第75話 ミハエルの加入——そして、新生徒会始動。
「き……あなたを、生徒会に……入れる?」
貴様と言いかけて、ミハエルが一応高貴な身分であることを思い出し、言い直す。同じ身分のアリシアに対しての言葉遣いもそれなりのものだが、アリシアとは親交を深めてそれなりに仲良くなった結果だ。ミハエルとはまだそんなに仲良くもなく、親しくなろうとも、心の距離を近づけたいとも思っていない。
「どういうことですか? それは私の下につくということですが……自分の言葉の意味が分かっていますか? あなたはプロテスルカの皇子でしょう?」
「わかっている! それでも僕は君の傍にいたいんだ!」
言い方……。
こいつ……ないとは思うが同性愛に目覚めたんじゃなかろうな……そうだとしたら俺にそっちの趣味はないのでお断りなのだが。
「理由がよくわからないのでお断りさせていただきます。あなたの性格はよく知っている。人の下にいることをよしとしない人間だ。自分が上に立たないと満足ができない人間だ。私の下になんていたらストレスで死んでしまいますよ。お考え直しください」
では、と再び背を向けようとしたが、ミハエルが俺の袖を掴む。
「待ってくれ! 頼む、今までの僕はそうだったかもしれないが……これからは違うんだ……!」
すがって来る。
その必死の意味がわからず、どうしても気持ち悪く感じてしまう。
「どうしてそこまで生徒会に入りたがるのです? あなたは本当の理由を隠していませんか?」
「…………」
目を逸らす。
隠しているようだ……じゃあ、尚更お断りだと袖を掴む手を振り解こうと手を上げたが、
「待ってくれ……! わかったよ! 本当のことを言うと……アリシアの傍にいたいんだ」
なるほど……よくわかった。
「そうですか。あなたの気持ちはわかりますが、以前あなたがしたことを考えるとアリシア王女の傍にこれ以上あなたを置くわけにはいかない。だから……」
「わかってる! だから、君の傍にいると言ってるじゃないか! 僕はもうアリシアと恋愛関係になりたいとは思っていない……といえば嘘になってしまうが……彼女の気持ちを最優先しようと思ってる! 彼女が僕を拒絶するのなら受け入れる。だけど、その前に謝りたいんだ! だけど、その勇気が出ない……だから、君の傍にいて、アリシアに対する償いをしながら……いつかちゃんと謝罪をしたいんだ……」
目線を伏せながら、恥ずかしそうに言っているミハエルだったが、その言葉に嘘はなさそうだった。
どうしたものか……。
彼の今の言葉は心の底から出た本心だろう。だが、心変わりというものを人はしてしまう。アリシアの傍にい続けることでまたいつ暴走するかわからない。
ジッと彼の様子を見つめ悩んでいると、ミハエルは恥ずかしそうに上目遣いで俺を見て、
「それに、君が傍にいるのなら、万が一僕が暴走してくれた時に正してくれるだろう? 前の時の様に……なんだかんだで、叱ってくれて、間違ってるって気付かせてくれて……僕は嬉しかったんだぜ。こんなことを真正面から言うのは恥ずかしいが……君なら僕を正しい道に導いてくれるって信じてるからさ……」
それは買いかぶり過ぎだと思うが……まぁ、彼の言葉には一理あるな。常にアリシアといるときは俺が見張り続け、何かあったら止めればいい。
それに、これから更生しようとしている人間の手を拒絶しては、あまりにも可哀そうだ。
「わかりました。受け入れましょう」
「————ッ! いいのか⁉」
頼んでおきながら、本当に聞き入れてくれると思っていなかったようで、驚いた顔を見せるミハエル。
「ええ、生徒会も前の役員を辞めさせ、一新しようと思っていたところです。人手が増えるのは心強い」
「そ、それは丁度良かったな! 僕はエリートだからな、使えるぞ!」
自分の胸に手を当て、誇らしげに言うミハエル。
まぁ、確かに王族としてかなり高いレベルの教育を受けているから、それなりに期待はできるだろう。恐らく字が綺麗だろうから、書記というポジションがちょうどいいんじゃなかろうか。
その後———。
俺はミハエルを部屋の中に招き入れ、新しい生徒会役員であるロザリオとアリシアに紹介した。
ミハエルを生徒会に入れると言ったら案の定アリシアは嫌な顔をしたが……そもそも彼女は生徒会に入っていない。ただ、何となくこの部屋にいるだけだ。
「遅れました……申し訳ありません、お兄様」
そうこうしているとルーナが生徒会室にやってきた。彼女は現在部活との掛け持ち状態であるので、かなり多忙なのだ。妹だから生徒会を手伝ってもらっているが、そのうち負担を減らさなければならないな……。
「丁度良かった、ルーナ。ロザリオとミハエルだ。今日から庶務と書記として生徒会役員に加えることになった」
「はぁ……お二人がですか?」
二人の少年を交互に見やるルーナ。
「ああ、ルーナは現在生徒会副会長に任命している。ロザリオ、ミハエル。挨拶をしておけ」
「ええ、宜しくお願いしますルーナさん」
「……宜しくな、シリウスの妹」
偉そうな俺の態度に、ロザリオは素直に従うが、ミハエルはまだ若干の抵抗があるようで、渋々といったようすで挨拶をする。
「はぁ……お二人ともよろしくお願いします……それにしてもいつの間にか凄いことになりましたね……あのミハエル様がお兄様の下につくとは……これでは……その……」
「ますます、シリウスの力が強くなるな」
言いづらそうにしているルーナの横から、アリシアが言葉を付けたす。
そうか……俺はガルデニアの王女を弟子にして、プロテスルカの皇子を部下として従えていることになるのか……元々この学園では絶大な権力を持っていたが、更に力を増していることになる。
「そんなに権力をつけて、どうするつもりだ? 師匠?」
からかうようにアリシアが言う。
そうか、そうだな……ここまで絶対的な権力を手に入れた。手に入れてしまったのだから、もう……。
「決まっている。これから現れるであろう、大いなる脅威に備えるのだ」
俺が殺されずとも———どうとでもできる。
彼ら、彼女らの協力があれば、この世界に眠るラスボスたちを———必ず倒すことができるだろう。
俺は、そう信じている。
俺に信頼の眼差しを向けるアリシアのおかげでそう確信することができた。
「———よし、では、これから生徒会会議を始める!」
さぁ、やろう。
俺だけが知る、大いなる脅威ラスボスに備えるための準備、そしてこの学園生活を面白おかしく過ごすためのイベントを企画するための会議を———。
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