第8話
「――――簡単に説明すると僕の右眼は未来を、左目は過去を見る事が出来るんだ」
行方不明のアル君を見つけ出す為に森の中に入った僕は後ろから付いてくるルーナに説明する。
「もしかして、魔眼?」
「まあ、分類的には一応そうだね。ただ自分の意思で使う事が出来ないからあまり良いものではないんだけどね」
これが自分の意思で発動する事が出来て自在に未来や過去を見通す事が出来れば良かったんだろうけど生憎そう上手くは出来てない。
「ルーナは魔法特性について知ってるよね?」
「う、うん。一応基本的な事は…………」
「ならおさらいも兼ねて説明するけど、魔法特性は魔力を使って発動する個々人の異能だ。いくつかの例外を除いて魔法とは基本的この魔法特性を使ったもののことを言う」
厳密に言えば結界や回復等努力次第で誰にでも使える魔法だったり、自分の魔法特性とは異なる他者の魔法も使えないわけではない。
だがそれは色々と他に説明しないといけない事もあるし、状況が切迫している今ここで話すべき内容では無い。
「そして、僕の魔法特性は【時戒現象】。時を戒める魔法だ。主に時間を操作する事や時間に制限を齎す事で強化する事が出来る」
「…………それは、凄く強力な魔法特性だ」
僕の魔法特性を聞いてルーナは驚いた表情をする。
確かに時間を操る魔法特性は強力と言えるだろう。
尤も世の中そんなに上手くいかないのだが。
「実はそうでも無いよ。考え無しに使えば魔力を無駄に消費するし使い熟すのに結構修練を重ねる必要があったから」
魔法特性に強弱はあれど、結局のところ本人の努力が必要不可欠だ。
どれ程強い魔法特性でも使い手が未熟であれば名前程の強さは発揮出来ない。逆に弱い魔法特性でも使い手が強くて真の意味で使い熟せていれば、それはとても強力なものになる。
要は使い手次第だ。
「なら、ダンゴはそれを使い熟せる程に強いって事?」
「…………まぁ、そうだね。強いかどうかは自信が無いけど使い熟せてはいるかな」
自分が最強だなんて口が裂けても言えないけど、弱いと言ったら昔の知人友人に怒られる。
だから使い熟せているが一番正しい評価だ。
「で、話を戻すけど魔眼ってのは眼を通して発動するタイプの魔法の総称なんだ。僕の場合は眼を通して時戒現象が発動する感じだね」
「だから未来や過去を見る事が出来る」
「自分の意思では見れないけどね。唐突に未来だったり過去を見せられるんだ。何がどうしてこうなったのかはさっぱり分かんないよ」
魔法にはある程度の知識もあるし詳しいとは言えるけど、魔眼のような極めて特異な力はどうやって発現するかは未だ分かってない。
もう少し自分の意思で見たいものを選べたらどれだけ良かった事か。
とはいえ――――、
「でもこうして悲劇が起こるって分かるから、便利な能力ではあるけどね」
全く使い道の無い能力じゃないからこういう時には本当に重宝する。
そう思っていると背後からルーナの声が聞こえた。
「それで、ダンゴは一体何を見たの?」
そういえばまだ言ってなかったか。
未来を優先して説明を後回しにするのは本当に悪い癖だ。
自らのダメな所を反省しつつ、僕はルーナにどんな未来を見たのか語る。
「僕の右眼が見た未来、それは例のアル君が魔族に襲われている光景だよ」
「魔族が…………居るの?」
「そう多くはないけどね」
魔族という単語が出た瞬間、ルーナの顔付きが変わった。
勇者として魔族の存在は見過ごせないか。その事実は今の彼女が背負うには辛いものだろうに。いや、そもそもきみのような娘が背負うには魔族はあまりにも大きすぎるもので、一つの生命が背負うべきではないものだ。
その事実に少し複雑な気持ちになりながらも、アル君らしき人と魔族の姿が見える。
さっき見た未来の通り、襲われそうになっている。
「ルーナ、悪いけど先行くよ。三倍速!」
後ろに居るルーナに断りを入れてから魔法を発動し、自身の時間を加速させて魔族との距離を一気に詰める。
ゴブリンの持っているこん棒が子どもの頭に振り下ろされて血が飛び散る。
それが僕が見た未来の光景。しかし、その未来の通りになる事はなく、ゴブリンが持っていたこん棒を蹴り飛ばす。
「早速で悪いけど、壊れろ」
そして流れるようにゴブリンの首に向かって二本の指を振るい、首の肉を抉り取った。
「――――ッ」
声帯ごと首の肉を抉り取られたゴブリンは断末魔の叫びを上げる事も出来ずに苦悶の表情を浮かべる。
だが突然現れた僕という敵に対し敵対の意志を見せ行動に移そうとする。
この個体の死は確定した。数秒後、長くても数分後には活動不能になるだろう。
それでもまだそれぐらい行動する時間が残っている。そしてその時間を有効活用して僕を拘束、出来なくても動きを制限させ、仲間達に攻撃させる。
他の魔族もこのゴブリンの意図を察して既に攻撃態勢に移っている。
だけど、僕の魔法効果はまだ終了していない。
「オラァ!!」
死に掛けのゴブリンの頭部を殴りつける。
胴体から頭部が千切れ右方のゴブリンの顔面にぶっ飛んでいき、残った胴体は左方のオークの顔面に蹴り飛ばす。
そして足下に転がっていた石ころを手に持ち、残された魔族の顔面に向かって思いっきりぶん投げた。
当然、加速付与は施している。
「ぐぁっ!!」
ゴブリン、オークの二体は頭部が弾けて機能停止したが残された奴は剣で器用に石を受け止めて後方に吹っ飛んだ。
「っち、仕留めそこなったか」
出来る事なら今ので全員処分しておきたかったんだけどな。
自身にかけていた魔法効果が終了したのを
まあ出来なかったのならしょうがない。それよりも今はこの子の無事の方が優先だ。
「きみ、アル君であってる?」
「は、はい…………」
アル君は酷く怯えた表情をしているが、その身体に傷と呼べるものはない。
尤も、今の僕の一連の残虐行為で心に傷を負ってしまったかもだが。
流石に子どもの前で頭部が弾け飛ぶような光景を見せるのは不味かった。とはいえ、この状況を子どものトラウマにならないように切り抜けられる方法を僕は知らないのだけれど。
「ダンゴ!」
「ルーナ、この子をお願い」
遅れてやって来たルーナにアル君を託し、ぶっ飛んだ敵の方に視線を戻す。
魔族は剣を杖代わりにして立ち上がっていた。
「しぶといな。とっとと壊れれば良いのに」
唯一生き残った魔族にとどめを刺そうと一歩前に踏み出す。
刀は出来る限り使いたくない。少なくともルーナの前で使いたいものじゃない。
「…………くそっ、よくも仲間をっ!」
「それ先日も聞いたな。お前達のボキャブラリーって少ないのか?」
「何を言って――――いや、待て、貴様…………その顔は!!?」
魔族は僕の顔を見た瞬間、一瞬で憤激に染まり切った。
その表情を見て察する。こいつは僕が襲撃して全滅させた連中の生き残りか。
「ああ、本当に鈍ってるなぁ」
多分だけど襲撃した最初の方で身を隠しているか逃げていたんだろう。
それなら見逃したというのもありえないわけじゃない。我が事ながら本当に酷い有様だ。
「まあ良い。聞きたい事も今無くなったしもう用済みだ」
「ぐっ、魔王様……! その御力を御貸し――――」
「消えろ」
何かを喚いている魔族に向かって何の工夫もしていない魔力の砲撃を放つ。
これだけでも目の前の魔族の身体が塵一つ残らない程度の威力はある。
にも関わらず、魔族の身体は消滅するどころか傷一つすらついていなかった。
それどころか紫色の瘴気のようなものが奴の身体全体を覆っていた。
「ぐ、ぐぅ…………何という威力。しかし、魔王様の御力があれば貴様なんぞ」
「
巨大な腕を顕現させて傷一つついていない魔族に向かって振り下ろす。
「神威ノ鉄槌」
ハンマーのように振り下ろされた一撃は魔族に直撃する。
大地は陥没し亀裂が走り、周囲にあった木々は圧し折れて倒れていく。
当然のことながらこの攻撃を受けた魔族に耐えられるような威力ではなく、原型の留めてない肉塊になっているか、完全に消失しているかのどちらかの筈だった。
だが腕に伝わる手ごたえから魔族が死んでいない事を察する。
「っち、二倍速」
魔族に攻撃を加えた巨大な腕の権限を止め、再び自身の時間を加速させる。
そして地面に埋まり、頭部だけが生えた状態になっているシュールな姿の魔族に接近し――――、
「がぁ…………! 貴様、よくも」
「――――からのダンゴキック!!」
勢いと全体重を乗せた蹴りを無様な姿を晒している魔族の顔面に叩き込んだ。
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