第68話 決着
「……殺せって」
「さぁ———やってみろ」
戸惑っているロザリオに早く俺を殺すように促す。
彼は剣と俺を交互に見比べて、躊躇っているようだが俺は既に覚悟はできている。
もう、前世で一度死んだ身だ。もう一度死ぬとしても、来世があると思い込めば怖くはない。本当にあるのかどうか、確証は持てないが、こうしてシリウス・オセロットとして転生した実績があるのだ。次もきっと転生できる。
今度は罪を犯していない、綺麗な主人公として転生できることを祈りながら、
「———
中々俺を殺そうとしないロザリオを急かすが。
カランカラン……ッ。
「———む?」
「できるわけ……ないじゃないですか……」
ロザリオは鉄の剣を投げ捨てた。
「……僕の完敗です。ズルい人だ会長は……ここまでされて、あなたを殺すなんてできるわけがないのに」
そう言いながら、ロザリオは「ハハ……」と乾いた笑いを浮かべた。
「いや……ちょっと待て……そう言うのはいいから、試しに
「……結局は僕も人のことは言えない……悪だったってわけですね……自分の欲を満たしたかった悪でしか……また、会長に教えられてしまいました」
満足げに空を見上げる。
「いやいやいや……何を浸っているロザリオ、強くなりたいんだろう? なら、
「……? どうして会長を殺す必要があるんです?」
真顔で尋ねられる。
「貴様の中には貴様の想像もつかないような凄い力が眠っているのだ。それは
「…………意味が分からない」
魔剣から解放された爽やかな表情が消え失せ、ひたすら困惑の表情をロザリオは顔に貼り付けていた。
「何で……僕の力と会長が関係しているんです? もしも会長の言うように強い力があるのだとしても、会長の言葉で僕が勝手に強くなったように、僕がまた、自分自身で何とかして目覚めさせますよ。誰かの犠牲のもとに成長するなんて、それこそ魔剣に魅せられていた時の自分に逆戻りじゃないですか……」
折れた魔剣を見つめて肩をすくめる。
「いや、でも
「? さっきから何を言っているのか要領を得ないんですが……もしかして今までの罪滅ぼしで死のうとしてるんですか?」
「いや……そうではないが……似たようなものだ」
「アハハ……! 会長も可愛らしいところがあるんですね……!」
イラっとした。
そんなセリフ、男のお前には言われたくないよ。
「だけど、死ぬ必要まではないんじゃないですか……僕はあなたに〝仕返し〟はできなかったけど、それ以上のものを貰いましたから……ただ、罪を償えばいいだけなんじゃないですか? 僕も、そうします———バサラ君に、ティポとザップに謝ってきます」
「罪を……償う?」
「罪を犯したからって言って、必ず死ぬ必要もないでしょう? 向き合えばいい。逆に向き合わずに死ぬのは〝逃げ〟じゃないですか?」
「————ッ!」
苦笑するロザリオ。
俺はハッとし、周りを見る。
スタジアム中の生徒たちは———沸いていた。笑顔で手を上げ、「会長~!」「ロザリオ~!」と歓声を送っていた。
恐らく、彼らは意味が分かっていない。意味なく歓声を上げている。
雰囲気に飲まれているだけだ。
ロザリオの持っていた魔剣が折られ、邪悪な雰囲気がなくなり、俺とロザリオの一騎打ちがロザリオの敗北で終わった。その展開のエンタメ性に沸いているだけ、どちらが良いもので悪者なのかは関係なく、ただ単純に面白かったから沸いているだけだ。
それでも———何だか、俺が、シリウス・オセロットが認められているような気がした。
「フッ……!」
そうだな。確かにそうだ———ロザリオ、お前には教えられた。
お前は腐っても、この世界の主人公なんだ。
俺は拳を天高く上げ、
「———〝悪〟は滅びた!
カァ~~~~~~~~~~~ンッッッ‼
「ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア~~~~~~‼」
決闘終了の宣言をすると、歓声が会場中を震わせる。
「———
観客に向き合うとどうも俺は調子に乗って言い過ぎてしまう癖がある。
決闘開始前、場を盛り上げるために言った「公開処刑」というワード……俺を悪役に見せるために大げさなことを言ったのだが、結局、俺も死んでいないし、ロザリオも死んでいない。だから、盛り下げないためにそれなりの理屈を作る必要があった。
それゆえの奴隷扱い。
だが、ロザリオは受け入れ、執事の様に恭しく俺に一礼をしている。
「ワアアアアアアアアアアアアッッッ…………!」
生徒たちの歓声に包まれている———この中にはいまだにシリウス・オセロットを恨んでいる人間もいるだろう。ただ流されるままに嫌々ながら歓声を上げていることだろう。
そういった人間に対して、死んで償うのではなく、これからは正面から向き合っていこう。
シリウス・オセロットの罪は消えないが———まだ、この世界でできることはあるみたいだから。
「ししょ~~~~~~~‼」
全てが終わった。
アリシアが手を振りながらこっちに向かってきて、ロザリオもリングを降りて、アリシアに一礼し、横を通り過ぎていく。
主人公とヒロインの関係性が結局は他人で終わってしまった。
「フッ……まぁ、とりあえずはこれで良いか」
これからはルートだとか、イベントだとかは関係ない。
俺なりに道を歩き、これから来る困難も何とかしてみせる。
ロザリオもアリシアも協力してくれたら、きっとこの世界を襲うラスボスも———どうにかなるとは思うから。
現に、
「そういえば……」
魔剣を回収しないとな、と思い出して振り返ろうとし、
「———師匠ッッッ‼」
アリシアの緊迫した声に、動きを止めた。
「ん?」
ドスッ………。
胸が———熱くなる。
「え、あ……」
俺の……胸の中心から影が伸びている。
魔剣の———影だ。
先端には黒い、折れた刀身。
ゴポッと、口から血があふれ出る……。
「ししょぉぉぉぉぉぉぉ————————————————‼」
魔剣・バルムンクがひとりでに動き出し、俺の胸を貫いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます