第26話 超意識成長装置

 横浜のアイシーのオフィスでは一週間のロンドン出張から昨日帰国した高弦を交えメンバー全員でのミーティングが持たれていた。

「アイの状態はどうだい?」

 仁がこう質問すると令が淡々と答えた

「今は動いています。死んではいません。っていうか子供のように元気です」

「子供のように?」と陵が聞いた。

「そうですね。僕が作ったプログラムは復旧しています。それが能力的には子供のレベルということなのです。もともと僕が作っていないものは機能しなくなっています」

「まあ、生きていてよかったじゃん」と陵が明るく言った。

「でも、それでは今後しばらくは、オーピエツでアイがやったような仕事はできないですね」とリナと言うと、令がリナの方を向いて言った。

「しばらくというか。僕がこれから作っていってもあのレベルにするのには何十年も掛かると思う」

「さて、となるとどうするか」と仁がため息交じりで言った。皆黙ってしまった。

 おもむろに高弦がポケットを探って、10センチ四方の薄いプラスティックケースを取り出した。

「これは、今回ロンドンに行ってマシュマロのコンピューターから取り出してきたものだ」

 一同は言葉を発せずそれをじっと見た。陵が言葉を発した。

「え、和尚さんロンドンに行っていたんですか」

 高弦は陵の方を見ずに頷き、話を続けた。

「これは超意識成長装置と呼ばれるもので、コンピューターのプログラムを書き換え成長させるものだ」

「それってウイルスみたいなものじゃないですか」と仁が言った。

「まあ、一種のな。しかしこれはプログラムをその究極の目的に向かって改良していくという特性がある」

「なんか随分未来的なものですね」と山田が言った。

「そうだな、でもこれは十年以上前に敷島という天才エンジニアに開発された。そのエンジニアは私の古い知り合いで私も一緒に開発をした人物だ。アイシーのAI開発作業がオンラインでイギリスのマシュマロのサーバーを使うことになった時に、彼と共通の知り合いでマシュマロにつとめているスチュワートという人物から私にコンタクトがあり、敷島から預かったこの装置をサーバーに 取り付けてはどうかと言って来た。」

「え、和尚はそれを了解したのですか」陵が詰め寄った。

「いや、その装置の効果はある程度確信していたが、いくらなんでも君たちにことわらずにそんなことを実行する訳はない」

「ではなぜ?」

「マシュマロがコンバイの傘下に入った時に、スチュワートから、コンバイに知られて干渉される前にこの装置を既にサーバーに取り付けた旨の連絡を受けた。しかし彼は私の要求があればいつでもこれを取り外すと言ってきた。そして直後から、アイが異常に発達し始めたので、私は暫くそのままにすることにしたのだ」

リナが驚いたようにそして非難めいた口調で言った。

「それじゃ令や山田さんはアイの開発の仕事にちょっかいを出されたということなの」

 それに対して令が答えた。

「いや、僕は知っていたよ。高弦さんが教えてくれた。そして山田さんには僕から話したよ。そしてこれを開発した人を僕は知っている」

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