第11話 王子と信用
「どうしたの?」
父の神妙な面持ちに、リザエルは何を話そうとしていることを察した。
「……我々は他国から逃げるようにここへ来ました。いずれ、追手がこの国に来るかもしれません。最初は逃げることが出来ればいいと思っていましたが……そのせいでこんなにも平和な国を危険に晒すことは……」
苦しそうな表情でそう告げるドルワに、ライリンがそっと背中に手を添えた。
リザエルは両親だけでも匿ってもらえればと考えていた。だがそれを父が望まないのであれば、無理強いは出来ない。
「なるほどねぇ……まぁどうしたいかは本人の意思だから自由にしていいと思う。でも、貴方達がここにいたいと望むなら、我々は全力で守りますよ。民を守ることが王の務めですからね」
そう言うキースの表情は、先ほどまでと違う上に立つ者の顔だった。
これが王子。後の王。この国を背負って立つ者の顔。
今まで自分たちが見てきたのは何だったのだろう。自然とかしずきたくなる、この気持ちはなんだろう。
「……役所へ、案内していただけますか? キース王子」
リザエルがそう言うと、キースは勿論と笑顔で頷き、再び役所へと歩き始めた。
これはあくまで勘でしかないが、キースの言ってることに嘘はないと確信できる。リザエルはずっと人の顔色を窺って生きてきた。相手が嘘をついていると気付くこともあった。
この場で魔法を使ってキースの思考を共有することも出来るが、その必要はないだろう。リザエルは彼の真っ直ぐで強い眼差しを信じたいと思った。
あの眼差し。夏帆に対して感じたものとどこか似ていた。根拠のない自信。それを感じさせる力が瞳に込められていた。
「あーあ、それにしても残念だな」
「何がですか?」
そう問うたリザエルに、キースはくるっと歩いたまま後ろを向いた。
「だって、君達を役所に連れて行った後に城に招待して、実は王子でしたーってドッキリがしたかったのに、その前にバレちゃったんだもん」
「……しらを切っていればバレなかったのではないですか?」
「ハッ! じゃあ僕、自分からバラしちゃったのか!」
「ええ……って、カホ?」
隣を歩いていたはずの夏帆がいなくなっていることに気付き、リザエルは後ろを向いた。そこには頭を抱えながら天を仰ぐ少女の姿があった。
「……なんてことなの……」
「か、カホ?」
「私としたことがイベントを一つ逃してしまった……そんな面白イベント、ちょー見たかったに決まってるじゃん……ゲームならロード一択なのに……イベントムービー……ああ……」
「貴女、私と言語を共有してるはずなのに何で私の知らない言葉を話すのかしら……」
「だって見たいじゃん……お城で正装に着替えて登場するキース王子を見てビックリするリザ……」
「私の驚く顔なんか見て何が楽しいのかしら……」
意味不明なワードを呟きながらガッカリしている夏帆に、リザエルは呆れたように溜息を吐いた。
「ああ、もう見えるよ。あの建物が役所」
キースの指指す方向に目を向けると、大きな建物があった。
遠くから見ているだけでも、色んな人達が出入りをしているのが分かる。肌の色が違う者たち、見るからに種族の違う者達。この国が本当にどんな人でも受け入れているんだというのがよく分かる光景だ。
「僕から話を通すよ。なんか訳ありみたいだし、個室借りようか」
「助かります」
ドルワとライリンがキースの後ろに付いていくように歩き、その後をリザエルと夏帆が追うように歩いた。
役所に入ると、受付の人にキースが声を掛けて開いてる個室を貸してもらえるように話す。その傍で両親がキースや受付の女性に問われたことを応えていた。
ここは大人に任せるのが良いだろう。そう思い、リザエルと夏帆は少し離れた場所で彼らを待つことにした。
「なんかサクサク進むね。これもリザのおかげかな」
「どうかしら。私の加護は確かに働いているだろうけど……ここまで順調なのは貴女のおかげもあるんじゃないかしら」
「私?」
「私と貴女は言語を共有したまま。少なからずパスを繋いだ状態なの。そこから貴女の魔力が流れているのかもしれないわね」
「じゃあ私のおかげでリザは常に強化した状態、ってこと?」
「あくまで仮説だけど、いつもより魔力の量が多い気がするから間違いないと思うわ」
「ふーん。じゃあ、私たちが一緒にいれば幸運値上昇したままってことね。最強じゃん」
「過信は良くないわ。でも、確かにそうかもしれないわね……」
二人は顔を見合わせ、ふふっと笑い合った。
そうこうしてる間に個室の準備が出来たのか、受付にいるドルワが二人のことを呼んだ。
「二人とも、こっちだ」
「はい」
「はーい」
「そんじゃ、ご案内しまーす」
キースに案内され、リザエルたちは応接間に通された。
様々な手続きに必要な書類の並ぶ棚と、大きめの机を挟むように置かれた三人掛けのソファが二つ。
ドルワとキースが並んで座り、その向かいのソファに女性陣が腰を掛けた。
「さて、それじゃあ……まずは貴方達のことをお聞きしましょうか」
そう言ったキースの顔は、とても真剣な目をしていた。
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