《5》
「有り
「…私は割と真剣だぞ?
「…そう?アウトラインが決まってるなら、後はアドリブかまされようが、演出は
◆
白い部屋。その部屋の真ん中にはリラクシングチェアと―TMS装置。
TMS…
部屋の上のスピーカーから
「―菫。聞こえるか」いや、今、反抗的な子の『教育』をしてるところなんだけど。
「…アンタが押し付けてくれちゃった『お仕置き』の最中に何よ?」とあたしは
ちなみに投げた理由は、「残虐行為に飽きた」まったく。男というやつは。
「…蘇芳だ」そう言う彼は面倒、というニュアンスを含ませていて。
「…今度は何やらかしたのよ?アンタの財布でもパクった?」この火星では余り意味のない行為だけど。金銭で買えるモノ、大したものじゃないから。
「違う。なんというか―アイツ、まだ、閃きって形で色々思い出しやがる」と彼は言う。
「閃き…ね。
「ああ。やれ。お前も知っておくべき時期だ…こういう行為が自分の中の何を損なうか?」ああ。『教育』されるのは―あたしか。
桜のアホの『キルスイッチ』で気絶させられた蘇芳が自動運転ストレッチャーに
蘇芳は―舌を噛まないように猿ぐつわをされていて。それだけで痛ましいのに。これからあたしは…この娘の記憶を飛ばすのだ。自らの手で。
あたしは…蘇芳をストレッチャーから下ろして…おぶり、部屋の中央に運ぶ…っと前の『クランケ』残ってたっけな。
それから。10分ほど準備に手間取った…蘇芳、無駄に肉付きが良いから重いったらありゃしない。
コンソールの前にあたしは座る。そして蘇芳の頭皮に埋め込まれたチップにアクセスをかける。それは自動人形の制御用に埋め込まれたもので。薄さがあまり無いから―あたし達は言われないと気づかない。いつの間にかーと言うか製造された時に埋め込まれているのだ。表向きはメンタルケアプログラムの効率を上げる為となっているが、本来の目的はこうしたリセットやらの例外処理をやりやすくする為だ。
「自動人形 第一期 個体名『
「例外処理パネル…呼び出して」とあたしはコンソールに告げる。
「例外処理パネル展開―
1.記憶領域参照
2.記憶領域エディタ
3.人格領域参照
4.人格領域機能抑制エディタ
5.システムリセット
6.部分リカバリ
7.オールリカバリ―(製造時と非常時のみ使用!!)
」
この石器時代じみたコマンドシステムの並びよ…見てるだけでうんざりしてくる。これが地球人類の
「とりあえず1をお願い」とあたしはコンソールに告げる。
「記憶領域参照...
とりあえず。ここ一週間の並びを
「んで?何を消して欲しい訳?とりあえず一週間分の記憶を抽出してるわよ」とあたしは上に向かって言う。いや、別に上を向く必要ないんだけどさ。なんとなく上を向いてしまうのだ。その有様が神に語りかける哀れなヒトのようで
「…まあその辺で良いか…とりあえず―シェイクスピアの『お気に召すまま』に関連する記憶を全部消しといてくれ」と
「…それだけで良い訳?」とあたしは
「こいつの場合…一気にやりすぎると―色々ぶら下がってくるんだよ…物事をくっつけて考える習慣が身につきすぎていて、下手に触ると丸ごとやっちまう」それは、あるな、と思った。蘇芳は若者みたいな瞬発力のある思考能力もあるが、一般に歳を取らないと
「分かった…けど。『お気に召すまま』自体をどっかやったら?」と思わないでもない。
「どっこい…いろんなところにありすぎてめんどくさい。根本を絶った方が早くないか?」そんな雑草みたいに形容されても。文化というミームは
「はいはい…分かった。じゃ、後は―あたしに任せなさいな…アンタ忙しいでしょ?」要件は終わった。さっさと何処なりに消えて欲しい。
「頼んだぞ―」
◆
「記憶26788―削除、記憶64563―書き換え…適当な小説に置き換え…」コンソールに指示をいれながら、私はチェアに寝かせた蘇芳を見やる。その頭の上にはフィクションに出てくるようなヘッドギア…中には8の字型のコイルが収まっていて。そいつのコイルが鳴るパチパチとという音が
こういう光景には―慣れていたはずなんだけど。やはり知り合いを悪意を持って、害するというのは気分が悪い。むしろ直接言い合ったり、殴り合いをするほうがまだ健全だ。
桜の阿呆が何故病んだか?の理由の一端が見えてきた気がする。いくらアイツが管理人とは言え、人の形をした人のように考える者をこうやって
「あーあ。あたしは―」少しだけ桜に同情している。地球から投げ出された男。その産まれだけで
パチパチ…と何かが弾けるような音とあたしの声と、
「指定された範囲の編集が完了しました…再起動を行いますか?」とコンソールから声。蘇芳のシステムからの呼びかけ。
「…ううん。少し待って」とあたしは言ってしまう。
「追加の処理を行いますか?」
「うん。だからもう一回パネル開いて―3の処理を」とあたしは言う。望んではいないけど―一応人格領域を
「管理者権限でログインをお願いします」ああ。やっぱこの辺はあたしに渡してくれてないのか。
「ID―admin、パスワード―1234」ダメ
「人格プログラム、ヴューアー起動…」とコンソールが告げ。蘇芳の中身が
「そう簡単にいかないか。さて…暗号化でもかかってて、鍵がないと無意味な文字の
こういう時に蘇芳がいれば、と思わないでもない。あのアホ天才ならこういう無意味な文字列にさえ規則性を見つけそうで。
あたしは愚痴を吐くと同時に、文字列をスクロールさせていく…が文字の巨大な塊に押しつぶされそうだ…何百行と意味のない文字のランダムな列が続いてる…いい加減諦めた方が良いのかも―なんて思っていたら。
「おい…見えてるか―菫―」という奇跡の一文にぶつかった…
◆
『おい…見えてるか菫、こいつは私が個人的にぶち込んだ文だ…桜センセは
ある日の事さ…頭をぶつけて擦りむいたんだが―アレ血がびゃあびゃあでるのな…びっくりした―じゃなくてだ。このクソチップを見つけちまった…運が良かった、と言われればそうだが…
んで。私はそこらのガラクタと端末で『こいつ』にアクセスすることに成功し…今、お前が
ちなみにだ。この
こいつはたまたま出来た上位のプログラムの
私はこいつにもう1個仕込みをしてやった―地球の古いプログラミング手法である『セル・オートマトン』を突っ込んでおいた。簡単な回路を生成するプログラムを与えてな。んで。その回路は時間が経つと共に『進化』する。複雑な処理を行うようになる。
…こいつは色々先を見越した『
こいつが上手くいってりゃ―私はどんだけ脳を
なあ。菫…今の私は―どうなってる?
どうせ…
そして。お前は私との距離の近さ故に利用され、下手すりゃ取りこまれる。
ごめんな。私のせいで…巻き込んじまって。あ、後。執着の度合いだが…恐らく試行回数が増えれば増えるほど増加する。これは時間がなかったから改良できかった部分だ。重ねてスマン。性的な意味くらいまでは行くかも知らんから覚悟しといてくれ…
さて。これくらいだ。今の
じゃ。ここで筆を置く。一度読んだら消しとけよ。削除くらいやり方分かんだろ?
東雲 蘇芳
』
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