第8話 シャチョーが会議の途中で謎めいたことを口走る

 高弦と陵はアイシーで生み出そうとしているこの技術を用いたサービスで早期に顧客を獲得しなくてはと考えた。高弦が用意した会社の資金もそう遠くない時期につきそうだ。今は協力してくれているマシュマロがいつ手のひらを反すか分からない。

 古文書解読は暗号解読に応用できる。わずかな断片的情報しかないところから機密の情報を知ることもできるのだ。日夜敵対する国の情報収集に躍起になる世界各国の中央情報機関や諜報組織には垂涎のものだ。マシュマロはこの技術を横取りし売り飛ばそうとするかもしれない。

 経理を担当するリナはそのようなどこかの世界の物騒な話ではなくAIを活用した古代文書の解読というようなアカデミックな領域で、そもそも需要があるものだろうかと考え陵と仁に尋ねた。

 二人は顔を見合わせて黙ってしまった。陵がリナにぽつりと言った。

「あんまりなさそうだな」

 リナはこんなレアな製品をどこに売るかということも考えず会社を始めたのかと開いた口が塞がらなかった。あきれ顔のリナに陵が説明し始めた。

「高弦和尚と仁と僕の家系は鎌倉で繋がりがある」

 リナは陵が一体何を説明し始めたのかとぽかんとした顔になった。

「この3つの家で協力し合って和尚の寺、樹恩寺を守って来た。その寺にある教えでこの世界が始まる前に世界があったらしいのだ」

 リナはあっけにとられて陵の顏をまじまじと見た。

「シャチョー、朝何か変なものを食べた?」

 仁が慌てて話を引き取った。

「あ、いや陵が言いたいのは古代に書かれた古文書には歴史的な史実ばかりでなく、この現代にも役に立つものがあるということだ」

「3つの家が協力しあってとか言ってなかった?」

「あ、そのことは話がこんがらかるから、今は止めて――、ともかく古文書は役に立つことを訴求して」

「ふーん」

 リナは技術そのものではなくてそれを応用して、つまり古代文書を解読すれば何か困ったことが解決出来るみたいなアプローチで顧客を獲得するのが良いと理解して、世界各国の大学や研究機関などに売り込みを掛けることを提案した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る