第5話 私が立てることに驚くのは何故か。それは立つのに力が必要だからだ

 皆は重力というものを知っているだろうか。

 知らない人間はいないと思う。よしんば知らないとしても感じていない人間は絶対に存在しないと断言できる。たとえ赤子であろうとも重力は体感している。力は4つあると紹介したがそのうち3つを知らない、つまり電磁力を知らないとしてもやはり重力は絶対に知っているだろう。むしろ力といえば重力だと思う人も多いだろう。それぐらい身近な力だ。


 では重力とは一体なんなのだろうか。重力とは物と物同士が引っ張り合う力だ、と言うと多くの人がそのとおりだと答えてくれるだろうが、この答えは間違いだ。

 正解は、質量のある物同士が引っ張り合う力、だ。


 皆は質量というものを知っているだろうか。

 これについての説明は電荷同様、いや、電荷以上に難しい。何故ならゲージ原理から導出しようとしたときどのゲージ群に重力相互作用が属するべきかを私が知らないからだ。なので何のゲージチャージか教えることができずちゃんとした説明ができない。

 逆に電荷と違って説明できることがある。それは物体に何故質量があるか、だ。物体が何故電荷を持ち得るのかは知らないが、何故質量があるかは説明できる。ただ、こちらの説明もやろうと思うと大変だ。何故なら、それを説明するためにはまずゲージ原理を説明してゲージ変換を説明してラグランジアンに質量項があるとゲージ不変性を破るために質量項を禁止しなくてはならないが現実の物体は質量があることと矛盾するためにそれを解決するためにヒッグス粒子を導入してヒッグス粒子が自発的対称性の破れによって真空期待値を持ち物体に質量が与えられるというヒッグス機構があるから質量があるのだ、という説明をしなくてはならないからだ。この説明はとても大変なので省略する。


 では結局、質量とは何か。それは動かしにくさのことだ。一応、この説明は古典的であるという注釈をつけておく。古典的という言葉の意味は古臭くて役に立たないという意味ではなくて、量子論ではないという意味だ。

 重いものほど動かしにくい。人類なら誰でも知っていることだろう。それのことだ。体重のことを質量と思ってもらっても大体は合っている。ただし、あくまで大体だ。体重と質量が本当に一致するものかは実は確証がない。ここで言っているのは重力加速度の違いの話ではない。


 皆は重力加速度というものを知っているだろうか。この文言が今日は多いが許してほしい。

 重力加速度というものは……しまった。説明の順番を間違えてしまっている。これはちょっと後にしよう。


 とにかく質量とは重さだと思ってくれればいい。少なくとも私たちの世界では。

 そして質量のあるもの同士では万有引力の法則が働いている。


 皆は万有引力の法則というものを知っているだろうか。

 これは大して難しくない。電荷があるもの同士は引力が働いたり斥力が働いたりすると言った。あれの質量版だ。違うのは電荷じゃなくて質量だというところと、引力は働くが斥力が働くことはない、というところだ。逆を言えば負の質量がないとも言える。電荷はプラスとマイナスがあって異符号だと引力だったが、質量は同符号で引力が働きマイナスは存在していないので斥力にはならないのだ。マイナスの質量があると特殊相対論からタキオン粒子というおかしなものが予言されるので、あると困る。そして今のところ見つかっていない。今後もないだろう。

 偉大なる先人にケチをつけるつもりはないが、万有引力は言い過ぎだとも述べておこう。全ての物が引き合うわけではない。あくまで質量のあるものだけだ。そしてマイナスの質量の物質はなくとも、ゼロ質量の物質は存在する。光子とグルーオンがそれにあたるが話がややこしいだけなのでやめておこう。


 さて、さっき言い間違えた重力加速度の話にこれで戻れる。

 万有引力の法則は地球と人間との間に働いている。これが我々が地面に縫い付けられている理由だ。ジャンプしても重力に引っ張られて地面に戻ってしまうわけだ。

 万有引力の法則は距離の二乗に反比例して地球の質量と引っ張られる物質の質量に比例している。しかし地球の半径に対して我々人類が動く高さなどたかが知れていてほとんど同じようなものだ。なのでこの距離の二乗の反比例、という部分と、地球の質量、という部分はいつも同じなのでひっくるめて重力加速度と読んでいる。地球上にいれば大体同じ大きさだ。

 月にいくと体重が変わる、という話を聞いたことがあるだろうか。それは月の質量が地球より小さい、すなわち重力加速度が小さいため体重が変わるという話だ。


 ちなみにさっき、質量と体重が一致するかは不明だと述べた。そのことについてここで説明しよう。

 皆は運動方程式というものを知っているだろうか。恐らく知らないだろう。

 大したものではない。質量のあるものほど動かすのに大きな力がいる、というだけのことだ。ニュートン力学の第2法則とも呼ばれる。

 人間は皆、質量を持っている。そして体重計に乗れば体重が計れる。体重というのは重力加速度と質量の積なので実質、質量を計っていることになる……というのは正しいのか、という問いがある。

 万有引力の法則を重力加速度を用いて簡潔に表したとき、運動方程式はこうなる。


 質量×(何か)=−質量×重力加速度


 何か、は今は気にしなくていい。問いはなんなのかというと、左辺と右辺の質量は本当に同じか、というものだ。もっとちゃんと説明すると、運動方程式には必ず左辺があり、右辺は働く力を示している。今の場合は重力だ。この左辺の質量と、重力の式である万有引力の法則に出てくる質量は本当に同じ質量なのかという問題がある。左辺の質量を慣性質量、右辺の質量を重力質量と呼ぶ。これらが同じかどうか、Eöt-Wash 実験というものでずっと確認がされている。最新の結果は2012年でarxivに載っている。番号は流石に覚えていない。精度は10のマイナス12乗で一致していると聞いたことがある。つまりほとんど同じだ。この慣性質量と重力質量は同じだ、とする原理を弱い等価原理、Weak equivalence principle, 略してWEPと呼ぶそうだ。専門ではないのであまり知らないが。


 さて、以上に述べたように重力については色々と知られてはいる。

 しかし以前に言ったがこの重力はあくまで我々の世界の重力であって、この世界の重力が同じように働いているとは限らない。私が動けるあたり、ニュートン力学は大体合ってそうだが。

 それを調べるためには天体を見るのが一番であり、光についても同じ物理法則が働いていそうだ、という予測は立った。中々、いい調子じゃあないか。


 ……予測ばかりしたせいで今回は叫ぶことがない。だが科学者というのは常に叫べるある便利なワードがあるのでそれを叫んでおこう。


「結局、重力とはなんなのだぁあああああああああああああああああああ!!」

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素粒子論理論物理学者、異世界に立つ じぇみにの片割れ @oyasiro13

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