第180話 リタを問い詰める
古代都市ゼブルニアの大通りを、俺達は歩いていた。
ゼブルニア中心部。
南のゼブルニア大神殿へと向かっているのだ。
元々、街の外側にある六つの小神殿を回る計画を立てていたのだが、魔王の複製体が襲撃してきて、その後、最奥の大神殿に脇目もふらずに逃げたとあれば、その計画を中断させ、最短ルートで向かうのが最善だろう。
小神殿を訪問し、グレイヴを探すというのも元々当てなく立てた捜索プランで、その手掛かり、魔王の複製体が自ら現れてくれた現状———そちらを優先するのが吉だ。
だから、俺達は他の小神殿を無視して真っすぐに大神殿へと向かっている。
なるべく、急ぐ必要がある……。
「大丈夫ですか? リタさん?」
「うん……大丈……夫……」
だというのに……。
俺の後ろではアンがリタに付き添うような形で寄り添い、肩を組んで歩いている。
心配そうに何度も何度も声をかけながら。
「あまり無理しないでくださいね。リタさんは一度死んでいるんですから」
「うん……」
しつこく声をかけるアンにリタは若干鬱陶しそうだ。
だが、それにしてもなんという会話内容だ。
一度死んだって……。
まぁ、だからこそ何が起きるかわからないから急がせるわけにはいかない。
死んで蘇るなんて本来ありえない現象が、リタの身に起きたのだ。それに今は消えているとはいえ、一度は腹に風穴まで開いた。
もしかしたら、その傷が開くかもわからない。
完全に塞がってはいるものの———。
チラリと視線をやる。
彼女の腹部へと。
彼女が
傷跡も———何もない。
消えたように。
いや、消したのだ。
俺が———消した。
「…………」
自分の右手の平を見つめる。
確かにそこから俺は〝影〟を出した。
魔剣が作り出すのと同様の———影を。
それにより、リタを蘇らせた。
「あれは……一体……」
「———〝闇の力〟」
俺の声が聞こえてしまったのだろうか、ぽつりとつぶやくリタの声がした。
「闇の力?」
俺は振り返り聞き返す。
「そう、あなたは、ご主人様は冥府を司る闇の力を扱える。それによって死の世界へ行った魔の者ですら。生者の世界に引っ張り上げることができる。魔王が扱える闇の魔力は生の世界と死の世界の狭間を行き来する力。だから、一度死んだ私を……復活できたんだと思う……」
リタは腹を抑えながら、続ける。
「話には聞いていた……お母さんから———魔王様は死をも乗り越える力を持っている———と、まさか自分がその恩恵を受けることになるとは思わなかったけど……」
そしてどこか嬉しそうに微笑み、傷痕が塞がっている腹を撫でる。
「……そうか。リタ……お前やはり何か知っているな?」
「……?」
首をひねるリタ。
よくわかっていない様子だ。
だが———やはり彼女は何かを知っている。何か重要な、この世界の秘密について重要なことを知っている。
いい機会だ。一度はっきりと問いただしておきたい。
問いただしておかねばならぬ。
「何のつもりで
「…………」
一気に質問をまくしたてる。
リタは困ったような表情を浮かべるが俺は———、
「答えてくれ、リタ」
「…………」
ここではっきりさせたい———。
リタの真意を。
正直、俺は彼女をこの古代都市に連れてきたとときは、最悪、俺自らの手で彼女を殺さなければならないと思っていた。
彼女は敵か味方かわからない。わからなすぎる。
何を考えているのかさえも。
元『
何か企んでいると考えた方が妥当である。
そもそも古代都市に連れてきたのも、グレイヴの野望を打破するための同行者として連れてきたのも———彼女が何かを企んでいたとしたらそれを暴くためでもあった。
いい加減———もういいだろう。
全てを明かしても。
その気持ちが伝わったのか、リタは意を決したようにコクリと唾を飲み、
「…………私は、以前あなたと初めてお会いした時……名字はないと言いましたが、アレは嘘です」
そう、言った。
———『私に名字はない。ただのリタ』
初めて彼女と出会った時、黄昏の森で出会った時、そう彼女は言っていたのを思い出す。
そして、言葉を続ける。
「私は……私の本当の名前はリタ・リリス———〝魔神皇国ゼブル〟の〝六天将軍リリス〟の直系の子孫。
「使う?」
「はい。母からずっと伝え聞いていました。我々〝魔族〟は〝魔王様〟の望むままに生きることが至上の喜びであると。魔王様に仕え、魔王様のやりたいように使われるのが最上の幸福である、と。ですので私は———、」
リタは目を閉じ、胸に手を当てる。
「———魔王様の望む、〝魔族の復活〟を。仲間たちの復活のためにこの命を捧げようと決意しているのです」
噛みしめるように、自らの言葉を
「そうか———では、」
彼女の言葉を聞いて、正直———「なんじゃそりゃ」と思った。
「
問われリタは目を見開く。
不愉快だった。
全く自分の意志が感じられないリタの言葉は、なんだか単純で幼稚で……つまらないものに聞こえた。
「———私は魔王様の道具です。あなたの意志が全て。その意に沿います」
一度開いた眼を再び閉じ、若干の微笑を浮かべて一礼する。
「意にそう……か、気に入らんな」
「……はい?」
ピタリとリタは体を一度強張らせ、恐る恐る顔を上げた。
「何か……お気に……触りましたでしょうか……?」
体を若干震わせている。
怯えているのだ。
「リタ……今、貴様が言った事。今、ここで起きている事。
「ご……り……?」
「乱暴な言い方をしてしまったが、ここではっきりさせておきたい。貴様は何を見て、何を聞いている? 吐いてもらうぞ、リタ。貴様の
「そ、それは……」
なぜか、言いづらそうにリタは口ごもる。
「どうした? 貴様は
俺は
この状況に苛立っていた。
だから、先の彼女自身の言葉さえ利用し、全てをさらけ出させようとしていた。
やがて、リタは腹をくくったように一つ頷くと———、
「わかりました。全てをお話しします。私たちの……禁じられた魔族の歴史を……」
「禁じられた?」
リタはチラリと横のアンを見つめる。
ああ……彼女がいるから、この場に普通の人間であるアンがいたから、話すことを躊躇していたというわけか。
だが———、
「……話してもらおうか、リタ。お前が知っている魔族の全てを———」
ここで話してもら分ければ、わざわざ彼女をここまで連れてきた甲斐がない。
リタは口を開き、語り始める。
「これは全て、私の母から聞いた話です———」
そう、切り出した。
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