契約相手は悪魔

@Rui570

契約相手は悪魔

 ここはどこかの国にある町・ピースタウン。町を守る近衛隊に所属する溝野沢真也は同僚である青年と話し合っていた。

「平和だな。平和だと僕らもやることがないな。」

「ほんとほんと。暇だよねぇ。」

その時、一人の女性が歩いてきた。

「真也君、もしかして暇なの?」

「そうだよ、小百合さん。パトロールと言われてもこの国に戦争も犯罪も起きないから近衛隊もすごく暇なんだよね。」

小百合さんと言われた彼女は真也の幼馴染でピースタウンの町長の娘でもある。近衛隊の隊員が真也に声をかけた。

「一応パトロール終わったから本部に戻った方がいいんじゃない?」

「たしかに。隊長に怒られるからね。」

真也は小百合に向き直った。

「それじゃあ小百合さん、またね。」

そう言って真也は仲間と共にその場を去っていった。この時、真也は何も知らなかった。これから起きる出来事で自分が変わってしまうということを…。




 ある日のことだった。近衛隊の本部にアナウンスが流れた。

「ピースタウンのエリアÅに謎の怪物が出現したという通報あり!総員直ちに出動せよ!」

「諸君、出動だ!」

命令を聞いた隊員たちのリーダーである真也と5人の隊員がオープンカーに乗ると現場へと走り出した。真也が無線で仲間たちに呼びかけた。

「現場で何が起きるのかは分からない。だから周囲の警戒を怠るな!」




 やがて現場に到着した。だが、誰もいない。不気味なくらい静かだ。真也たちは周辺を見回すが、何も起きない。あの通報は本当だったのだろうか?

「隊長、現場に到着しましたが、誰もいません。」

「何?それは一体どういうことだ?」

真也の報告を聞いて隊長も驚く。通報があったはずなのになぜ誰もいないのだろう…。

その時だった。青い光が浮かび上がった。その強い光による衝撃で真也たちは吹っ飛んだ。吹き飛ばされた真也はすぐに目を覚ました。目の前には巨大なドラゴンがいた。

「なんだ、お前は?」

真也はゆっくりと立ち上がった。

「我が名はファントムドラン。」

巨大なドラゴンはそう答えた。

「この世界は我々の物だ。この世界の人間の半分は全滅状態だからな。」

その一言を聞いて真也は凍りついた。先程人が見当たらなかったのもこいつの仕業ということだと思ったからだ。

「ということは僕たちがここに来る前に…」

「その通り。お前たちがここに到着する前にこの世界に住む人間の半分は殺した。」

それを聞いた真也は絶望した。もしかして僕の家族まで…。そう感じた真也はたった一人で自宅に向かった。

「真也、任務中だぞ。」

隊員の一人が真也を呼び止めるが、真也はそれに気づかずにどんどん走って行ってしまった。ファントムドランが隊員に襲いかかった。




 任務中であろうと関係なく、自宅へと向かった真也は任務のことなんか頭にない。家族だけは無事でいてほしい。そう思いながらひたすら走り続け、なんとか自宅に到着した。だが、真也を待っていたのは変わり果てた両親と妹の姿だった。血まみれになって横たわっている。真也は悲しみのあまり膝をついた。

「父さん…母さん…小夜子…」

しかし、返事はなかった。真也を無力感と悲しみ、絶望が一斉に襲いかかった。家族をはじめとする人々の平和を守るために近衛隊に入隊したのに…家族は死んでしまった。真也は涙を流した。その時、無線から隊長の声が聞こえた。

「真也、私の命令を無視してどこに行っているんだ!今すぐに戻れ!」

それを聞いた真也は急いで仲間たちのもとへと走り出した。




ファントムドランと緑色の鬼のようなゴブリたちが戦っている。

「隊長、我々の生き残りもかなり減ってきましたよ。このままでは…」

「そうだな。一旦本部に戻るぞ!」

「そうはさせんぞ!」

ファントムドランが鋭い爪が生えた両手を振るった。これにより近衛隊たちは悲鳴を上げる間もなく、吹き飛ばされた。あたり一面に血が飛び散る。そこへ、一人の青年が駆けつけてきた。それは任務が完了していないにも関わらず、家族のもとへと向かっていた真也だ。

「隊長、みんな!」

真也が大声を上げるが、もう遅い。自分以外の近衛隊のメンバーは横たわって動かなくなっていた。

「貴様ぁ…!」

真也はライフルを構えるが、ファントムドランによるパンチを受けて吹き飛ばされてしまった。真也は近くの瓦礫に背中を叩きつけられ、そのまま気を失ってしまった。真也は死んだと思ったファントムドランは部下の魔物たちと共にどこかへと消えてしまった。真也は悲しみのあまり涙を流して死んだ仲間たちを見つめることしかできなかった。




 それから数日が経った。仲間と家族を失った真也は一人公園で悲しんでいた。

あの時僕は仲間や家族を救えるはずだったのに結局救うことができなかった。すまない。僕は無力だ。世の中は力のある人だけが上を行くんだ。

自分の力のなさに絶望していたその時だった。

「魔物たちが憎いか?」

どこからか声が聞こえてきた。

「だ、誰だ?」

真也は周辺を見回すが、誰もいない。気のせいか…。その時、黒く光る何かが遠くから飛んできた。

「なんだ、あれは?」

黒い光は真也の前に降り立つと二足歩行の人型に変化し始めた。突然すぎて真也はどうすればいいのか混乱するだけだった。

「なんなんだ、お前は?」

「俺の名はメフィスト。世界征服をするために地獄からやってきた悪魔だ。」

「メフィスト…?お前も…あのファントムドランの仲間か?」

真也は目の前の悪魔をにらみつけた。悪魔も真也をにらみ返す。

「俺をあんな奴と一緒にするな。あいつは俺にとって邪魔な存在なんだよ。」

「あいつと仲間じゃないんだな…。それで僕に何の用だ?」

「お前…俺と契約しないか?」

メフィストの言葉に真也はきょとんとした。

「どうでもいいけど…その契約という言葉の意味が理解できない。説明してくれないか?」




 契約…。それは最強の力を身につけた無敵の悪魔になれる代わりに優しい心や人間味などを徐々に失って、悪魔へと変わってしまうことを意味していた。

「なるほど。大体わかったけど…」

真也はまだ他にも聞きたいことがあるようだ。

「メフィスト、なんで僕を誘ってきたんだ?」

「お前から復讐心を感じたからだ。」

メフィストは平然と答えた。まるで真也の過去を知っているかのように。

「その通りだ…僕は…ファントムドランが憎い…アイツのせいで…仲間が…!けれど…僕は無力だ…」

真也は仲間を殺したファントムドランとその手下たちに復讐したい気持ちでいっぱいだ。しかし、その一方で以前は何もできなかったことに無力感も感じている。

「すまないが…僕に時間をくれないか?」

「フフフ…いいだろう…。お前が俺と契約する時を待っているぞ…!」

メフィストは紫色の光を発しながら空高くへ飛び立っていった。




 真也は迷っていた。メフィストの言う通りファントムドランに復讐したい気持ちでいっぱいだ。しかし、自分の力ではファントムドランを倒すことなんてできるわけがない。

(メフィストと契約すればあいつ等を倒すことができるかもしれない…。けれど、僕が…僕じゃあ無くなる…。それどころか悪魔へと変わるなんて…どうしたらいいんだ…!)

その時、一人の少年が走ってきた。

「すいません!近衛隊の溝野沢真也さんですか?」

「そうだけど、急にどうした?」

「町に…化物が現れて…近衛隊の生き残りを呼んで来いと…」

真也は急いで町に走り出した。少年も真也のあとに続く。




 ここはピースタウン。ここではファントムドランとその手下・ゴブリが暴れていた。そこへ、一人の青年が走ってきてゴブリの内の一体を蹴り倒した。真也だ。

「お前ら、これ以上の好き勝手は許さないぞ!」

「フフフ…お前ごときに何ができる!」

仲間も家族を失った真也は何も言い返せない。真也はファントムドランをにらみつけて近衛隊の隊員が共通で持っている剣・セーブソードを引き抜くとそのまま斬りかかっていった。ファントムドランも手指から爪を伸ばしていく。

「ファントムドラン様、ここは我々が…」

「黙れ!お前たちは邪魔だ!」

ゴブリたちの言葉が終わらないうちにファントムドランは口から光線を発射した。

「ぐわぁぁぁぁぁ!…ファントム…ドラン…様…」

光線を浴びたゴブリたちは跡形もなく、消滅した。その光景を目にした真也は凍りついた。

「貴様…手下まで…!」

「行くぞぉぉ!」

ファントムドランは長い爪を向けて飛びかかってきた。驚いている暇はない。真也も剣で反撃する。しかし、ファントムドランの体は鎧のように固く、切りつけてもびくともしない。

「くっそぉ!」

真也は悔しそうな表情を浮かべながら剣を勢いよく振るう。ファントムドランも長くて鋭い爪を振るう。その時、真也が持っている剣が変な音を立てたと思うと、刃先が折れてどこかへと飛んで行ってしまった。

「そんな…!」

武器までも失ってしまった真也は強烈な一撃を受けて地面に倒れこんだ。

「お前は所詮…弱虫だ…!」

ファントムドランは冷酷な笑みを浮かべると、そのままどこかへと飛び去っていった。




 ファントムドランの攻撃を受けた真也は気を失っていた。そこへ、一人の男性がやってきて真也の体を揺らした。

「おい、大丈夫か?」

体を揺らされたことで傷だらけの真也の体に激痛が走りだし、真也は目を覚ました。

「イテテテ…大丈夫だ…。」

意識を取り戻した真也はゆっくりと起き上がった。

「ファントムドランは…どこだ…?」

真也は仲間や家族の敵であるファントムドランを探すが、もうどこにもいない。

「逃げられたか…」

真也が悔しそうにつぶやくと、体中に痛みが走りだした。男性が声をかける。

「その体では無茶だ。」

「けど…アイツは…僕が倒さなくては…いけないんだ…」

その時、町の奥の方から悲鳴が聞こえた。

「まさか…!」

ファントムドランの仕業かもしれない。これ以上やつを放っておいたら…。

真也は激痛に耐えながら悲鳴が聞こえた方へと駆け出した。




 真也に勝利したファントムドランは一人の女性を掴みながら暴れていた。使っているのは真也の幼馴染・小百合だ。一人の男性がファントムドランに走り出していく。ピースタウンの町長でもある小百合の父だ。

「私の娘を返せ!」

小百合の父は娘を取り返そうと必死だが、当然ファントムドランには勝てない。すぐに倒されて気を失ってしまった。そこへ、怪我をした状態の真也が駆けつけた。

「小百合さんを離せ!お前の相手は僕だ!」

「そうはいかん。この女を人質にして町の人間どもを奴隷にするつもりだからな。」

それを聞いた小百合は涙を浮かべた。

「真也君、私に構わないで…」

小百合の言葉が終わらないうちにファントムドランは小百合の腹を殴りつけて気絶させた。

「それでもお前たち人間が俺たちに逆らうなら…人質は殺す。覚えておけ。」

そう言い残すとファントムドランは空高く舞い上がっていき、峠の方へと飛んでいった。真也は折れた剣を投げつけようとしたが、投げつけなかった。小百合に当たってしまうかもしれないと考えたからだ。




 仲間や家族を失った。その後には武器を失った。その直後に今度は幼馴染が人質として拉致された。こうなってしまったらメフィストと契約するしかないのではないのか?真也の心は揺れていた。その時、黒い光を纏ったメフィストが飛んできて真也の前に降り立った。

「メフィスト!ああ、ありがたい。ちょうどお前に用があったんだ。」

「そんなことより、俺と契約するのかしないのかはっきりしろ!」

「契約するかについて決めたよ。僕は…僕は…」

真也は少し迷っているようだ。

「どうした?また迷い始めたのか?それならもう少しだけ待っていてやってもいい。」

メフィストが飛び立とうとした瞬間だった。

「契約する!僕からすべてを奪ったアイツを倒すために…僕は悪魔と契約して戦う!」

それを聞いたメフィストは青い光線を真也に浴びせた。青い光線を浴びた真也だが、メフィストが自分の体に何をしたのかは全く理解できない。

「…僕の体に何をした?」

「デモンへの変身能力を与えた。お前の身に危機が迫ったり、戦うときになったりしたら変身できる。」

メフィストはそう答えた。デモンとは人間を超えたパワーやスピード、スタミナを誇る戦士のことでメフィストと契約した人間のみが変身でき、人間が使う武器よりも何倍もの威力を発揮する剣・ソードダークネスを使いこなすことができる。デモンに変身した人間はすさまじい力を発揮できるが、副作用で優しさや人間性などが無くなってしまい、最終的には人間ではなくなって悪魔のような存在へと変わってしまうのだ。

「契約完了。覚悟はいいんだな?」

「もちろん。僕は小百合さんを救い、仲間や家族の敵を討つ。」

覚悟を決めた真也はファントムドランのアジトである地獄峠へと向かって行った。

「フフフ…ファントムドランを倒したら…お前は用済みだけどな…」

メフィストは小さな声でそう言うと真也のあとに続いていった。




 ここは町の近くにある地獄峠。ここで桜上小百合は牢屋に幽閉されていた。

「真也君がアンタなんかに負けるわけない!私は信じているから!」

「ほほう…。大した信頼だな…。だが、奴は自身の家族や仲間を救えずに俺に負けた。だから勝ち目はない。」

嘲笑うように非難するファントムドランを小百合は悔しそうににらみつけた。真也君…町のみんなのためにも…この怪物を早く倒して…!




 真也とメフィストが地獄峠に到着した。地獄峠は岩や川のように流れているマグマが非常に目立っている。それはまるで地獄のような光景だ。

「ようやく到着したな、真也。」

「うん。けど、どこにファントムドランがいるんだ…。」

真也たちが周辺を見渡し始めたその時、ゴブリたちが真也とメフィストに向かって走ってきた。

「やはり来たか。」

真也がつぶやいた瞬間、真也の体が光に包まれたかと思うと紺色の体に二本の角を生やした悪魔のような戦士に変わった。右手には黒い剣が握られている。デモンに変身したのだ。

「これが…デモン…」

デモンに変身した真也は試しに近くの岩を一発殴ってみた。すると、岩は一瞬で粉々になった。これにはデモン本人だけでなく、ゴブリたちも驚いている。

「これは…想像以上だ…」

メフィストはその言葉以外何も見つからなかった。まさかこんなことになるとは…。

「…調子に…乗るなぁ!」

ゴブリたちは一斉に突進してきた。真也が変身したデモンとメフィストも迎え撃つ。

「デモンとしての…デビュー戦だ…!」

デモンの強烈なパンチがゴブリの内の一体に直撃した。それによってゴブリの内の一体は後方に飛んでいき、後ろにいた大勢のゴブリたちにぶつかってそのまま大爆発を起こした。

「これじゃあ…俺の出る幕は…なしだな。」

メフィストはゴブリたちをたった一人で圧倒する光景を目にして笑みを浮かべた。




 真也が変身したデモンは鬼神の活躍だ。次々と襲いかかってくるゴブリたちをなぎ倒していく。

「どうしたどうした!かかってこい、弱虫ども!」

それはまるで戦いを楽しんでいる悪魔のようだった。

「お前ら、その程度か…つまらないなぁ…はっはっは!」

デモンは倒したゴブリたちを見下ろして高らかに笑った。

「おい!まだファントムドランを倒していないんだ。あまり調子に乗らない方がいいぞ。」

「はいはい。わかってるよ。」

その時、デモンの体が黒い光に包まれた。やがて光が治まると、真也の姿に戻っていた。

「おい!まだやつを倒していないのにどういうことだ!」

「一応ひと段落は着いたからな。というか変身を続けたらお前は人間じゃなくなっちまうぜ。忘れたのか?」

そう。デモンに変身した人間は副作用で優しさや人間性などを少しずつ失っていくようになってしまうのだ。それを思い出した真也は何か変だと感じた。

(僕はさっき…口調が荒々しくなったような…まさか…)

「しかし…お前がデモンの力をこんなに早く使いこなせるとは驚いたな。」

「とにかく小百合が危ない!さっさと行くぞ!」

やはり真也の口調は少し変だ。デモンに変身したからだろう…。

(せめて小百合を救うまでは…人間性を維持しないと…!)

メフィストは真也の後姿を見つめている。

(こいつはどうやら女を救うまでは失いかけている人間性を維持しないとでも思っているみたいだな。残念だが…ファントムドランを倒したら用済みだから人間性を維持しようが失おうがどっちにしても俺が殺すからな…)

メフィストは冷酷な笑みを浮かべながら真也についていった。




 地獄峠の奥。小百合はここで捕らえられていた。

「ファントムドラン、どうやらあんたの負けみたいね。」

「それはどうかな?奴は俺に戦って負けているんだぞ。何度やっても結果は同じだ。」

その時、どこからか光弾が飛んできた。光弾はファントムドランの頬に直撃した。

「ぐ…誰だ?」

ファントムドランが見つめた先にはデモンに変身した真也とメフィストの姿があった。

「真也…君…もしかして…真也君なの…?…真也君…!」

小百合はデモンの正体が真也だとわかったかのように駆け寄った。小百合がデモンの近くまで来たその時だった。

「邪魔なんだよ、小娘が!」

デモンは小百合を突き倒した。小百合は尻もちをついてデモンを見つめた。

「真也君…じゃないの……そんな…」

デモンは悲しそうに見つめる小百合を見つめ返す。

(しまった…。俺の目的は……)

メフィストがデモンに歩み寄ってきた。

「お前…やはり人間性を失う覚悟できていなかったみたいだな…」

次の瞬間、メフィストは青い剣を出した。

「う……」

その剣で刺されたのはファントムドランではなく、デモンだった。剣が刺さった直後に変身が解け、真也の姿に戻る。

「メフィスト…お前…」

「残念だが、お前との契約はこれで終了だ。たしかにファントムドランを倒したいというお前の気持ちは強かった。だが、デモンに変身した際に出る副作用で人間性を失って最終的には人間ではなくなる覚悟はお前にはなかった。そんな人間なんて契約…いや利用する価値などない。」

「利用…?契約じゃないのか…?」

「俺が言った契約というのは嘘だ。お前が悪魔になろうがなかろうがどっちにしても殺すつもりだったからな。なんだったらこいつを倒すのを手伝え。それまで殺すのは待ってやる。うまくいけば生かしておくかもしれないな。」

「そんな…」

まさか利用されていたなんて…。真也はショックのあまりその場で膝をついた。その時だった。

「おい!さっきからずっと待っているんだけど!どれだけ待たせれば気が住むんだよ!」

ファントムドランはカンカンに怒っていた。

「うるせえ!世界征服のために大人しく地獄に落ちろ!」

メフィストは青く光る剣を構えるとファントムドランに斬りかかっていった。

「地獄に落ちるのは…貴様だ!」

ファントムドランも両手の指から爪を伸ばして突進していく。




メフィストとファントムドランが戦っている中、真也は落ち込んでいた。

(あいつを…倒すために…僕は…悪魔と契約したのに…悪魔になる覚悟ができないなんて…結局僕は…無力だ…結局はこの世界は…)

その時、小百合の手が真也の両手に触れた。

「真也君も戦ってよ!町を…平和を…みんなを守るために…!」

「無理だ…。小百合…俺は…昔から…無力だ…他の人間と違って…」

小百合は真也の口調が変わっていることに気づいた。だが、今はそれどころじゃない。

「たしかに…真也君は家族だけじゃなくて仲間も失っているから無力かもしれない…。けれど、真也君は私を助けに来てくれた。大切なのは気持ちなの。何かをしたいという気持ちがないと何かを始めることなんてできないから!」

「なるほど…。…俺は…俺は…」

真也は立ち上がった。今度こそファントムドランを倒す。そして、ファントムドランに殺された仲間や家族が愛した俺と小百合たちの世界を守ってみせる!




 ファントムドランの攻撃を受けてメフィストは弾き飛ばされた。

「フフフ…とどめだ…!」

ファントムドランが爪を突き刺そうとした瞬間、真也が飛びかかってきて強烈な飛び蹴りを与えた。真也の飛び蹴りが顔面に直撃し、ファントムドランはふらついた。

「ク……貴様ぁ…」

メフィストは起き上がりながら突然敵に攻撃してきた乱入者に視線を移す。

「お前…わかっているのか?お前は俺に協力したとしても最終的には俺に殺される運命なんだぞ。」

「わかっている。俺は平和のために戦う…こいつを倒したら…メフィスト…お前を返り討ちにする!それだけだ!」

その言葉を合図に真也はデモンに変身し、剣を構えて突撃していった。メフィストもデモンに続く。ファントムドランも長い爪で斬りかかっていく。ファントムドランの爪がデモンの脇腹に直撃した。だが、びくともしない。

「どうした?その程度か?」

デモンも剣で反撃する。その剣裁きは目にも止まらないスピードだった。メフィストも加勢する。

「二人になったら急に弱くなったな。」

「黙れ!調子に乗るな!」

笑うメフィストに対してファントムドランは口から光線を発射した。その光線を受けて二人は吹き飛ばされる。今度はファントムドランが笑った。

「はっはっは!残念ながら俺の勝ちだ!」

その直後にデモンとメフィストは何事もなかったかのように起き上がった。

「少しは聞いたぜ…」

メフィストが近づいたその時、デモンが押しどけた。

「どけ。こいつは俺が倒す。」

「いいだろう。さっさとしろ。」

デモンは剣を構えて突進していった。ファントムドランも光線を発射しようと口を開ける。

「今だ!」

次の瞬間、デモンは体を倒してスライディングしてファントムドランのお腹に剣を突き刺し、滑りながら真っ二つに切り裂いた。

「ぐわぁぁぁぁぁ!」

ファントムドランの体を苦痛が走った。そして、そのまま動かなくなった。

「これで終わったみたいだな。」

デモンがつぶやいた時だった。

「フフフ…お前…あの女を…逃がしたみたいだな…」

喋っていたのはファントムドランだった。しかし、ファントムドランは致命傷を負っているので戦う気力はもうない。

「フフフ…お前は…あの女を…殺したことになる…ぞ…」

それを聞き、デモンは峠を出ようと歩いていく小百合を急いで追っていった。




 小百合は峠を出て町に帰ろうとしていた。あと少しで峠に出られる。私はもう自由だ!

そう感じた時、小百合は頭を押さえて苦しみ始めた。

「うう…苦しい…」

そこへ、ファントムドランを倒した真也が走ってきた。

「小百合!大丈夫か?」

「真也君…苦しい……助け…」

小百合は真也に向けて手を伸ばすが、やがて力が抜けていき、手が垂れ下がった。

「小百合!」

真也は駆け寄るが、小百合は冷たくなっていた。小百合はファントムドランに地獄峠を許可なく出たら脳内に強烈なショックを与えるよう魔法をかけられていたのだ。また守れなかった。守れるはずだった…なのに…。真也はまた絶望した。仲間や家族を失い、今度は幼馴染まで失った。

 そこへ、メフィストが歩いてきた。

「おい。俺と戦うと言っていたな。今すぐに俺と戦って勝ってみろ!」

その時、真也の様子が変わった。

「俺は力がなかった。だが、このデモンの力で世界を征服できる。」

「何?」

「やっとわかったよ。人はみんな…強くなってそのまま悪魔になるってな…!それなら俺がその頂点に立って世界を意のままにする…!」

その言葉を合図に真也はデモンに変身し、突撃していく。メフィストも剣で応戦する。




メフィストがデモンの左肩に剣を突き刺した。しかし、デモンはびくともしないのでメフィストは驚いた。

「なぜだ…!」

デモンが剣を引き抜くと刃をへし折り、そのまま殴り倒した。メフィストは右手から紫色の光線を発射した。それによって今度はデモンが吹き飛ばされる。

「これでお前は終わりだ!」

メフィストの連続パンチを受け、デモンは反撃できずにその場で倒れこんだ。そんなデモンを見下ろし、笑った。

「何が世界を意のままにするだ…。これで世界は俺の物だ…。」

その時、デモンの剣がメフィストの胸部を貫いた。

「結局…契約と見せかけて利用しようとしていた男に命を奪われるとは…残念だったな…メフィスト…」

「デモン…いや…真也…」

メフィストは起き上がって反撃しようとするが、一発も殴れずに変身を解いた真也に胸部に刺さった剣を引き抜かれてそのまま切り裂かれた。

「これで…世界は俺の物だ…!」

真也は冷酷な笑みを浮かべると、そのままピースタウンに向かった。




 真也がその場を去った後、脳内にショックを与えられて死んだはずの小百合が目を覚ました。だが、様子が変だ。

「ここはどこ…?というか…私の名前って…」

どうやら奇跡的に命が助かった引き換えに記憶を失ってしまったようだ。

「なにか思い出せるものが…」

小百合は周囲を見回すが、峠にいるため、同じ光景しか目に入らない。その時、ピースタウンが目に入った。

「あの町に行けば…何か思い出せるかもしれない…!」

小百合はピースタウンに向かって走り出した。




 ピースタウンでは真也が変身したデモンが人々を次々と襲っていた。町からは悲鳴が響き渡る。

「うわあぁぁぁ!」

「きゃあぁぁぁ!」

デモンは人々が逃げ惑う姿を見て面白がっていた。

「強くなって悪魔になる人間がまるで虫けらのようだ…!」

そう言うとそのまま近くの人々向けて剣を構えて飛びかかっていった。




 記憶を失った小百合はなんとかピースタウンに到着した。しかし、ビルや家がたくさん壊されている。人の気配も全くない。何が起こっているのか小百合は理解できなかった。その時だった。近くの電器屋のテレビに映ったアアナウンサーが驚くべきことを告げた。

「デモンと名乗る悪魔がピースタウンの人々を襲い、更には他の国にも侵攻を開始しました。地上の皆さん、今すぐに地下へ避難してください!」

(デモン?何か聞いたことがあるような…?)

そう感じた時、剣を持ったデモンがテレビに映ったかと思うとアナウンサーを殴り倒し、青年の姿へと変わった。

「あっ!」

デモンに変身している青年を見て小百合は思い出した。町の平和を守るために近衛隊に入ったけど、異世界から来た怪物に仲間や家族を殺されて、悪魔と契約して悪魔へと変貌した幼馴染の真也だ。

「全世界の人間ども、この世界は俺の物だ!生きていきたいなら…俺に従え!さもなくば…死だ!…フハハハハハ!」

完全に記憶が戻った小百合はテレビに映った真也を見つめた。

(真也君…あれほどつらいことが起きたからこうなってしまうのも仕方ないのかもしれない…けれど、何か違う出来事が起きていたら…悪魔にならずに済んだのかもしれない…)

小百合はそのまま涙を流した。

今はもう悪魔となってしまった真也を止める手段はないのか…?いや、ないかもしれない。けれど、なにか運命が違っていれば真也は幸せな人生を送れたのかもしれないということはたしかだ。

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