第27話 アイの就職先

「それは誰なんだい」と仁が聞いた。

 それに対しては高弦が答えた。

「令からは答え難いかもしれないので、私が言おう、それは敷島昭夫というイギリスの先端電子技術研究所で主任技師を務めていた男で、そこで私の同僚だった男で・・・」

「え、和尚さんイギリスに居たんだっけ。第一そんな研究所で働くエンジニアだったんだ」と陵が言うと、皆彼の方を見て黙るように促した。高弦が言った。

「私だってコンピューターの技術者さ。まあ、そこで働いた期間は短いがね。そうそれでまだ言っていないが、その敷島博士は令君の叔父さんだよ」

 一同はまた声を失ってしまった。陵が再び口を開いた。

「なるほどね。それで令の作ったプログラムと相性が良かったのだな」

高弦が彼の話で固くなった雰囲気が陵の能天気な発言で少し緩んだことにほっとした。令は特に様子を変える訳でもなく、淡々としていた。

「叔父と言っても、子供の頃から全く会ったこともないのです。この前高弦さんからそう聞かされたのだけど、僕の親戚で凄いものを作った人がいるのだなと一寸思っただけだったです。僕としてはこれでアイはまた子供の知能になってしまったけどまた僕の手の中に戻ってきたようで少しうれしくもあるのです」

「ふーん、そんなものかね」と陵が言った。

 高弦が続けた。

「それともう一つ伝えたいことがある。 それは今後のこの会社の方向性に関わることなのだが今世界各国にAI撲滅団という秘密結社が出来始めている」

ぽかんとして「なんですかそれは」と陵が尋ねた。

「簡単に言えば、AIが進化しコンピューターが意識を持ったり、自己改革したり、増殖することを阻止し、その進化の可能性のあるAIを早いうちから見つけ出し破壊してしまうと言う意図を持った者たちだ。

「アイなんかがまさに標的になるのではないですか」と仁が尋ねた。

「まさにその通りだ。オーピエツのバッタ退治をしたアイはまさに彼らが人類を凌駕する恐れのあるAIとして狙いをつけるだろう。このことも考慮して今後の我々のビジネスも考えて行く必要がある」

 そう言うと高弦はビジネスライクな表情になり彼らの今後の方針について話を始めた。


(サイエンス・アンド・テクノロジービジネス誌ネットニュース 2030年11月号)

「横浜に本社を置く古文書解析AIの開発を手掛けるアイシーは、古文書解析の事業から撤退し、今後は遊園地等での娯楽遊興施設で来場者の対応を行うコンシエルジロボットのサービス事業を手掛けると発表した。

アイシーは昨年中東のオーピエツで古代文書をAIで分析しバッタの駆除方法を発見し実際に効果をあげ、国際的に知名度を上げた。南陵社長の説明に依れば、バッタ駆除の分析を行った後、システムに甚大な不具合が発生しAIの再開発を余儀なくされたため、今般彼らが開発したAIと人とのインタラクティブコミュニケーションの機能を利用し、接客ロボットの開発に舵を切るとのこと。既にテーマパークへの納入が決まっていると語った」

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