第6話 1

「君がこの店で働いていることは、ダニエラとジョルジオから聞いた」

 カウンターのアンナの隣の席に座ったラザロは、責めるようにアンナに言った。


「店主とずいぶん仲が良いじゃないか」

「……。どういう意味?」

「君が自分の相手にウサギなんかを選ぶとはね」


 アンナはラザロを睨んだ。

「誤解よ。エミールさんに失礼だし、第一、あなたには口出しする権利はないわ」


・・・


 ミニブタとウサギとアヒルが、自分達の国をひとつに統合してから、すでに百年もの年月が経っている。

 その間に、三つの種族はお互いに馴染んで、同じ町や村に入り混じって暮らすようになった。

 ただ、いまだに自分のパートナーには、ウサギはウサギ同士、ミニブタはミニブタ同士というように、自分と同じ種族の相手を選ぶ人が多数派である。

 でも、ミニブタとウサギ、アヒルとミニブタなどの、異なる種族同士のカップルは確実に存在しているし、三つの国が統合する以前も、いわゆる「国際結婚」するカップルはいた。


・・・


「権利がない?」

「何も言わずに突然出て行ったのはあなたよ」


 アンナはきっぱりと言った。

「お陰で苦労したわ。ちょうど失業した時だったから、精神的にも経済的にも本当に辛かった」

「それは悪かったよ。でも、あんなに言い争いが絶えないんじゃ、出て行きたくもなる」


「済んだことはもういいわ。連絡が取れて良かった。部屋に残ってる荷物を持っていって」

「…」

「あの部屋は私一人じゃ家賃を払うのが大変だから引っ越しをしなきゃいけないんだけど、あなたの荷物をどうしようかと思ってたの。二週間以内にお願い」


 ラザロは急に語気を弱めた。

「そのことなんだけど…、考え直してくれないか」

「え?」

「僕達、やり直せないかな」


 アンナは顔をしかめた。

「無理よ。あんなにひどいことを言いあったのを忘れたの?」


 しかし、ラザロはアンナの手を取ると、自分の考えを一方的に話し始めた。


「君のイラストのことをあんなふうに言ったのは悪かった。本心でなかったことくらい分かるだろう。君には絶対に才能があるよ。僕達がやり直せないはずがない。そうだろう?だから…」


 アンナは口を挟むこともできなかった。何度も首を横に振るが、ラザロの目には入らないようだ。

 ついにエミールが口を出した。


「もうその辺でやめておけ」


 はっとしたようにラザロがエミールのほうを見たが、すぐに視線をそらした。

 強面の銀色ウサギに渋い顔を向けられて、ふよふよとした白と茶のミニブタの青年は、引き下がらざるを得ないと悟ったのかもしれない。


「帰ってくれ。明日も早いんだ」


 エミールはこう言うと、やや強引にラザロを店から押し出して、扉を閉めてしまった。

 ラザロはその間、一言もしゃべらず、外に出されると、すぐにどこかに姿を消した。

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