第19話 麦畑で迎え撃つ
アリと友人たちは真面目な顔になってアイの声に耳を傾けた。
「その音の重なりを作るメロディを僕の方で再現しました。音の重なりを作るので4つのメロディから出来ています。その4つのメロディは少しずつタイミングがずれて流れます。輪唱のように繰り返され、あるタイミングで4つの音が重なります。それをバッタが感知するとバッタは群れをなして空に舞い上がり上空で消えます。何種類かの音の重なりとそれが鳴るタイミングがルールに沿っていることが重要です」
アリの友人の一人のアキームが言った。
「ふうん、大体わかった。でもその歌をどうやって流すのだい。アイさん」
「そこです。皆さんのセルラ―にそれぞれに私の方から同時に違うメロディの歌を流します。これは私の友人達が歌ったものです。皆さんの方では、キャロルさんから貸してもらったメガホンを使って音を大きくして空に向かって放ってください。初めは同じメロディが流れます。ユニゾンです一分ぐらいすると音が2種類、そして3種類と違うものが流れます。そして二分ごろから皆さんの耳には聴き慣れない和音が鳴り始めます」
アキームが聞いた。
「それでバッタが上に向かって飛び立つのだな」
「はいそうです。バッタは、初めは混乱してお互いにぶつかるものもあります」
アキームが言った。
「うんわかった。ところでアイさんはオービツエ語が上手いね。どこで習ったのだい」
アキームはアイがAIであることに気がついていない。
「いえ、それほどでも」
アリが笑いながらアキームの方を見て言った。
「そうだよ、アイは僕が今まで知っている外国人の中で一番オーピエツ語が上手い。おまけにいくつもの外国語を喋るらしい」
「いえいえ、70か国語程度です」
アキームはびっくりして言った。
「ええっ、それじゃまるでコンピューターじゃないか」
アリが喋ろうとしたがアイが本題に戻った。
「それで、うまく行けばバッタは上空で死んで消えます」
「うまく行かないこともあるのか」アリが尋ねた。
「バッタの連中も必死ですから、こちらに攻撃をしかけるかも知れません」
アイの返事に一同は黙ってしまった。アイは続けた。
「でも、大丈夫。救いの神が現れます」
「―――アイさん、何か急に科学的じゃないことをいうね」
アキームが言った。
「そうですね。救いの神というのは日本に昔からある慣用的な表現で、今回は助っ人を用意したということです。ここでは時間がないので説明を省きますが、駆除される前にバッタが歯向かってきたら、アリさん達を助ける者が現れます。その時に現れるのは味方ですのであわてないでください。あ、そろそろバッタが来ているようです」
その時、アリのほほを一匹の赤銅色の昆虫が横切った。アリは3人の仲間に畑の中に散らばるように目配せをした。アイの声が再びアリのセルラ―ホンから流れた。
「それでは、これからは、皆さんのそれぞれのセルラ―ホンからお話しします。アリさん、アキームさん、そして・・・」
「ムハンマド」
「アフマド」
今まで口を開かなかった二人の青年が名乗った。
「みなさん、よろしくお願いします」
アイが挨拶をした。そしてアリを残して、3人が3方向に延びるあぜ道を小走りに走ってやがって麦畑の中に消えた。4人で一辺30メートルほどの四角形の頂点に位置する形で畑の中に立った。辺りには赤銅色のバッタが飛び交い始めている。西の方の空が一転にわかに掻き曇って、赤銅色に光る大きな雲が現れた。
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