰らざるを得ない。
「コロニーの建造…そっちが専門。分子生物学への
「お前の親父さんは―アレだったな…世界初の自動人形…」と蘇芳は言う。この話、何度目だっけか。
「制限も糞もない、まんまのコピーだな。個人を取り戻す為のクローニング…だから完全にヒトに近づけた。お前らと俺は…まあ、道具だからな」昔ならそういう言い方に腹を立てていたはずだが―あたし達も歳を取りすぎた。一周回って笑えてくる。
「たださあ。昔から思うが―なんで人間なんだろうな?」と蘇芳は
「単機能特化じゃない
「思考機能なんてAIなり何なりでも務まるだろうが」蘇芳の反論。
「軽くて安くついたのが人間だ…お前、宇宙にモノ飛ばすコスト分かってんのか?」
「興味がないからまったく」
「2,3キロ飛ばすだけで乗用車が買えたもんだ」
「ピンとこないわね?」「だな」
「…働き初めの年収くらいだ」
「まったくピンとこないぞ、桜」
「…まあ良い。まとめれば宇宙にモノ飛ばすってのは国家や企業を傾けるほどの大事業で―
「ああ。人間だな…ったく」と蘇芳はため息を吐きながら言う。
「…増えれば便利なのにね」とあたしは感想を述べる。
「そこは人間が人間たる故―常に不安なのさ、自分達なんぞ特別でもなく、何時だって取って代わられるって」火星に居る自動人形達が自我を持って―襲いかかるとでも?
「そんな気概はないわよ、あたしら」と桜に言う。地球人はしばしば争ってきたから―そういう気持ちが湧くんだろうなあ、と思う。あたし達のようなフロンティアの住人は相手が違うのだ。環境という大敵が居る。地球人のパラノイア具合には驚かされる。
「…まったくだ。ああ。その上―
「分かってるわよ。桜もあたしも」なんて冷静ぶって
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