そよ風が吹く
「やっぱ外は良いね」
「うん」
ベンチの横に
舟喜君と出会ってから、学校という所をたくさん教えてくれた。
楽しいけど楽しくない事もあるらしい。
大きなイベントである体育祭や文化祭は人それぞれ印象は違うと言っていて、彼の場合はお祭り騒ぎは好きだから興奮するよと言っていた。
そんなに楽しいイベントなんだ。
良いな…参加してみたいな…。
淡い気持ちが沸いてくる。
舟喜君は運動部に所属していて、陸上を小学生の時からずっとやっているそうだ。
日常の中に陸上が当たり前で、休むことなく取り組んでいた中で、雨の日に校内をぐるぐる走っていた時に階段を踏み外して転倒し骨折したのだそうだ。
選手生命に関わってはいないものの、陸上が出来ない日々は苦痛以上だろう。
だから私はそこには触れない。
聞いてしまえば、話すことになって、ツラくなると思うから。
ふわっと柔らかく風が吹いた。
葉っぱはゆらゆらと、ゆっくり落ちた。
心地好いそよ風に乗って。
気持ちが良いなと思っていると。
「風は良いな」
舟喜君は言った。
彼の前髪がサラッと揺れる。
「どこまでも、どこまでも、進めそうで、飛んで行けそうでさ」
染々と言う舟喜君の横顔を見た。
遠くを見ているようだ。
視線の先には青空が広がっている。
「ところで、どうするの学校は?」
「あっ…」
言葉に詰まる。考えた事もなかったから驚いてしまった。
「学校なんて行ったことないから、どうなるのかな…」
元気なく言う私。
すると舟喜君は「勉強は?」と聞いてきた。
「勉強は通信制だから問題はないけど?」
教室で勉強なんて、夢のまた夢だけど。
「なら、同じ大学に行こうよ!」
「えっ?」
舟喜君は私の背中を押そうとしている。
何故だろうと思っていると、彼はこう言った。
「俺と同じ大学に行こう!」
考えてもいないプランを彼は私に提示した。
そんな、そんな夢…。
俯く私は唇を噛む。
行けないよ、と言おうとしたら、あたたかいぬくもりが頭に優しく伝わった。
舟喜君が私の頭を撫でていた。
私は戸惑う。
「あの…」
「大丈夫」
「えっ?」
「俺、待ってるから」
力強く舟喜君は私の目を見て言った。
ドクンドクン…激しくなる鼓動。
私の病気は治る可能性のある病で、高校生までには完治出来るはずと主治医は言った。
あともう少しだから頑張ろうと励まされている。
とはいえ、私は大学なんて考えたことはなかった。
どうせ私は一生アルバイトやパートで仕事をして、結婚なんて出来ずに生涯を終えるのだろう。
暗い夜道を這いずりながら生きていくものだと思っていた。
でも、舟喜君と出会って、今の言葉を聞いて、考えが変わろうとしている感覚を理解する。
頑張れば…陽の当たる道に行けるのだろうか…。
希望が、夢が、ふつふつと、沸いてくる。
可愛い服を着たい。
遊園地や水族館、動物園など、たくさん行きたい。
旅行に行きたい。
友達を作りたい。
身近な事が真っ白な画用紙にどんどん描かれる。
想像しただけで、楽しくなる。
私一人ではない。
両親と、私より先に退院した子達と、あとはー…。
目の前にいる、彼と。
「舟喜君」
頑張るしかないね。
「頑張る…頑張るから…」
勇気を振り絞る時、風がまた優しく吹いた。
ありがとう…そよ風さん。
「待ってて…必ず、追い付くから」
声は震えたいたけれど、言い切れた。
それだけで、ホッとした。
舟喜君はニコッと笑った。
「もちろんだよ!」
私と舟喜君は、約束を交わした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます