第20話 巨大バッタ現る

「それでは皆さんのセルラ―ホンでお話しします」

 アイの声が四人それぞれのセルラ―ホンから響いた。上空に見えていた雲は急激に速度を上げ地上に降りてきた。赤銅色のバッタの群れであった。赤銅色のバッタは小麦の穂の部分に到着していた。

 小麦畑の一人のセルラ―ホンから歌が流れ始めた。単音の悲しげなメロディであった。更に五秒ほど経ってもう一人の持つセルラ―ホンから次のメロディがなり始め、その後五秒ずつ間隔を開けて計4つのセルラ―ホンから異なった重厚なメロディが流れ始めた。しかし赤銅色のバッタは全く勢いを止めることなく一度に数匹がどう猛に小麦の実にかじりついた。

 4つのセルラ―ホンからアイの声が流れた。

「セルラ―ホンにラウドスピーカーを近づけてください。ラウドスピーカーの先を斜め上に向けて、それぞれの音がぶつかるように方向を決めてください」

やがて別々の場所から流れるメロディの音の高さが近づき不協和音を奏でるようになった。アキームが言った。「こりゃ頭が割れそうだ」

 不協和音は断続的に繰り返された。バッタの様子に変化が見られない。

「ムハンマドさん、アフマドさんセルラ―をもう少しラウドスピーカーに近づけてもらえますか」アイが指示を出した。

「あ、すまない。こうすればよいかな」 とムハンマドが言った。不協和音がもう一段階強烈に響いた。

 すると全てのバッタ達の動きが止まった。そして数秒後バッタ達は羽を振わせて空に向かって飛び立っていった。畑の上空はバッタが作る黄赤銅色の雲で埋め尽くされた。そしてその雲は形を変えて行った。変態が始まって数秒後には上空の雲は大きなバッタの姿になった。

 それを見た畑に居るアリたちは、恐怖で顔が引きつった。農夫たちのセルラ―ホンからアイの声が流れた。

「みなさん、おちついて。スピーカーをバッタの真ん中の足の付け根あたりに向けて音をぶつけてください。そこがバッタの耳です」

 大きなバッタの怪物は畑の真ん中、4人の農夫のいる場所の中ほどをめがけて突進した。そして巨大バッタは頭から小麦畑の真ん中に突っ込んだ。バッタの頭の部分が崩れ、何匹かのバッタが飛び散った。飛び散った小さなバッタは4方向に分かれ、音を出し続けている4人の農夫の方に飛びかかった。4人のそれぞれのセルラ―ホンを何匹かのバッタが叩き始めた。

 4人の農夫はそれぞれうわーっと悲鳴を上げて頭を抱えてその場にしゃがみ込んでしまった。地面に放り出されたスピーカーからは、ばらばらの方向に音が流れ、音の重なりは小さくなった。

 その時先ほど巨大バッタの頭がぶつかった畑の中央に走り込む3人の人影が見えた。その人影は背の高い男と中背の男、少し小柄な女性のようであった。

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