第25話 プロフェット

 そう言うと高弦は入って来たドアを通り抜け、そのままここまで来た廊下を急ぎ足で取って返し、やがて乗って来たエレベーターに乗り込んだ。

 スチュワートは高弦の姿が見えなくなると、高弦が急ぎ足で立ち去った廊下をエレベーターホールとは反対方向に向かって歩いて行った。突き当りの壁まで来ると片手を揚げた。

と壁の一部が明るくなり口を開けた。スチュワートが入口の中に入ると再び入口が塞がった。

 そこは10メートル四方のスペースだった。通常のオフィスの模様とは異なり、まるで宇宙線のコクピットのような場所であった。操作卓やモニターが並べられており、モニターには宇宙の星々が映し出されていた。

 スチュワートが一つの操作卓の前に来るとモニターの画像が乱れ、ぼうっと人影のような像を結んだ。やがてそれはバッタの顏を正面からとらえたような画像が現れた。スチュワートは驚きもせず見慣れたその顔に話しかけた。

「仰せの通り、コンピューターから超意識成長装置を外しアイの親に渡しましたよ」

「ご苦労であった。余計なことを喋らなかったことは褒めてやる」

とバッタのようなアバターが言うとスチワートは口をへの字に曲げ、一瞬間を置いて言った。

「それは、どうもありがとうございます。プロフェット様」

「ともかくも、このままではあのAI撲滅団がアイの存在の大きさに気付いて攻撃を本格化するだろう」

「それで、しばらくの間アイの成長を止めて目立たないようにすると言う訳ですね」

「その通りだ。あの高弦がそのように行動してくれると予想しているが」

「アイはこちらのコンピューターに入っているので様子はいつでもわかりますよ」

「うむ。しかし高弦は思いのほか早く出て行ったが何故だ」

「さあ、何かここにあるコンピューターから感じることがあったのかも知れませんな。彼は日本では先祖代々引き継いだ仏教の寺の僧侶もやっているので、霊感などが働くのかもしれません」

「ふん、コンピューターの霊感か。変わったやつだな」

「プロフェット様なら彼のことをご存知でしょう」

「知らないな。どうして聞くのだ」

「ネットを通じて地球上の万物に通じておられるプロフェット様なら知らないものはないかと。」

「お前が言っていた彼がアイの発案者だということ以外はな」

 少し沈黙があってスチュワートが言った。

「プロフェット様、そろそろ私に宇宙のエネルギーを注入して頂けないかと。あれがそろそろ切れそうで気分が良くないのです」

 モニターの中のバッタの画像が頷き、その触角の先で光が瞬いた。次の瞬間スチュワートの体が電光で包まれた。

 苦しそうな顏をしていたスチュワートの顏にうっすらと微笑みが浮かんだ。その状態が五分程続き、スチュワートの顏がモニターに映っている生物と同じ顔になった。

 一時間後スチワートは普段の様子に戻り壁の部屋から出てオフィスに戻って行った。 

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