第22話 安堵
アリの畑から赤銅色のバッタが跡形もなく消えた。アリと友人達三人がセルラ―ホンを片手に、そして研究所から様子を見に来ていたキャロルが日本人達を囲んだ。最初アリの友達のアキームが口を開いた。
「アイさん凄いね。俺たちはあの悪魔バッタをやっつけてしまったね。あのバッタにひい祖父さんの頃、いやそのずっと前から、ここらの畑は荒らされて来たんだ。ずっとアイさんにここにいて欲しいものだ」
キャロルがアリと陵たちを見て微笑みながら言った。
「あら、彼らはアイ君のことを知らないのかしら」
「彼らにはアイのことは話してないです」とアリが言った。
「そうなの。では私から説明するわね」
「お願いします」と言って陵たちがうなずいた。
キャロルがアキーム達に向かって言った。
「アイ君は、人間ではなくて、ここにいる日本の会社の人たちが作った人工知能なのよ。人間に似た形でどんどん進化し今では人間を超えたかもしれないわね」
「あ、いやそんなことないです。人間を超えるなどとんでもないことです」アイが困ったように言った。
「あ、でもアイさんはやっぱりコンピューターなのだね。びっくりしたよ。生きているみたいだからさ」
アキームがそう反応すると、ここまで携帯の自動通訳装置で会話を聞いていた仁が独り言のように言った。
「ほぼ生きているのだけどな」
「いずれにしても、悪魔バッタの駆除方法を周りの国も含めて伝えるべきね」
キャロルが皆の方を見ながら言った。
「私はこれを論文に纏め、早わかりのマニュアル用の動画を作るわ。皆さん協力してくれるかしら」
「もちろんですとも」とアリが言うと農夫たちはみな頷いた。
「それにしても、その日本から来た人たちは皆、声が大きいね。とくにその大
きな人はすごいね」アリが陵の方を向いて言うと、「いや、それほどでも」と陵が照れた行った行った。仁と山田が陵の方を見て顔を見合わせた。陵が単純に褒められたと思っているようなのでつい笑ってしまった。
陵が聞かれてもいないのに説明し始めた。
「僕は学生の頃ロックバンドでボーカルを、ここいる仁は日本の伝統芸能の謡を、そして山田さんはコーラスで鍛えたんだ。日本人は昔から歌が好きなのだよ」
アキームが少しおどけて尋ねた。
「なるほど、それであんなに変わった歌になってバッタも驚いていなくなったんだな」
「そうとも言えるわね」とキャロルが笑った。
翌日キャロルは昨日少し離れたところで畑の様子をカメラで移した動画をSNSに投稿した。その動画はオーピエツ国ばかりでなく、バッタの被害に苦しむ周辺の国でも視聴され瞬く間に再生回数が一億を超えた。
またAIがあたかも人間の指導者のように指示を与えたことが評判になって全世界のコンピューター技術者の注目を集めた。
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