第21話 日本から来た救世主達
「今、助けが行きますからね。救世主達、お願いします」
セルラ―からアイの声がした。
「おい聞いたか救世主だってよ」
「責任重大だな」
「アイ君、そんな難しい比喩をどこで覚えたのかしら」
畑の真ん中で背中合わせに立った陵、仁、山田が緊張した面持ちで言った。アイが3人の持っているセルラ―を通して言った。
「では陵からどうぞ」
陵は手を後ろに組んで。驚くほどの声量で歌い出した。それは日本民謡のこきりこ節に似た歌であった。次に仁が朗々と歌い出した。それは歌と言うより能の謡に近いものであった。最後に山田が歌い始めた。それは力強い有名な日本のアニメのテーマソングであった。畑でバッタを避けようと身を屈めていた
4人の農夫の青年達はあっけに取られて3人の日本人の歌を聴いていた。
3人の歌声があるところで一つの伸ばした音に重なり。やがて激しい不協和音となって響いた。
巨大バッタが再び、地面に半分のめりこんだ頭を空中に持ち上げて、苦し気に体を震わせた。アイがセルラ―ホンから呼びかけた。
「その調子です。バッタはこの酷いコーラスに相当苦しんでいるようです」
陵たち3人は背中合わせに大きい声で歌いながら、それぞれなんだかなという顏をした。しかし不協和音のコーラスを途切れさすことは無かった。
その一周間前、アイシーのオフィスではアイを囲んで陵、仁、令、山田、リナが話し込んでいる。
リナはキャロルとバッタ駆除について相談した内容を話していた。キャロルの話ではバッタ駆除の阻止をたくらむ一団が存在しており、今回もアイの発見した方法を実行しようとすればそれを拒むことが起こりそうなのだ。
「それは一体どんな形で起こるのだろう」と仁が言った。
「司令塔役のアイに何か仕掛けてくるのかな」と陵が言うと、アイが会話に加わった。
「いや、それもあるかも知れないのですが、今まで皆さんのおかげで私への直接の干渉は退けられました」
山田がにやりとした。アイが続けた。
「そこで考えられるのは悪魔の赤銅色バッタによる駆除の直接の妨害です。私が古代のオーピエツの王侯の墓の壁画から見つけたものにこのようなものありました」
アイのモニターに一枚の壁画の画像が映った。それは一枚の巨大なバッタが筋骨隆々とした戦士を襲っている絵であった。
「なんだこれは」と陵が言った。仁がうなりながら言った。
「バッタのモンスターか。何でこんなものが描かれているんだ」
「巨大バッタについては他にそれを表すものはなく判断に苦しむのですが、その壁画で特徴的なのはバッタに相対する人間が鎧を付け槍の様な武器を持っていることです。つまり・・」アイの言葉を仁が続けた。
「つまり、バッタは戦う者に対しては大きくなり危害を加えるということか」
再びアイが続けた。
「そうなのです。そう考えられるのです。このバッタを積極的に駆除しようとすると大変巨大なバッタが現れるということです」
「実際にでかいバッタがでるのかな」陵が聞いた。
「象徴的な意味で力が大きくなるということを意味しているのかもしれませんが、それにしてはバッタが戦士に飛びかかろうとしている姿は、実際の戦いのシーンのようです。これが本当に起こることかも知れません」
「リアルだとおっかねえな」と陵が言った。アイが続けた。
「今まで観測されているバッタは一番大きいものでも10センチです。それが人間の大きさの数倍あるバッタはその絵を描いた人の恐怖心で。誇張されたものかもしれません。または、何か私たちの想像を超える形で巨大化するものかもしれません」
皆、無言でアイの方を見た。アイが続けた。
「一番考えられるのが、無数のバッタが集まって全体で一つのバッタを形作ることです。一つの大きなバッタの形をしたバッタの大群が形成されるのです」
山田が少し当惑したように言った。何故か関西弁で。
「それは、大変おとろしい事やないか」
「いや、実はそこにこのバッタを駆除する方法がありそうなのです」
アイは標準語で答えた。
「以下、私の推論です。バッタは大きくなってもその能力が高まる訳ではありません。個々のバッタの集まりですから。むしろ集合体として図体が大きくなると全体としての判断や体の動きは臨機応変な機敏さやが無くなるでしょう。それを利用すれば駆除できます」
「なるほど」陵が顎に手を当てて唸った。
「今回、まずアリさんにセルラ―を持っている友人を集めてもらい協力をお願いします。そしてバッタが現れたら、畑の中に散ってもらいセルラ―の音をラウドスピーカーで流してもらいます。流すのは例の土地に伝わる文書を解析し導き出した旋律です」
アイはワークステーションのスピーカーから4種類の旋律を同時に流しある音の重なりの部分で流れをとめた。その音を聴いたメンバー達は顏をしかめた。
「この音を畑の幾つかの場所から流すと、バッタは苛立ち、群れとなり巨大バッタ化して攻撃をしてくるでしょう」
「怖いな」と仁が言った。アイはかまわず続けた
「バッタはおそらく、四方から流れて来る音が重なり大きくなったところの真下に敵がいると認識し体当たりしてくるでしょう」
「しかし、そこは地面と言う訳か」再び仁が言った。
「そうです。地面に激突した巨大バッタ、つまり巨大バッタを構成する赤銅色バッタは衝撃を受けるでしょう。そのタイミングで陵さんやアイシーのメンバーが自分の声で例の旋律を歌うとバッタに決定的なダメージを受け、ある者は死に、ある者は逃げ去るでしょう」
「えっ、俺たちが現地に出向くの」
「4つの旋律を歌うので4人必要ですが、一人はアリさんに頼めば良いでしょう」
陵が慌てて言った
「3人で出張か。でもそんな予算はないな」
アイが再び言った
「そこを何とかお願いします。あ、それと出発前には歌の特訓をしますからこれもお願いします」
陵は予算面の理由で3人の出張を渋ったが、この話を聴いた会社のオーナーの高弦からは彼がポケットマネーを出すので是非出張に言って来いと話があり、陵、仁、山田が行く事になった。
その打ち合わせが終わった日の夜、何となくさえない顔で、オフィスで作業を続けている令に陵と仁が尋ねた。
「アイはめちゃくちゃ頭が良くなっているし行動力も凄い、そして恐ろしい程の知識量になっている。どうしたのだ」と陵が尋ねる。
「そうなのです。でもこれは誰かが仕組んだことの結果なのです。僕たち以外の誰かがです」
「どういうことかな」と仁が尋ねる。
「アイのAIプログラムが置かれているのはロンドンにあるマシュマロのサーバーです。そのサーバーにはプログラミングのためには基本的に僕たちしかアクセス出来ないはずなのですが、そのコンピューターに何か特異なチップが入れられていて、それがアイの能力を司る基本プログラムを信じられない高速で書き換えているようなのです。多分。いや確実に」
「誰って?」と陵が聞くと、仁が答えた。
「マシュマロは契約できっちりと押さえられているのでそんなことはしないだろうし、第一そんな技術力も持っていないだろう」
「とすると・・・」と陵が言って続けた。「マシュマロを買収したコンバイか。めちゃくちゃ怪しいな」
その名前を聞くと皆沈黙した。コンバイとは一体何者なのか。何かオカルト集団めいた噂しか聞かないが、AIに人間以上の能力を持たせるICチップを開発しているとなると恐ろしく進んだ科学技術を持った集団ということになる。彼らが一体何の目的でアイに近づくのか。皆目分からない。そして敵なのか味方なのかも。ともかくも不可解で不気味としか言えない。やがて陵が口を開いた。
「ともかくも、俺たちはこれからアイと供にバッタ退治に出かける。もしその間にアイに何か不都合が起きたら令とリナでなんとか対応して欲しい」
令がちょっと顔をほころばせて言った。
「了解です。アイは僕のことをお父さん、山田さんのことをお母さんと呼んでいるのですよ。そしてそのお母さんがめちゃめちゃ強いんですよ」
陵と仁が顔を見合わせて笑った。
「ともかくも、よろしく頼んだよ。お父さん」
令が照れたようにうなずいた。
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