第81話 悪役貴族が教える友達の作り方
「友達100人を、明日までにだと?」
この黒髪の学園最強の剣士はそう言ったのか?
「はい!」
いや、「はい」じゃないが。
どうしてそういう返事だけは元気がいいんだ。
「無理だ」
「——————⁉⁉⁉」
いや、「⁉⁉⁉」じゃなくて。
「———常識的に考えればわかるだろう? 今、友達ゼロ人の貴様がたった一日で友達100人作れると思うのか? そんなことができるのなら今頃貴様は友達1万人はいるぞ」
「で———でも必要なんですっ!」
友達が……
「どういうことだ?」
尋ねると彼女は一瞬ためらったように肩を上げるが、やがて心を決めた様に口を開く。
「明日……姉が……国から来るんです」
「プロテスルカからか?」
「はい……………だからです」
「……………うん?」
プロテスルカから姉がわざわざ姉に会いにやって来る。
それはわかった。
俺は沈黙し、そこから先の言葉を一旦しばらく待つことにした。
「……………だからです」
ナミが同じ言葉を繰り返す。
うん?
「どういうことだ?」
「だ、だから……その、姉が明日来て、私の様子を見に来るんです……その、ここってガルデニア王国じゃないですか? ……だからです」
いや、「だからです」じゃないが。
頭が痛くなってくる。
全く話の要領を得ない。
「———つまりは、一体何が問題だというのだ⁉」
「ヒ、ヒィィ……⁉」
イライラして思わず声を荒げてしまうと彼女は後ずさり、一気に俺と距離を取る。そして「あわわわわ……」と床を這いまわるように魔道具倉庫の出口に向かっていく。
「……何度も逃げるな! 話を聞いてもらいたいんだろう? ……話を聞くだけなら、ちゃんと聞いてやるから」
彼女の首元をむんずと捕まえる。
「もう……大声出さないですか……お、男の人……怖い……!」
「大声出さないから、落ち着いて何故友達が百人明日までに必要なのか教えてくれるか?」
ビクビクと震える彼女をスライムマットの上に戻してやり、目線を合わせてやる。
悪役貴族なら絶対にこんなことはしない。だけど、せざるを得ない。優しく対応しないと全く話が進まないのだから。
再び彼女が
「明日……姉が……国から来るんです」
「プロテスルカからか?」
「はい……………だからです」
「……………うん?」
プロテスルカから姉がわざわざ会いにやって来る。
それはわかった。
俺は沈黙し、そこから先の言葉を一旦しばらく待つことにした。
「……………だからです」
ナミが同じ言葉を繰り返す。
うん?
「どういうことだ?」
「だ、だから……その、姉が明日来て、私の様子を見に来るんです……その、ここってガルデニア王国じゃないですか? ……だからです」
いや、「だからです」じゃないが。
頭が痛くなってくる。
全く話の要領を得ない。
「———つまりは、一体何が問題だというのだ⁉」
「ヒ、ヒィィ……⁉」
イライラして思わず声を荒げてしまうと彼女は後ずさり、一気に俺と距離を取る。そして「あわわわわ……」と床を這いまわるように魔道具倉庫の出口に向かっていく。
「……何度も逃げるな! 話を聞いてもらいたいんだろう? ……話を聞くだけなら、ちゃんと聞いてやるから」
彼女の首元をむんずと捕まえる。
「もう……大声出さないですか……? お、男の人……怖いんですぅ……!」
なぁにが怖いだ、〝剣聖王〟のくせに。
俺よりも強いくせに。彼女が今この場でその気になれば、一瞬で俺の首を跳ねることも可能だろうに。
「ハァ……大声出さないから。落ち着いて、何故、友達が明日までに100人必要なのか。
ビクビクと震える彼女をスライムマットの上に戻してやり、目線を合わせてやる。
悪役貴族なら絶対にこんなことはしない。だけど、せざるを得ない。優しく対応しないといつまで経ってもお悩み相談に話が辿り着かないのだから。
「それで、まず何が問題なのだ? まず貴様の姉は何しにここへ来るのだ?」
なるべく優しい目になるように心掛けながら、ナミを正面から見つめる。
「あの……姉は過保護で……私のことをいつも心配していて……実はこの学園の卒業生なんですけど……。私にこっちの風土は
「なるほどな……」
「それで言っちゃったんです……友達100人いるから大丈夫って……」
「なるほどな……」
それはまた……デカい嘘をついたな……。
「本当は一人も友達いないのに……学校中の人気者で……週末はいつも寮でパーティーを行っていて……私はそこのダンスマスターで歌と踊りで皆を盛り上げてるって……」
「ダンスマスター……」
「あんまり友達と遊ぶのが楽しくって、最近は剣術や魔法なんか全然勉強してなくて、宴会魔法ばっかり習得して成績は下がっちゃったけど……そのおかげで
「宴会魔法……」
そんな魔法あるのか、知らなかった。
…………多分、知らなくても良かった。
「こっちの悪い奴大体友達ィィィ~~~~~~~~~~~‼」
「⁉」
突然、何の脈略もなくナミがハイテンションで拳を突き上げたので———さすがの俺でも面食らう。
「な、なんだ?」
「い……いえ……言いたかっただけです……」
そして目線を全く合わせないままシュンと拳を戻し、ローテンションに戻っていく。
感情の起伏が極端すぎる。
「そ、それでですね……そいつらと常にパーティーをしていて、明日アリサちゃんの歓迎会を友達全員でしてやるよ! って言っちゃってて……」
「アリサとは誰だ?」
「あ……姉です」
知らんがな……もっとわかりやすく話してくれ。
「そ、それで……明日まで友達100人必要なんで……何とかしてほしいんですけど……何とかなりませんか?」
ようやく、彼女は俺を見る。俺と目を合わせてくれる。
救いを求めるようなナミの目。
それに対して俺は———、
「何ともならんっ‼‼‼」
———はっきりと言ってやることにした。
「—————⁉⁉⁉」
口を開けて頭を震わせ衝撃を受けているナミだが、それはそうだろう。
そんなに衝撃を受けることではない、現実を直視しろ。
「さっきも言ったが、友人など
「————ッ⁉」
「今、貴様がせねばならんのは姉に正直に言うことだ! 嘘をついてすまなかったと! そして次の日からでも、誰でもいいから通りがかかりの生徒に話しかけてみろ。その結果そいつと友達になれるかもしれんし、なれんかもしれん。だが、その行為自体が大事なのだ。一人目がダメだったら、二人目に行け。積み重ねろ! 相手に自分から好意があることを見せつける。見せ続ける。そう———嘘のない裸の自分をぶつけ続けることができれば、いつかは友達ができるだろうよ」
「……裸の……自分」
ナミの目線が少し下がって、ポツリとそうつぶやいた。
よし、今度こそお悩みは解決したな。
「ではな」
一件落着、と立ち上がる。
「……裸の自分……共通の話題……得意分野で……ぶつかっていく……!」
チラリと振り返ると、ナミの中で何か答えに辿り着いたようだ。
ブツブツと呟いているが、その瞳には明らかに意志が宿っていた。
———そしてチャキリと腰に下げている自分の刀を握り、鳴らしていた。
俺は満足してナミを置いて魔道具倉庫を後にした。これから一人で考えを整理し、明日からクラスの女子にでも誰かにでも「剣術を教えてあげましょうか?」と話しかけて友達を作っていくだろう。
超絶コミュ障だろうとも、ちょっと勇気を振り絞るだけで友達なんていくらでもできるのだ。
そう………思っていた。
次の日までは———。
◆
翌朝、登校し生徒会室に入るとアリシアがテンション高く、こんなことを言ってきた。
「師匠‼ 大ニュースだ! 〝剣聖王〟が———〝連続辻斬り事件〟を起こしたって‼ 1人で100人の不良生徒に次々と襲い掛かって成敗しまくったそうだ! 100人斬りだぞ‼ 一晩で! 凄くないか⁉」
凄い。
凄い……頭が痛い。
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