《2》

…それは貴女の『レジスタンス』も同じ…与えられてる体制に反抗レジスタンスしてるだけじゃない。馬鹿らしい」とすみれは言う。言わんとせんことが少し伝わってきた。私は火星のこのコロニーの中の事をもとにしてしか反抗してないのだ。地球人にくしといえど、その顔や星を知らない。。…これはあるしゅ信仰にも似てるかも知れないな。知りもしない神を盲信もうしんするのに似ている。

「菫。そんだけ分かるなら―なんで言いなりなんだよ…お前はな方だ。ただ言うこときいてる馬鹿とは違う。お前も私みたいにレジスタンスすべきだぜ」仲間が欲しい訳じゃない。ただ友人が馬鹿みたいな事をしているのが許せないのだ。

「あたしはローカロリー主義でね?面倒な事はしない。与えられた道を進んで楽して適当に生きていたいのよ」と彼女は言い切るけども。

「お前が適当?冗談キツイぜ…私らの中じゃしっかりしてる方じゃないか?」そう。こいつはティーンエイジャーにしてはしっかりしている。クラスのマネジメントみたいな事もしてるしな…私のサボリを上にチクったのもこいつだ。

「いいや。あたしは自分で思考する、という点では貴女あなた以下。あたしのほうが人生、サボってると思う」そういう見方もあるものか…しかし、これではっきりした。やっぱこいつは―

「私の相棒だなあー菫は」と私は顔をくしゃくしゃにして菫に笑いかける。

「相棒、ね?なんか納得いかないけど…まあ、友達って程度の意味で受け止めてあげるわよ?」素直になってもいいのに。

「釣れないところがまた良い。私の言うことを疑って検証してくれる―そんな友を待っていたのだァ!!」私はテンションが上がってきてしまっているらしい。浮かれてるのかな。、って不安だったから。

「あんた…ワーカーとかじゃねくて学究がっきゅう向きね。仮説と検証…科学には欠かせないからね」と彼女は言う。そういうのは柄じゃない。私は直感、センセイの言うトコロのセレンディピティで生きてるのだ。空から結論が降ってくるかのような。

「私はね…文系と言うか思いつきで生きてるから!!そういうのはお呼びじゃないんだなあ〜」とか無駄に絡んでみる。菫、鬱陶うっとおしがるだろうか?

「そういう勘も、文章化されてない仮説と検証の一部だとは思わない?」と彼女はノッてくれる。うんうん。そうは思わないけど、言葉が返ってくるのが嬉しい。他の達じゃあ―のれんに腕押し、馬の耳に念仏な感じで通じなかったから。


「なあ…菫」私はじゃれつき終わると向き直る。

「どうしたのよ?いい加減、宿舎に帰りましょうよ…お腹空いたのよ」と彼女は長い髪をはためかせ言う。

「頼みが出来た…」そう。さっきの会話で確信した。こいつとなら―「」反抗。ティーンエイジャーの特権。…そしてこのコロニーの中で真理を求める事。

「はあ?あたしにアンタみたいに色々諸々いろいろもろもろサボタージュしろっての?冗談キツイわよ」いいや。そんな事は私がやっとく。私が頼みたいのは。

「ここでの真実を掴むべきだ、我々『レジスタンス』は」とか大見得おおみえを切っていってみる。

「…それ知ってどうするつもり?私達はたかが自動人形オートマタ、よ?」という菫の顔は諦念ていねんに満ちていて。見てて気持ちいいものじゃない。

「純然なヒトと何が違うってんだよ?」と私は問う。人の形をし、人の思考形態、言語を持ち、感情さえもある。たかが人形と捨てられるのは―腹立たしい。

「…違わない。ただ、向こうはそう思ってくれないわよ?」ああ。こいつは賢いでやがる。

「知らないだけさ…思い知らせてやる…私達が」どうすりゃ良いのかは分からんけど。

「地球を侵略するつもり?」からかうなよ―いや。アリか?それも。殴り込み。良いじゃないか。少年漫画しょーねんまんがで見た不良ふりょーみたい。

「ここから出れりゃな」これはなかなか難しい。

「装備なしにコロニーから出て見なさいな…私達程度ていどの遺伝改造では放射線にやられるのがオチ…酸素タンクもないしね」宇宙線が飛び交う外は―死の大地だ。今はまだ。

「じゃあ―補給船を襲撃してジャック。そのまま地球に殴り込みとか」と私は脳筋のうきん丸出しの提案をしてみる。

「…補給船はコストダウンの為に使い捨てになってる…積荷を放出したら分解され、そのデブリはコロニーの材料になるのよ」なんだ、じゃないか?

「お前さ…昔に一度検討済みか?この手の話?」と私はく。じゃないと説明がつかないような―

「…あんたは昔はアホ丸出しだったから知らないだろうけど…あたしは昔はそれなりに跳ねっ返りが強かった…なんだろ、遅めのなぜなぜ期というか早めの思春期と言うか―」と彼女は懐かしそうに言う。優等生のこいつにそんな過去が…あったっけ?私は記憶力がない。3歩けば、どうでも良いことは忘れる派だ。

「まあそれも『』から妄想で終わっちゃったけどさ」という。なんだよ、その時に私に話しかけとけよ。いや。こいつが反抗的になり始めた時は、私はまだ脳天気なアホだった。毎日のおやつのことしか考えてなかった。

「…もう一度、今度は私と一緒にやってみない?な?いいだろ?」と私は力押しで彼女を説得する。

「良いわよって言ってあげたいけど―案外暇でもないのよ、あたし」と断られた。優等生は仕事に勉強に大忙しかよ…

「んじゃあ。たまにこうして私と話してくれるだけでも良いから!!」と私は食いつく。あんま良いことじゃないのは分かってる。

「…それくらいなら、ね。これで気が紛れるなら付き合う」おう優等生の回答かよ。つまんねえなあ。もっと乗ってほしい。こいつは割と使える―と言ったら失礼だが、考えられるやつなのだ。


                   ◆


 あたしは。どうにも周りとズレていたらしい。

 他のオートマタ達は自我が弱かった。何を話しかけてもチューリングテストに合格するAIを相手にしてるような空虚な会話しか返ってこなかった。


「…地球にはどんな人が生きてるんだろうね」と12歳のあたしは友人に問うた。


「私達と同じ人たちだよ、そう習ったじゃん?」友人なにがし子ちゃんはこう応えた。

「お前、火星人か何かか?」友人ぼう太郎くんはあたしを茶化ちゃかす。

「そうじゃない…私達は彼らのクローニング体…違うんだよ、」こう言っては見るものの。

「クローニング体だから一緒だよ…ホモ・サピエンス―賢き人」某子ちゃんは知識を使ってこたえてくれはするけれど。

「私は動物の種や界や綱目こうもくを問いたい訳じゃないの。もっと違う、なにかなの」と私は誠実に疑問をていす。

「お前頭のネジどっかにやったんじゃねえの?」と友人某太郎。こいつは折り紙付きの阿呆あほうだ。賢いふりした疑問を持てないヤツ。自らのといを捨てた子ども。あるしゅ哀れだ。

「かもね?でも。アンタみたいに思考停止してない…良いから外でボール遊びしてなさいよ」思えば。某太郎くんはあたしが好きだったのだろう。自惚うぬぼれだけど。

「は?なんだよすみれ?俺の事馬鹿にしてんのか?」ああ。バレたか。そう、あたしは君が―

「折り紙付きの阿呆アホ、馬鹿、間抜けだと思ってる」言ってしまった。喧嘩になりかねないが―「喧嘩なら受けるわよ?アンタら男に勝てるからね…今の所」そう肉体的な差異が出来…性差が出来、喧嘩が成立しなくなるのはもっと後の話。

「しゃあ。やったらあ」うん。この流れ一連が―。AI臭が半端ない。


 そして。 

 あたしは某太郎くんの股間にしこたまヤクザキックをお見舞いしてやった。

 で。彼はうずくまり泣いてた。完全勝利。姑息こそくと言われればそうだが、戦いはそんなものよ―

おうせんせー菫がたかしの股間蹴って泣かせてまあーす」げ。チクる阿呆がいやがった。



「菫…言い訳ならきいてやる」と眼の前の桜先生はお怒りだ。

「言い訳は―ないです」と言うしかない。応えを誘導される尋問。なじられるのは必至で。

「お前が変な事言い出したってのは聞いてる」と先生。

「地球人は私達みたいなクローン体とのかな、って疑問に思いまして」とあたしは正直に話してしまう。この人は…大人だから子どもよりはマシかな?でも。彼も結局はクローン体。自動応答なアンサーをもらうのかも知れなくて。

「…そうは違わんって言ってやるのが教育者だろうな」と先生は自分に言い聞かせるように言う。

「じゃあ『先生』じゃない桜先生はどう思いますか?」と私は疑問を大人に押し付ける。ああ。子どもじみてるよなあ、と思いながら。

「残念ながら」とはくをおく先生。「我々と地球人類は隔たってる…違う存在だよ」というがそれは―

「遺伝子的な意味で?」と私は問う。そう。あたしたちには地球人類にはない火星用の遺伝子が一通りノックインされていて。

「まあ。そこもそうだが…菫が言うように……俺達は」そういう先生の表情は読めない。

「…どう違うんですか?」と私は問うてしまう。パンドラの箱だと知りながら。

「俺達には親は居ないが―オリジナルは居て…地球上で生活してるってところだ」と先生は話を始める。

「自分が2つ…」言えるな、とあたしは思ったんだ。

ぞ?お前は分かってるはずだが」と桜先生は言うのだ。

「『あたし』は『あたし』…地球上のあたしは―別の存在…」

「ん。哲学の素養があるな。そのとおり。自我が連続していない。こいつは別個の存在だ…だから。『お前』は『お前』で在って良い。何も気にすることも引け目を感じることもない」そういう彼は優しげな目をしていて。

「そうかな…『あたし』は―あたしの絞りカスかなんかじゃない?火星での代打要員なんかじゃない?」そう懇願こんがんするように聞いてしまう。

「後者は―今までお前に教えてきた通りだから否定するのは嘘だ」と先生は言う。最近の授業でそう知らされた―我々は代打要員でしかない。だが誇りを持て、文明をぐものなのだから、と。かなりショックだった。

「そう。じゃあたし達は家畜同然なんだね?」と私は言うしかない。

「違うね」と先生は言う。

「どう違うのよ!!」あたしは叫ぶ。これは存在の危うさの叫び。自らの使命を押し付けられた者の叫び。

「オリジナルの意思が乗ってるってのは―まずい答えかな?」と先生は問う。なんでこのタイミングで月並つきなみな事を言うのか分からない。

「…オリジナルと『あたし』が関係ないって話をしたばかりだからね」お前は『お前』なのだ、と言ったばかりだろう貴方あなたは。

「だが。彼ら彼女は託さざるを得なかった…に。だから俺達はそういう意味でだろう?」なかなか詭弁きべんじみてて理解はさせはすれど、納得の域にいかない。甘い。

「宗教家のやり口そのものね」とあたしは言う。旧約聖書をベースにした宗教の定め、選民意識せんみんいしき…あたしはああいうやり口が嫌いだ。何が特別だよ!弱者の論理でしかない。


「ああ…全くだ」と先生は応えた。それは話の転回点なのかも―知れない。


                   ◆


「お前の言うことはもっともだ…菫。俺達は欺瞞ぎまんの上に成り立つ義民ぎみんでしかない」義に尽くし、たみ。それが義民。

「それをりに選って貴方が認めるの?」貴方は欺瞞に気づいた、でも、義民として。この状況の中で、だ。そこに意味を求めるのは『無知の知』を鼻にかけるソクラテス程度の価値しかない。

「…認めるさ。てな。子どもの疑問にとことん付き合ってやるのが義務でもある…」

「子ども扱いしないで!!」あたしは感情が止まらない。

「子どもで良いじゃないか…あのな。世の中の大人の大半は―お前はあまり知らんだろうが―疑問に向き合う事をやめる…そうするのが一番楽だからだ。ただ、示されるものを甘受かんじゅするのが一番楽だからだ…お前は、真摯しんしに向き合ってるじゃないか?それは子どもにしか出来ない誇るべきことなんだぞ?」言いくるめにしては上質だけど―

「大人は―考えられなくても、、できるじゃない!!」そう。この間違った状況を正してよ、私達がを。大人として。

「ああ。だがな?そこには責任が伴う」とおう先生は言う。

「責任?」

「ああ。俺達は…地球の余剰人口を抱え込むための世界を造る責任がある…そういう使命を背負って…義民になった」そういう先生は遠い目をしていて。

「知りもしないオリジナルとほかそのの為に?冗談でしょ?」そう、なんであたしがそんな事してやらないといけないんだよ!!そんなもん自分たちでやってよ…

「ああ。お前の言うとおり馬鹿みたいだ…だが、考えろ」と私の眼を見ながら言う先生。あまり見つめられると―恥ずかしい。

「逆?」つまり?私達が造ってやっている、とでも?

「そう。今お前が考えた通りだ。俺達クローンは…火星…世界を造り、地球人を迎える…神や天使に近い所業だとは思わないか?」そういう先生の顔は誇らしげで。でも、そんなの…

「地球の神様に丸投げしようよ…あたし達のやることじゃないよ…」いくら神や天使に近かろうが―


「神など居ないんだ…人の形をした神は、な」そう、言い切る先生。


「じゃあ…誰が助けてくれるの?私達を!!」叫び。みっともない子どもの駄々。言わなければいい真実…

「誰も助けてはくれない…地球の同胞も。神も。天使も」先生の冷たい目はあたしではない何かを見通してる。

「―救いがない」私はそう言うので精一杯で。

「そう救いなどない…ならば」

「ならば?」


「…自分でなんとかするしかないってこった」急にふざけた調子になる先生。

「…で?真面目にコロニー建造する自動人形オートマタになれと?」そう。ここで転調てんちょうをしかけるなら、彼はこういうことしか伝えきってない。

「…、としか言ってやれないんだ…哀れな自動人形であるこの俺は」…この人も私と同じ疑問にたれたのだろうか。

「それが苦しいことでも?」ああ。とたんに子どもじみてしまう。

「ああ。そういうのも子どもから大人へのステップだ。通過儀礼つうかぎれいとも言う」

「…そんなの嫌だ」

「…とは言え。日常はお前を包み込む…大多数に流されて、お前はその疑問を忘れられるのかも知れない…」うん。子どもだましのおためごかし。

」とあたしは言い切る。一度芽生えた考えは、アイディアは、もしくはイデアは。消えはしない。

「ならば。呉菫くれすみれ。それを隠し通し、みがけ。からだ」と先生は秘密を言うように言うのだった。


                  ◆

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