第二部 悪役貴族はコミュ障を救いたい。
第78話 悪役貴族はやっぱり殺されたい
俺は現代の日本で暮らす普通の男だったが、一度死に『
シリウス・オセロットは『紺碧のロザリオ』の主人公、ロザリオが倒す悪辣鬼畜な外道キャラであり、王女だったり虐げられている妹キャラだったりを助けるために立ちはだかる壁である。
シリウスは主人公がヒロイン攻略する過程で必ず殺されるキャラであり、必ず殺されるべきキャラだ。
なぜなら、そのイベントでロザリオは
だから、俺は死ななければいけない……。
「シリウス会長、ここの資料は何処にあるんですか? 今後の活動のために去年の記録を調べたいんですけど……」
「ああ、ロザリオ。それはあちらの棚にある」
そう思っていたのに、なんだかんだで仲良くなってしまった。
それどころか、部下として働いてもらっている。
———ここは生徒会室。
そこでこの世界の主人公であるところのロザリオは今後の生徒会運営のためのマニュアル作りを行っている。
俺、生徒会長シリウス・オセロットの部下として。
どうして、こうなったんだか……いろいろあったとしか言いようがない。
「師匠。生徒たちからの色んな要望が寄せられている目安箱を持ってきたぞ。中を見るか?」
ガチャリと扉を開けて赤い髪をした、
アリシア・フォン・ガルデニア———この国の王女である。
「ああ、すまない。ここに置いておいてくれ」
「生徒の意見をちゃんと聞くなんて流石は師匠だな」
ニコリと微笑みかけるアリシア。
なぜか、俺を慕ってしまっている。
『紺碧のロザリオ』のメインヒロインなのに。
嬉しそうに生徒会長用の豪華な装飾がされている机の上に『目安箱』と書かれた木箱を置いてロザリオの対面に座る。
少し離れた場所では黙々と魔法でペンを空中に浮かしていくつもの紙に書きこみ、資料作成をしている妹キャラ、ルーナ・オセロットがいる。
生徒会室の中央に位置している長机。
そこで生徒会役員たちが作業をしている。
生徒会長の俺、シリウス・オセロットをトップとして。
この世界の主人公、ロザリオ・ゴードンもメインヒロイン、アリシア・フォン・ガルデニアもサブヒロインのルーナ・オセロットとして生徒会役員として働いている。
俺のために———。
「どうしてこうなった……」
俺は———この世界の悪役のはずなのに、どうしてみんな慕ってしまっているのか。
「な~にが、どうしてこうなっただよ」
ドンッと俺の机の上に大量の本を置く青髪のワカメみたいな髪型をした青年———ミハエル・エム・プロテスルカが俺の言葉に突っ込む。
「僕にこんな重労働をさせておいて……! 自分はサボりか? イイご身分だね全く。僕は皇子だぞ?」
そして、何故か同盟国であるプロテスルカの第一皇子も俺の部下として働いている。
彼もこの世界ではシリウス並みのクズだったはずなのに……ほんとうに何がどうなったのか改心してただの一貴族であるシリウス・オセロットの下になることを申し出た。
全員俺を慕って……。
本当に———なんで?
俺は殺されるべき人間なのに。
これでいいのか?
なんだかんだで、無理に殺されなくてもロザリオを強くすることは可能だ。『紺碧のロザリオ』の物語上ではシリウスを倒すイベントでロザリオは強くなるが、俺自身でロザリオをコントロールして強くするという方法も、この世界の行く末を知っている俺なら不可能ではない。
だから、このまま全員慕ってくる仲間と共に生徒会を運営していく生活を続けてもいいのかもしれないな……。
「ミハエル皇子、また図書室で土魔法を使ったな?」
背を向けて自分の席につこうとするミハエルを呼び止めた。
「集めてきてもらった歴史書に土がついている。自分が土魔法のエキスパートだからといって、室内で土魔法を使うのはやめろと言ったはずだが? 先日も司書教諭から「皇子が土の手を使う魔法を平気で使うから本が土だらけになって困っている」と、苦情が来たばかりなのだが?」
「……う、うるさい! その魔族に関する資料集めがどれだけたくさんあるか知ってるのか! 僕は皇子なんだよ! 貧弱なんだよ! 魔法を使わないとやってらんないんだよ!」
廊下の方から「うわっ、誰ぇ? ここで土魔法なんか使ったの……掃除しなきゃじゃん」という女性との声が壁越しに響く。
どうやら、この部屋に入る直前まで『
「ミハエル———」
と、俺は呼び捨てにすると彼はビクリと肩を震わせる。
「———生徒会に入りたいと言ってきたのは貴様のはずだがな?」
「……そうだけど、でもこれぐらいいいだろ。細かいこと一々言ってくるんじゃないよ! 器が小さいなぁ」
彼はクズオブクズだった。アリシアを無理やり襲おうとしたり、平気で人を殺そうとしたり。だが、それを彼は反省した。彼自身が言うにはシリウス・オセロットのおかげで反省したと言うのでこうして俺の元にいるが……そう簡単に根は変わらないもので、ことあるごとに問題行動をして愚痴をこぼしている。
トン……ッ!
突然、俺の指先がピクリと動き机の上を軽く叩いた。
するとピシッと激しい音がして、机上に一筋の傷がはいる。
「ヒ———ッ⁉ な、なんだよ……⁉ そ、そこまで怒ることないじゃないか……わ、悪かったよ」
「い、いや……」
机の上の傷を見て、ミハエルはビビり散らかして逃げるように俺から離れていったが今の行動は俺の意思とは関係ない。完全に無意識だった。
ミハエルの先ほどの言葉に俺は呆れはしたが、ムカつきはしなかった。ハァと一つため息をつくつもりだったが気が付いたら指先が机を叩き、その力が強すぎてヒビを入れた。
『おい、あいつムカつくな。我なら殺していたぞ?』
そう、以前にどこかで見た幼女のような声が聞こえた気がした。
「こんなところでやめてくれよ、ベルちゃん……」
誰にも聞こえないようにそうつぶやいた。
俺の中には、シリウス・オセロットの中には魔王が宿っている。それは本来別のキャラにとり憑き、世界を滅ぼす脅威となるものなのだが……俺が転生したからか、何かがどう転んでしまったのか、このシリウス・オセロットの身体に宿ってしまった。
だから———やっぱり俺は死ななければならない。
この世界を滅ぼす意志のある、魔王が宿っているのだから。
……どうすっかなぁ。
ロザリオと和解し、ヒロインたちやミハエルのようなサブキャラもなんだかんだ慕ってくれているので、どうにかこうにか協力してこの世界のラスボスを倒せばいいと思っていたが、そのラスボスが俺自身になってしまった。
自殺をすればいいのかとも思うが、何となくその結論は間違っている気がする。具体的にはまだ何とも言えず、ただ何となくとしか言えないが……。
やっぱり、悪役貴族であるところの俺は殺されなくてはならない。
どうにかこうにか、ロザリオにはっぱをかけて俺に敵意を向けさせ華々しく散るようなシチュエーションを考えながら、目安箱をひっくり返すと一枚の投書が目に付く。
〝友達ってどうやってできるんですか? 三年一組ナミ・オフィリア〟
「ナミ……オフィリア……」
その名前には見覚えがあった。
『紺碧のロザリオ』のサブヒロインでこの学園で最高学年の三年生。お姉さんキャラという属性が与えられたヒロインだ。
一応……だが、彼女にはそれよりももっとインパクトのある属性が付与されている。
「師匠? ナミ・オフィリアがどうかしたのか?」
バタンッッッ‼
俺のつぶやきに反応するアリシアの言葉を遮るように、勢いよく生徒会室の扉が開かれた。
「あ……あの……目安箱に投書した者ですけど……!」
黒髪の刀を下げた少女がそこにいた。
彼女こそ———ナミ・オフィリア。 〝剣聖王〟と呼ばれる学園最強、いや、この『紺碧のロザリオ』の世界での最強の存在であり、
「お、お、おおおおおおお……お返事はまだ……です、か?」
超絶コミュ障のヒロインだった。
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