Emile's breakfast

くろぶちサビイ

第1話 1

 エミールは、この街の朝の風景が好きだった。

 暗いうちから自転車で家々を回る新聞配達員。仕事を終えて帰宅するバーテンダーやホステス。漁を終えて港に帰ってきた漁師、市場の仲買人。開店の準備をする花屋、パン屋、不動産屋。仕事に出かける勤め人。学校に行く子供達。


 これらを愛しているから、こんなに朝早くに自分の店を開けるのかもしれない。


 エミールは筋肉隆々の体付きをした、銀色の毛皮のウサギである。

 年は四十前後で、大通りから少し離れた古い石畳のこの路地で小さな飲食店を開いて十年になる。国によってダイナー、バル、トラットリアなどと呼ばれるような、誰でも気軽に入れる店だ。


 働き者のエミールは、早朝に店を開ける。

 そして、朝食と昼食と軽い夕食(軽い夕食しか出せないのは、夕方の6時で店を閉めるからだ)、それにお茶の時間には果物のパイなどの軽食、コーヒーからアルコールまでの飲み物も出していて、それなりに繁盛していた。

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