〈11〉「トゥ・ビー・コンティニュー」


 それから。俺は撫子なでしこちゃんに今までの事を―かいつまんで話した。

「要するに―俺は呉一生くれいちおってヤツのクローンだ」と。彼女は多少は驚いていたが、割とすんなり受け入れてしまった。子どもだからなのか、信じてくれているのか。分からんがまあ、ありがたい。

「で?実験施設を抜け出した一生さんは逃亡中、と。まるで映画だね?」いや実験施設ではないが、まあ、似たようなものか。

「映画だったら適当なところで話、切れるだろ。現実の嫌なところはつづくってとこ」トゥ・ビー・コンティニュー。続編は制作資金を確保出来たら撮影予定!!なんて都合のいい話になってくれればどんなに楽か。

「もし―捕まったらどうなるの?」と撫子ちゃんは素直にく。

「んあ?まあ…飼い殺しにされるだろうな」殺されはしない。なんせ貴重なプロトタイプだ。だが、まあ、拷問実験トーチャーテストじみた実験は食らわされるのかも知れない。人格を持った使い捨ての兵士。特攻専用の人形…少し考えただけで、こんな悪用法を思いつくのだから。

「そりゃあ…捕まっちゃダメだよ」と心配そうに言う撫子ちゃん。

「とはいえ。さっきのニュースで俺の存在は世界にバレた…捕まるのは時間の問題だ、海外に高飛びしようにもパスポートが作れねえ」

「うーん」と撫子ちゃんは悩むのだが―俺は急に時間が気になって来た。割と長々ながなが喋っているから。


 時計を見れば11時だ。

 10歳児はそろそろ寝る時間な気がする。話もちょうどドツボにハマってきているので俺は、

「そろそろ話切り上げようぜ?」と言う。いい加減風呂に入って寝かしつける時間だ。相手が微妙に大人びているせいで忘れがちだが、相手は小学4年生である。

「ああ。そういえば」と撫子ちゃんは言う。話にすっかり夢中になっていたらしい。

「風呂入って寝な、今日明日に捕まる訳でなし」

「うーん?そう?でもさ?何か今、一生さんと別れたら後悔する気がする…」と彼女は言う。

「何?泊まれって言ってんの?流石にそれはない」と俺は紳士的に言う。近くのネットカフェに避難するつもりだったのだ。

「もうちょい話そうよ…今からお風呂沸かすから一緒に入ろ?」となんでもなさそうに彼女は言うが―クローンの上にロリコン犯罪者は救いようがないのでお断りする。

「いやだ」と返す。このの距離感がつかみにくい。俺は一応男である。恥ずかしくないのかお前は。

「わたしは気にしないけど」とあっさり言い切る彼女。自分が女であるという意識はまだまだ薄いのかも知れない。でもまあ…10歳、もうすぐ11歳の彼女の体は女に寄り始めている。今はいいのかも知れないが将来の為を考えたらアウトこの上ない。

「俺を犯罪者にしたくなきゃやめろ」と俺は常識を盾に逃げることにした。

「…帰らない?」と彼女は訊く。

「寝るまでは居てやるから、さっさと風呂沸かしてきな」

「はいはい…」そういいながら撫子ちゃんは風呂場に行くのだった。


                ◆


「あのさ」風呂から上がってほこほこしている撫子ちゃんは俺に言う。

「ん?どうかした?」

高石たかいしのおじさんに相談するのはどうかな?」ほう?

「高石のおっさんに全部話せ、と?」俺は問う。それはどリスキー過ぎて気が引ける。おっさんが信用できないのもある。まあ、同時に怪しい世界にどっぷりな彼なら何か出来そうな気がしないでもない。

「いや、あの人、他人の過去には興味ないから」それは違うぞ撫子ちゃん。君の事をずっと気にしていたんだから。

「ま。何かやばい技はありそうだよな、おっさん」あの何でも作り屋さんは技術はあると思う。自警団の好きなアレ爆発物も作れるし。

「でしょ?多分だけどわたしから頼めばきっと力になってくれるよ」

「…」と俺は一旦、間を置いて考える。俺の捜索はどのレベルでなされているのだろうか?

「…何考えてるか知らないけど―おじさんは人を売ったりしないよ?」おう、バレてたか。そう、おっさんが俺を売る可能性を考えていたのだ。

「よく考えてる事分かったな?」

「一生さん、割と分かりやすいんだよ」マジか。隠し立ての効かない体。逃亡生活への大きなマイナスにしかならんぞ。

「嘘つくのは止めとくわ」と言ってみるが、これから先どんだけ嘘を重ねなくちゃいけないのだろう。


「…っと。12時か。そろそろ私寝るから」パジャマ姿の撫子ちゃんは言う。

「んじゃ帰るか…とりあえず相談の続きは明日だ…またいつもの公園に居るからな?」

「分かった。じゃあ…おやすみ、一生さん」

「おう、また明日な」


                 ◆


 わたしは。

 今回、友達を1人なくして、1人得た。プラマイゼロ。相変わらず孤独な日々であるのは間違いないけど、今度の友達はちゃんと体のあるお友達…

 

 しかし。さっき一生さんはなんで一緒にお風呂に入ってくれなかったのかな?

 別にわたしは裸を見られたって恥ずかしくない。胸に膨らみがあるわけじゃないしさ。

 別に変な気持ちになったりしないと思うんだけど。


 大人同士がする事については知ってはいる。お母さんの仕事のせい。男の人のを女の人のに入れることは知っている、知識として。でも、それに実感はない―のだけど。

 私は一生さんの裸を見たかった…のかも。これがどういう感情かは分からない。でも、ドキドキしてしまうのは確か。


 体に。

 甘いうずきを感じる。

 けど。どうしたらいいのか分からない。抱きしめて貰えばいいの?いや…知ってはいるんだけど。まだ私の体じゃ一生さんはそういう気持ちになってはくれない…って。私は何を考えているの?


 ―わたしは一生さんに抱かれたい?

 …いや、これじゃ私は変態だ。小学生が大人に抱いてほしいだなんて、ダメだ。社会的に犯罪だ。

 ―わたしは欲情してる

 ああ。こんな気持ち認めたくはないけど…そうみたい。体の下の方が熱い…


 この後の事は書かないでおく。いくら個人的な日記だって書かなくていいこともあるのだ…

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