第1話 2
ある十月の朝のことである。
客の波が途切れた時に、カウンターの席で大皿に盛られたベーコンエッグやベイクドトマトを食べていた白いアヒルが、店主のエミールに話しかけた。
このアヒルは近所に住んでいる帽子職人で、名をフェルディナンドという。
「ダニエラの代わりはまだ見つからないのかい」
ダニエラとは、先月までエミールの店で働いていた雌のアヒルである。去年の春に結婚式を挙げた彼女は、この度めでたく卵を温めることになり、休職したのだ。
「決まりましたよ。明日から来ます」
エミールは無口でぶっきらぼうな性格だが、気の置けないお得意さんとは気楽に世間話しをする。敬語を使っているのは、フェルディナンドのほうが十歳ほど年上のせいだ。
「どんな人だい?」
「ダニエラの高校の時の同級生だそうです」
「性別は?」
「女性です」
「いい選択だ。ちなみに、その子もアヒルかい?」
「いえ、ミニブタです」
「ふむ…。まあ、いいさ。個人的にはアヒルのほうが良かったがね」
新しい客が二人一度に店に入って来た。一人はカウンターに座り、一人は三人前のサンドイッチをテイクアウトで注文した。
エミールの店は、朝の時間が一番忙しい。ダニエラがいた時には、店の外に三台のテーブルを出していたが、エミールは新しい従業員が見つかるまで外のテーブルは出さないことに決めた。狭い店内には、カウンターと四人掛けのテーブルがひとつしかないが、エミール一人ではそれだけで精一杯だからだ。
そうしている間にも、一人の客が席を立ち、一人が店に入ってくる。
食事を終えたフェルディナンドも席を立った。
明日、朝食の時間が終わる直前にこの店に来こようと考えている。その時間なら、この店もそんなに混んでいないはずだ。
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