sieve010 バーフバッグ
僕が彼女の部屋を訪れた時、そこには先客が居た。ニャット船長だった。
「どうしたんですか?」
僕が尋ねる。船長は一瞬だけ目を合わせ、ちょっとね、と言うだけだった。
ニャット船長は僕が部屋に入るのを確認して自ら扉を閉めが、その後も何も言わなかった。
そうやってしばらく押し黙って、彼女は重苦しく口を開いた。
「格納庫での話の続きを聞かせてほしくて、ね。」
「ただ、その前に見せておきたいものがあるの。」
「……覚悟して見てほしい。」
ニャット船長の声は一層重苦しく、まるで懺悔でも始めるかのような、そんな雰囲気だった。
「これを。」
差し出されたのはタブレット端末だった。
そこにはニュースサイトが表示されていた。
一番上の写真付きの見出しの文字が目に入って、血の気が引いた。
(月のピアリ研究基地で爆発事故。生存者は絶望的。)
急に頭が真っ白になった。
その記事の意味が上手く理解できず、
見出しの一つ一つの文字を読み取るのすら酷く難しく思えた。
それでも懸命に、そこに赤いてある意味を理解しようと、
何かの間違いであればいいと、縋る気持ちで写真を確かめる。
その記事には、基地の見知った建物がことごとく吹き飛び、粉々になった破片が煙のよう渦巻いている様が写しだされていた。
僕らの最後にいた格納庫も、何もかもが辛うじて跡形が残っているだけだった。
そして、もう一度(生存者は絶望的)という見出しが目に入ったとき、
まるで誰かに頭を殴られたような痛みが頭に走り、
胃から何かが逆流し、口を出そうになった。
僕は思わず体を丸め、それを必死に堪えた。
喉が熱くなり、口の中が爛れる。
ニャット船長は用意していたのか、袋とタオルをこっちに投げてくれた。
けれど、隣のサチコを見ると僕と同じように口を手で押さえており、そして彼女の場合はもう吐き出してしまっていた。サチコは手をばたつかせ、何を探していた。
急いで彼女にタオルと袋を掴ませる。
そうすると出してしまったそれをタオルで拭い、袋にしまい込んだ。
僕は幸い、最後まで出さずには済んだ。
「そんな……」
彼女は虚ろな顔をして、ただ何度もそう呟いた。僕は何か声を掛けたいと思ったが、僕の頭の中でも走馬灯のように色んな人の顔が浮かんでは消えを繰り返していて、彼女を抱き寄せることで精一杯だった。
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