第11話

 島田涼真は大西にいきなり殴られて一瞬気絶した。救命胴衣を脱がされて船縁から海に落とされそうになっている時に気が付いた。「何するんだ!課長っ!」傍にいる課長の友人にも助けてと叫んだが、耳を塞いで後ろを向いていた。落ちまいとして近くの物を掴んだが2リットルのペットボトルだった、2本掴んだが何の役にも立たず海に落ちてしまった。

 何回も「助けてくれっ!」と叫んだが船はどんどん離れて行く、岸までは10キロと言っていた。涼真はとっさにぺットボトルを上着の中に入れて裾をズボンの中に入れベルトを締めた。1本は空でもう1本はお茶が一杯入っていた。それで自然に仰向けで浮くことが出来た。夜が来て朝が来る。何回もそれが繰り返された。喉が渇いてペットボトルのお茶を一口飲んでまた上着の中に入れる。それも何回繰返したか分からなくなった。

 潮の流れに身を任せるしかなかった。俺は泳いでも数百メートルだ。体力は温存した方が良いと思った。偶々流れていた釣り竿を拾って、ズボンの尻ポケットにあったはずのハンカチを出すと運よく白っぽいものだった。紗良に感謝して、それを釣り竿の先端に縛り付けて、竿をベルトに挟んで立てる。

 波に揺られながら眠る。幾日も過ぎ去って体力の限界を感じはじめた、空腹はもはや感じなくなっていた。意識も朦朧とし起きているのか寝ているのか分からなくなってきた。そしてお茶が無くなり、愈々ここで死ぬのかと漠然と思っていた。

 ふと漁船のエンジン音で目が覚める。白旗は立っていて、それを目指しているように見えた。涼真は残された力を振り絞って旗を振る。それに呼応するかのように船上で旗を振る人影が見えた。

助かったぁと思った。

間も無く漁船に引き上げられ、助けてくれた礼を言って意識を失った。

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