第9話 ブランコ【ASMR】/ふたりでお風呂ごっこ!?

○公園・夕方


七咲

「ふたりで乗ると楽しいですよ。先輩はそのまま座っててください。私は……よっと。」


   #主人公が乗ってるブランコに乗ってくる七咲(立ちこぎで同じ方向を向いている)。


七咲

「立ち漕ぎです。こっちのほうがスピードが出るんですよね。では……」


   #そのまま勢いをつけてこぎ出す。ギイギイとブランコの音、勢いよく。


七咲

「それっ! ふふっ、風が気持ちいい……!」

「あ、速すぎましたか? ごめんなさい、ついうかれちゃって……」


   #ブランコの音、ゆっくりに。


七咲

「これぐらいならこわくない、ですよね。」


   #キイ、キイと鳴るブランコの音をバックに。


七咲

「(シリアスに)先輩……私、ひとつ不安なことがあるんです。」


   #ブランコの音、止まる。


七咲

「先輩のお家で台所を使わせてもらって料理の勉強をして。」

「ふたりで暮らす準備としてはいいんですけど、まだ足りないと思うんです。」

「料理の次は……お風呂だと思うんです。」


「つまり、お風呂を共同で使う練習をしてみたいです。」

「……よかった、先輩も乗り気で。」

「というか、めちゃめちゃ乗り気ですね。はい、すぐにやりましょう。」


「あ、もちろん本物のお風呂は使いません。ここでです。」

「……先輩、急にしょげちゃいました。大丈夫ですか?」

「はぁ、《続けていいよ》と……」


「では、改めてここで。」

「でも、今の私たちが一緒にお風呂に入るのはちょっと無理があると思うので……」


   #無理なの!? という主人公のリアクションに驚く七咲。


七咲

「わっ! そんなに驚くことないと思うんですけど……」

「あくまで今は、ということです。」

「とにかく、自然な流れでお風呂に入れそうなシチュエーションを考えてみました。」


「先輩は、残業で疲れ切ったサラリーマンです。」

「上司に叱られ、ふらふらの体で家について、やっと湯船につかれる……」

「はい、やってみましょう。」


「……ダメですよ、表情とかちゃんと作ってください。」

「うん、そんな感じです。」

「そこに、パート先のスーパーでこわいお局社員さんに叱られた私が帰ってきます。」


   #七咲、しゃべっているうちにどんどん感情が入っていく。


七咲

「お仕事つらい……あったかいお風呂に入ってほっこりしたい……」

「そんな時は、お風呂の取り合いになるかもしれないので一緒に入ることもあるかもしれません。いえ、なるんです!」


「というわけで、一緒に湯船につかります。ざぶーん。」


   #そう言いながら、向かい合って座る体勢をとる七咲。

   #ブランコがキィ、と音を立てる。

   #七咲、素に戻って。


七咲

「何してるのって……湯船につかっているんです。」

「だからこうして、向かい合って座ってるんです。」

「そ、そんな重くて苦しそうな顔をするのは失礼です!」


「違う? こういう体勢だから?」

「子供の頃、こうやって二人こぎしませんでしたか?」

「……顔を赤らめて、変な先輩です。」


「では、気を取り直して。」

「ええ、もちろんまだ続けますよ。」


   #七咲、演技に戻って。


七咲

「安アパートで湯船が狭いんだから、もっと端に寄ってくれないと困ります。」

「動けない……? なら、しかたないですね。」


   #七咲、さらに顔を近づける。


七咲

「(わざとらしく疲れ切ったため息)はぁ~」


   #七咲、素に戻って。


七咲

「……先輩、私に何があったか聞いてくれないんですか?」

「(ちょっと不満げに)……もっとやさしく、興味を持ってる感じでお願いします。」

「(満足いくリアクションだったので)いい感じです、先輩。」


   #七咲、演技を再開。


七咲

「実は、レジのお金が160円足らなくて社員さんに叱られたんです。」

「足りない分は来月のお給料からひかれちゃいます……」

「先週も足りなかったから、私のパート代だけでは来月の食費が減る一方です。」


「先輩の好きな河童漬けが買えなくなってしまうかもしれません。」

「私、レジもちゃんと打てなくてダメですね……ごめんなさい。」


   #急に七咲の頭を撫でる主人公。

   #ここから七咲、素に戻って。


七咲

「あの、先輩? 急に手を……ひゃあ! きゅ、急に頭を撫でるのは反則です!」

「《がんばってるから褒めたくて》って、それはうれしいですけど……」

「……大きな手で撫でられるの、心地いいかも。」


「私、お姉ちゃんだから……」

「こうしてもらうのは子供の時以来かもしれません。」

「ふふ……いつもは郁夫の頭を撫でる側ですけど。」


「たまには撫でられるのもいいかも。」

「こうしていると、去年のクリスマスに山の温泉で一緒にいたのを思い出します。」

「先輩……あの時のように……抱きしめて欲しいです。」


   #七咲を抱きしめる主人公。衣擦れの音。


七咲

「あの時もこうしてくれて、それから先輩が告白してくれたんですよね。」

「え、また告白してくれるんですか……うれしいです。」

「……ぷっ! 《パートを首になっても僕が幸せにする》って……」


「ふふふ……あははっ!」

「だって、ふふ……おかしくて……」

「ごめんなさい、笑いすぎました。そんなにすねないでください、先輩。」


「でも……いつのまにか予行演習じゃなくなってますよ。」

「《最初からずっと本気だったよ》ですか……だったら私も本気で……」


   #七咲、顔を近づける。


七咲

「……キス、してもいいですか。」

「……大丈夫です。誰に見られたって、恥ずかしくありませんから」


   #七咲、キスをする。


七咲

「ん……」


   #キスを終えたふたり。

   #再びハグをする。衣擦れの音。


七咲

「……先輩、大好きです」



《最終話へ続く》


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『ASMRボイスドラマ アマガミ Vol.4 七咲逢編』(CV・ゆかな、CV・浅川悠)

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