第12話 こきりこ節
アイが更に尋ねた。
「ということは、前にもその歌を歌ったことがあるのですね」
「前に歌ったのは父が子供の頃、祖父が一度歌ったことがあるらしいのです」
リナがアリに話しかけた。
「アリさんはその歌のメロディ歌えるの?」
アリは少し照れたように言った。
「ええ、知っているのですけど。ちょっとうまく出来ないような気がしているのです」
リナは笑いながら言った。
「歌ってみてよ」
やや間があってアリが歌い始めた。歌詞がついているようであるが、何語なのかもわからない。もちろんアイの高速通訳機能でも拾えていないので、オンライン参加者の耳にはウーアーと言うハミングのように聞こえる。
リナが「アリ君、上手ね」
陵が仁の腕をつっついて言った。
「あれ、歌に聞こえたか?」
リナは陵を睨んだ。仁が言った。
「ねえ、アリ君、世界的な有名な曲を何か知っているかい」
アリは暫く考えて言った。
「あ、知ってるよ。ヘイジュードとか、ああ日本のスキヤキも、歌詞は分からないけ
どメロディは知っています」
「今、アイが見本を流すからそれに合わせて歌ってみてよ。これは調査の一環なのです」
アリは少し怪訝そうな顔をしたが、アイの流すコンピューターのメロディ音を聴いた後、二曲を歌った。
陵は悪気がないのだが、にやにや顔から噴き出しそうな顔になった。リナが陵に怒りだしそうなのを見て、令がアイをキーボードで操作して陵の顏が映っている画面をフリーズさせた。アイがヘッドホンを付けている令に何故と個別回線で尋ねた。
「ここで笑うのは失礼だからだよ」と令が教えるとアイは「分かりました。このような状況では笑ってはいけないのですね」
「そう、これは空気を読むと言うよ」
「了解です。空気を読めですね」
「そうだよ」
そこで皆考え込みしばしの間会話が途切れた。令が話始めた。
「ちょっとアイに聴いてみましょう」とアイに向かって言葉をかけた。
「アイ、この後の計画について君の考えを教えてくれ」
しばらく沈黙があった後、アイが答え始めた。先ほどの会議の時とは違って考えながら少したどたどしい話し方となっていた。
「まだ、分からないことも多くて・・・石板に記された古文書にバッタを追い払う方法が書かれているとすれば、まずそれが書かれた時代のデーターを集めて結び付けてみます」
「なるほど、すげえな」と陵が言うとアイはまた口ごもりながら言った。
「あの、仁さんに聞きたいことがあるのですけど」
仁がディスプレイの方に向き直って言った。
「なんなりと。えーと何だい?」
「さっきアリさんに歌を歌わせました。あれは一体何だったのですか」
陵がぷっと噴き出した。
「ああ、あれはアリの歌が酷かったので、いくら古代の歌でもあれは違うだろうってことだよな、仁?」
仁がうんうんと頷きながら続けた。
「ああ、そうなのだよ。アリ君がある曲を歌おうとするとどれくらい原曲と音程が変わってしまうかその傾向を見ようと思ってね」
令が言った。
「なるほど、その傾向を調べてアリ君の歌に補正をかければ大体でもそのオリジナルの曲のメロディが分かるだろうってことですね。アイちょっと今やってみてくれないか」
「分かりました」
3分程するとアイが再び話始めた。
「アリさんの歌ったメロディに推定できる補正をかけて見ました。ここでお聞かせしましょう」
令が陵、仁、リナの顔を見ながら言った。
「よし聞かせてくれ」
アイのスピーカーからピアノの合成音が流れ始めた。それはゆったりとした音の流れで、どこか懐かしい響きがあるものだった。曲が終わるとリナが言った。
「それをもう少しだけ、早く再生して。一分間に120拍ぐらいで」
今度は前より速いテンポで音楽が流れ始めた。それはおよそ日本人であれば聞いたことがある日本民謡のメロディに似ていた。陵がおどけて言った。
「ソーラン節だ」
リナが言った。
「違うわよ、これはこきりこ節よ」
そこにいたメンバーはみな緊張がゆるみ、思わず吹き出してしまった。ひとしきり笑った後、リナが言った。
「でも、何故こきりこ節なのかしら」
「単に似ているだけじゃないかな」
仁が言った。
「そう言われば、テンポも違うし全体的には少し違うかも知れない。アイ、後で本当のこきりこ節とどうちがうかも調べられれば調べておいて」
「分かりました。後で・・・調べます」とアイが和やかな調子で言った。そして続けて言った。
「これから僕は令と相談しながら、悪魔バッタ駆除の方法について調べに行きます。まずは一週間ほど戻りません」
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