第4話
4日後、紗良の病室に桜井岳警部さんと、高野優斗刑事さんが来ました。
「調子はどうですか?」警部が訊くので「えぇ今歩く練習してますから、先生の許可が出たら家に戻れると思います」私がそう答えると、高野刑事が病室を出て行きました。きっと先生のところへお伺いを立てに行ったのでしょう。
「それは良かった。記憶の方も大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫です」私は体力も記憶もすっかり戻っていた気がしていたのです。
「先生のオッケー貰いました」高野刑事が勇んで戻ってきたので「じゃぁ、パトカーで送りますので、一回家に戻りますか?」そう言って警部は私に準備をするよう促すのです。
「あっ着るものが・・」私は着替えようとして初めて服や靴の無いことに気付いたのです。
「着ていた物は血が付いていたのでこちらで預かっています」そう言って警部が自分のコートを私の肩から掛けてくれて「家に戻ったら着替えて貰えますので、ちょっと我慢して下さい」と言うので、お礼を言って、病院のスリッパを履いてそのまま外出したのです。
久しぶりの我が家は懐かしかったぁ。高野刑事がインターホンを鳴らすと真帆がドアを開けてくれました。
私を見て「お母さん!」と叫んで抱きついて来るの。
「ごめんね、心配かけたね」娘を抱きしめました。
「先ず、部屋で着替えてから、盗まれたものを確認して下さい」高野刑事に促されてリビングに入ると、両親がお茶を啜っていました。私の顔を見るなり「紗良っ!大丈夫?」と言って母は涙を見せ私を抱きしめてくれたの、父も涙を見せていたわ。
両親にお礼やら状況説明やら今後のことなどを座り込んで話していると、刑事さんが咳払いをするので、「ちょっと家の中確認してくるから」そう言って立ち上がりました。自分の部屋で着替えをしてから、夫の部屋の確認を始めました。引き出しを開けると財布が入っていて、中を見ると札が入っていませんでした。以前、大西が「俺はいつも5万から8万くらいは持って歩いている」と言っていたのを思い出しました。
それから、自分の部屋のバッグを調べると、あるはずの3万円2千円はそのまま財布に残っていてほっとしました。
そして、タンスの小さい方の引き出しの奥底に封筒があるはず・・・と手を差し入れて探したら非常時用として隠していた20万円が封筒ごと残っていました。
刑事さんに「お金は大西の財布から8万円ほど盗られたようです」と報告しました。
「あと貴金属はどうですか?」と言われ、ドレッサーの引き出しに仕舞ってあった宝石箱を開けて中を見ると、指輪やネックレスなどはそのまま全部あったので、刑事さんにそう伝えました。
あとリビングとか二階とかも見て回ったけど盗まれた物は無いようでした。
その後、刑事さんに連れられて賊の侵入経路を実際に歩きながら、再度説明を受けました。
賊が門の前の車道に車を止めたところから、夫の部屋の窓から侵入、という所まで説明した後、刑事さんは一旦家の中に戻って大西の部屋の床に残されている足跡を示しながら、「物色し始めた所で誰かが近づく気配を感じドアの陰に隠れ、ご主人が部屋に入ってきたところで薬を嗅がせ眠らせた。その時に恐らく賊が机にぶつかって置かれていたトランプが床に落ちて散乱し、その上に仰向けにご主人が倒れた。その後ご主人の首を刃物で切ったとき、血が壁にまで飛び散った」と説明を続けるのです。その血の跡は今でも残っていて恐怖を感じました。
さらに「その後、賊は、私が帰って来た気配を感じドアの隙間から様子を窺っていて、私が部屋に近づいてきたときに勢いよく飛び出し、私を突き飛ばしてから玄関を出て、車に乗って逃げ去ったようです。靴についた庭の土が明確に経路を示していて間違いは無い」と刑事さんの説明は続きました。
ただ、「私が買い物から帰って来た時には玄関前に車は有りませんでした」と言うと、「じゃ、共犯者が車を運転していて、犯行が終わるまで少し離れたところから様子を窺っていて、賊が戻って来たので車をつけて賊を乗せ逃げた、ということかも知れませんね」と説明してくれました。
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