第13話 アイの進化
陵が聞いた。
「調べに行くって一体どこに?」
「インターネットの中です。僕の行動については令さんと山田さんが常時モニターして僕に色々教えてくれます。アノテーションですね。また途中で必要があれば皆さまの端末にもアクセスします。その時はよろしくお願いします」
「がんばってくれよ」
「がんばってね」
「くれぐれも気を付けて」
アイシーのメンバーはちょっとワクワクしたように口々にアイへの励ましの言葉を言った。
「それにしても、アイのやつ凄い進歩だな。もう人間と変わらないのじゃないか。いや、もう超えているのかな。なあ、令」
陵が能天気に言うと令は不安げに言った。
「アイがマシュマロのコンピューターに入って以来、何かもう僕の手の届かないところで・・・成長して能力をどんどん上げているんです。ちょっと怖い感じがします」
それから一週間、アイは歴史上の記録が保管されている図書館や博物館、過去の映像資料がアーカイブに残されている放送局など地球上でネットワークに繋がる様々なところに出かけた。
令は石板に記された悪魔バッタの駆除方法を解読するために、それが書かれたと推定される時代に関する様々な情報を集め分析することで手がかりにしようと考えた。
そしてあのこきりこ節に似たメロディはどう解釈すべきか迷っていた。バッタが現れた麦畑で、あのメロディをハミングするだけではバッタを駆除できるとは思われない。石板に文字が彫られた時代に同様な音楽が無いか、その音楽がどのように奏でられたかなどを調べ、あの文字列に込められた意味を見つけようと決意した。
調査開始から3日ほど経った頃、令は本件に関して助言が欲しいと言っていたアイにアクセスしようとした。しかしキーボードによるコマンドにも音声による呼びかけにもアイは反応しなかった。
令はワークステーションのディスプレイを見たとたん「あっ」思わず声を発してしまった。そこにはアイのプログラムが凄い勢いで書き換えられる様子が映っていた。それはアイの能力の劇的な向上を意味していた。
アイは3日前、まず解読出来る既存の言語で書かれている文献や絵画、音楽を探索し始めた。バッタの被害が歴史的文献に最初に登場する時期がいつなのかを探ろうとした。
オーツピエや中近東や東アフリカ、中央アジア、南ヨーロッパの国々やイギリスなどでデジタル化された資料を持つ博物館、図書館を訪れて、データーベースに忍び込んだ。それはまさに、忍び込む、だ。一般に公開されている公共機関のデーターベースとは別に、それぞれの組織が、機密情報として世の中には出していない情報も収集する。
それはハッキングと同様のやり方で外部のネットワークからイントラネットに入り込み繋がっているデーターベースを見つけセキュリティの脆弱さをついて中に入り込む。そのデーターに検索を掛け得られた情報をひとまとめにして、横浜のアイシーと物理的にCPU本体が置いてあるロンドンに持ち帰った。
アイは持ち帰った様々な情報を突き合わせ、古文書の意味を解くために必要な統合された情報を作り上げていく。それはアイにとっては数字の羅列なのだが、アイは令をはじめ関係する人間が理解できる形にして行った。絵を描いたり、映画のようなストーリーのある映像にしたり、論文のような文章にしていった。
それらは、本来は単なるデーター処理であるが、アイは次第に新たな情報、未知の電気的刺激が生み出されているのを感じた。それは人間が感じる楽しさというものかも知れないと考えた。
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