αの独白

俺はβの夫婦に産まれたαだ。小学生の頃に両親は離婚し、母に引き取られて育った。


無意識のうちに、結婚というのは2度と離れないことを誓うモノだと思っていた俺は、両親の離婚に相当ストレスを感じたらしい。匂いが分からなくなった。どちらかと言うと匂いに敏感だった俺は匂いに酔うことが多く、匂いが分からない方が生活しやすかった。だから、治そうともせずに生活していた。…そのせいで大切な大切な運命の番にすら気付けないとも知らずに。



アイツとは小学生の頃からの同級生。小学生の頃は接点がなかったものの、何故か気になり時々目で追っていた。俺はこういう容姿が好みなのかと漠然と思った覚えがある。


中学一年の夏。第二性の診断結果が配られた。αだった。αには運命の番という絶対的な存在であるΩが居ることを知っていたから、とても嬉しかった。俺から離れない、俺だけの、俺のためのΩ。早く会いたかったが、どうやら発情期が来ないと分からないらしい。発情期が待ち遠しかった。


次の日、第二性についての授業があった。注意事項や禁止事項について説明を受けた。運命の番についても、互いに一目見れば分かると言われた。その時が待ち遠しかった。


その年の誕生日。初めてのラットを経験した。これで運命の番に気付けるようになったと嬉しかった。同時に番を奪われないため、安心して番になってもらうため、できることを考えた。より一層勉強することが一番の近道だと思い、その日から毎日勉強した。


中学のうちには運命の番は見つからなかった。気になる子は居たが、近付いても匂いがしなかったから、相性がいいだけかと残念に思った。…俺の鼻がフェロモンさえ検知できないほど、重症なことに気付かずに。俺は愛しい運命の番に気付けなかったのである。


高校生に上がり、違和感が拭えない日々が続いた。中学では感じていた感覚が、高校では全く感じなかったのである。一年、二年と疑問に思いながら過ごした。三年は受験でそれどころではなく、違和感のことは忘れてしまった。…運命の番であるアイツが居た中学と、居ない高校とでは全く違うのも当然だったのに。


大学生に上がり、運命の番は居ないんじゃないかと思い始め、彼女を作ってみた。何となくΩは気が引けて、βの子と付き合った。楽しくはあったが、彼女じゃないと身体が否定して長くは続かなかった。


成人式の日。何年かぶりにアイツに会った。見ない間に花が開いたかの如く、さらに目を惹くようになっていて驚いた。が、匂いがしなかったことと、とりあえず付き合っても長く続かなかった経験から、何かしようとは思わなかった。でも、とても美味しそうに見えた。


大学四年生。就活前に自分の身体状況を調べるというのが学校の決まりだったから、それに従い検査を受けた。重度の嗅覚障害だと診断された。有能なαにも関わらず、フェロモンを感知できないほど重篤だと言われ、薬物治療が始まった。治療を始めるのが遅かったため、なかなか治らず、完治には2年も要した。


社会人二年目。大企業と呼ばれる企業に就職した俺は、希望の部署に入るための下積みとして営業部に所属していた。部署の性質上、定時で上がれないことも多々あり、10時ごろに帰宅することも何度かあった。


その日も帰りは10時を回り、自転車を漕いでいたら、頭を揺さぶるような匂いがした。驚いて振り返ると、そこにはアイツが居た。俺の運命の番。アイツを目で追ってしまう意味がようやく分かった。…嗅覚障害のあった俺と違って、昔から俺が番だと分かっていたはずのアイツが言い出して来なかったことに違和感を感じつつも、いきなり番宣言はマナー的によろしくないため、デートに誘うことにした。


なのに、何故そんな傷付いた顔をするんだ?

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