第3話

 岡引一心は事務所のある浅草から電車で2時間ほどのところにある大都城市の大西宅を訪ねた。後頭部を殴られ入院中の島田紗良は、殺害された大西晴斗と戸籍は入っていないが実質上の妻で、その娘の島田真帆の面倒を見るために札幌から両親が来ていてた。それで探偵の岡引一心と名乗り家の周りと室内を見させて貰った。

 犯人の付けた庭の足跡は不自然だ、普通に歩いているようで、態々足跡を残すためにつけたように見えてしまう。そして賊は主人の部屋の窓から侵入し主人を殺害した後、廊下へ出ているが、足跡はそこで足踏みでもしたかのように多数付いていて、そこから真っすぐ玄関に向かうところでは走ったかのように残されている。しかも、多数残されている場所までの足跡と、その後では付き方が何故か変わっている。

 さらに妻の倒れた位置を写真で見る限り、足跡からはかなりの距離があり突き飛ばされただけではそうはならないはずだと感じた。何故なら通路からテーブルの角を直線では結べないからだ。その間にはソファがある。

突き飛ばされたのにカーブを描くことは考えられない。ソファにぶつかるはずだ。

そうすると妻の自作自演も考えられる。

 もう一つの妻への疑問は、死亡推定時間内にコンビニへカップ麺を買いに行っていることだ。

 当初の死亡推定時刻は2時から3時までの間だったが、妻がコンビニで買い物をしたのがレシート印字によれば2時26分だったので、警察は死亡推定時刻を2時20分から3時の間に変更したのだった。

 コンビニまでは玄関を出て車に乗って片道5分、往復10分といったところ、妻が店に他に客はいなかったと言ってるから店内に居た時間は1、2分とすると、買い物で家を空けたのは2時19分から31分頃の間のはずだ。

 一方、賊は、妻が買い物で家を出て直ぐに敷地内に侵入し、中の様子を窺いながら建物の裏へ回って主人の部屋の窓から室内に入り、物色しているところへ誰かが部屋に入ってこようとしたので、待ち伏せし、入って来たご主人を催眠スプレーのようなもので眠らせ、床に倒してから首を切った。この作業には過去の事例から考えても、15分くらいは最低必要なはずだ。賊が2時19分に入ったとして殺害終了は2時34分だ。

 すると妻が家に戻ったとき賊が家の中にいたことになる。それは妻が賊に突き飛ばされたことと矛盾しない。足跡は歩道で消えていて車で逃走したと考えられているから、車は玄関前にあったはずだ。しかし、妻は玄関前の車は見ていないと証言し、まったく普段通りにリビングにカップ麺を置いて夫の部屋へ行こうとしている。賊が夫を殺害した時間と重なっており、物音がまったく聞こえなかった訳はない。その辺に矛盾がある。

妻の犯行だとすると、コンビニへは凶器を捨てに行ったのではないかと考えられるので、そう警察にも伝えた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る