第10話

 涼真が元のアパートへ行くとそこには誰も住んでいなかった。近所で訊くと結婚して引っ越したと言われショックを受けた。

何故?待っていてくれなかった?相手は誰だ?

 市役所で事情を話して住民票を見ると、紗良は俺の籍に入ったままになっていた。

結婚したと聞いたが表面的にということかと思った。市役所の担当者に行方不明になった人の戸籍の扱いを訊くと「通常、失踪は7年間待つと失踪宣告が認められ死亡の扱いとなるし、離婚するのであれば3年で正当な事由と認められます」と言われた。つまりもう3年過ぎているから紗良が離婚したいのであれば出来るはずだった。それなのにしていないのは、何かの理由で誰かと暮らしているが、俺を待っているんだと確信した。紗良を信じた。

 

 ファミレスで食事を摂り、コーヒーを啜りながら住民票を眺めていた。

小一時間ほど考えて、あっと気がついた。結婚した後、子供が出来たらアパートじゃ狭いから、紗良の両親が住んでいた一戸建て住宅に引っ越したんだった。よく見ると記載されている住所はそこを示していた。

「そうだったんだ」大きな声で叫んでしまった。周りからじろりと見られ、恥ずかしくなってコーヒーを一気に飲んで店を出た。

真っすぐ、紗良の親が住んでいた家に向かった。

 

 そこには島田の表札が掛かったままで、夫の表札はなかった。紗良の車が駐車場にあった。直ぐにでも会いたかったが、我慢して借りたレンタカーの中から玄関を見守っていた。

 午後の3時過ぎに真帆が学校から帰って来た。小学校6年生になったはずだった。大きくなって、すっかりお姉ちゃんだ。飛び出していきたい気持ちを押さえるのが苦しくて、涙が溢れた。夜、大西が来た。直ぐにでも殴り殺してやりたかったが、紗良の為、真帆の為と思って我慢して見ていると、紗良の家に入ってゆく。何!紗良と暮らしてるのは大西か?と初めて知った。怒りが体中を駆け巡った。自分の顔を何回も殴って少し冷静さを取り戻した。紗良は大西を嫌っていたから、何故、そうなったのか見当もつかなかった。

 その日から俺は陰から紗良と真帆を見守ることにした、大西と一緒に暮らしているので名乗り出ることが出来なかった。俺を殺害しようとし、紗良を奪った大西にどう復讐するかを考え続けた。

 何回か大西を尾行しているとあの時の友人と居酒屋に入った。俺はすぐ後ろの席に陣取りビールを飲み焼鳥を食べながら、耳をそばだてて後ろの話を聞いていた。あの事故の時の話も出たし、どうして紗良と大西が一緒に暮らすようになったのかを、大西は自慢話のように話していた。

俺は、悔しさと怒りで唇を嚙み切ってしまった。

 

 俺は変装をして紗良が出かける時も尾行していた。そのうち紗良の不思議な行動を目にした。ホームセンターに入るとすぐトイレへ行き、出て来た紗良は、真っ黒な長いウィッグをつけ普段着ないような派手な赤いトップスにボトムス、そしてサングラスに顎に大きな黒子などで変装していた。そして竹の包丁やガラス切りや27センチの男物の靴を買った。大西の足のサイズは、釣りの時シューズを借りるとぴったりだったから俺と同じ26センチのはずだった。何故そんなものを買ったのか?分からない。

 俺は、真帆が窓に鍵を掛け忘れる癖を思い出して、その日の深夜、行ってみると、思った通り真帆の部屋の窓には鍵がかかっていなかった。

 真帆は寝ていたが机に文字を沢山書いた紙が置いてあった。作文でも書いたのかと思って覗くと、紗良が大西を殺害するための手順書だった。驚愕した。紗良の目的を知り、それを写真に撮り外へでた。家でじっくり読んでどうしたら良いのか考えた。実行日まであと3日だった。

 大西が自分を殺そうとさえしなければ、紗良がこんなことを考えることも無かったと思い、泣いた。

そして俺は事故のことを思い出した。

 

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